北朝鮮に詳しい韓国人研究者(広島市立大学)から「北朝鮮人権改善のための課題」をテーマにした講演を聞いた。韓国で、1千人を超える脱北者と会ってインタビューし、広島市内に脱北者を招いて討論会まで開催する研究者である。北朝鮮社会の実像が生々しく聞けた。

 韓国人研究者は、こういう。北朝鮮では配給制が崩壊し、市場に頼らなければ食っていけない生活を強いられている。貧富の格差、都市部と地方の格差が広がっている。地方は、半世紀以上も開発から置いてきぼりを喰っている、と。

 

 いずこも同じ、金がモノいう社会。ワイロを渡せば、悪事を働いても無罪放免される、富裕層にとっては居心地のよい北朝鮮社会だが、庶民(人民)に向けては社会監視及び統制強化が進んでいる。

 北朝鮮人権に関する調査委員会(COI)によると、思想・表現及び宗教の自由侵害、差別はもとより、移動および居住の自由侵害、生命権を脅かす苛酷な社会となっている。

 それがために脱北者(現在3万4千人超)のなかに、軍人、外交官の脱北が増加する傾向が表われている。

 

 北朝鮮国内の人権侵害問題として、意外なる法律があることを知った。ここまで国民は、縛られているのかというのが、印象である。以下の、3法である。

 (1) 反動思想文化排撃法=2020年12月に開催された最高人民常任委員会第14期第12回総会で採択され、韓国映画や録画物、図書、歌、写真などを見たり、聞いたり、保管した者、またこれらを流入、流布した場合は5年以上、10年以下の労働教化刑に処すると規定している。また、コンテンツを見たり、聞いたりした場合よりも流入・流布に加担した場合は量刑が重くなっており、最高で死刑に処せられると規定している。

 (2) 青年教養保障法=2021年9月29日、最高人民会議第14期第5回会議で採択され、外部と資本主義文化に親しんでいる青年を対象として、思想、精神状態を改造する内容と、青年たちの間で表れている反社会主義、非社会主義思想を除去し、党と首領の指示通りだけに考えて行動するように教育すると規定している。

 (3) 平壌文化語保護法=傀儡(韓国)の言葉を使う現状を根本的に無くし、非規定的な言語要素を排撃し、社会主義的言語生活の気風を確立し、平壌文化語を保護するため規定した法である。韓国の若者言葉やKポップなどの大衆文化の流入を阻止し、体制を引き締める狙いがあると見られる。

 

 北朝鮮の核開発は、政権が人民の人権を蹂躙し、外部情報を統制することで可能となっている。しかし、IT社会である。スマホの広がりによって、情報統制に亀裂が入るのは目に見えているのではないか。今後も、北朝鮮の人民をだまし通すことは可能か。

 

 8・15光復節で、尹錫悦大統領は、政権の対北政策として「統一ドクトリン」を提示した。①北朝鮮人権の実情を暴き、伝える②北朝鮮人権国際会議、③北朝鮮自由人権ファンド(乳幼児、女性、高齢者、障害者に対する人道支援)などである。

 このような揺さぶりが、北朝鮮の人権改善に結びつくのであろうか。