韓国の女性史。その草分け的存在の成律子(ソン・ユルチャ)氏の『朝鮮女人曼荼羅』(筑摩書房)は人物で綴った女性史で参考になる。ほかに、『王妃たちの朝鮮王朝』(尹貞蘭著・金容権訳、日本評論社)、稗史小説として知られる成俔(ソンヒョン)の『慵斎叢話』(作品社)がある。さらに『韓国フェミニズム・日本』(斎藤真理子責任編集、河出書房新社)は、女性作家の作品、その主張をまとめている。

 

 現代社会で、女性たちが直面する問題を知るにつれ、韓国には韓国特有の問題があることが分かる。作家チェ・ウニョン氏の次なる言葉は、それを象徴的に物語っているように思える。

 

「私はフェミニズムに触れ、傷つきながらも自由になった。家父長制に基づく正常な家族というイデオロギーから自由になった。」

 

 これは518年続いた朝鮮王朝が国教とした儒教の残滓であろう。形骸化したと思われる、その価値観が未だ現代女性を呪縛しているのである。

 ジャーナリスト李圭泰(イ・ギュテ)が書いた『韓国人の意識構造』(東洋図書出版、正・続の2冊)の中に、女性の話がたくさん出てくる。豊富な民俗学的資料を駆使して描いているため、いろんなタイプの女性が出てくる。それを通して、日本と韓国の国民性も比較できる好著である。

 

 『続韓国人の意識構造』に、李圭泰は、こう書いている。

「(韓国の)女性の地位は向上し、また反面、向上しただけ女性の地位が抑圧されてきたという反証にもなり得る。言わんや、朱子学の女性軽視のモラルで息がつまってきた韓国女性にとっては―。(中略)確かに韓国女性は抑圧されて生きてきた。そのことを否定することはできない。だが、今日見られる様々の韓国女性の社会的現象は、歴史的過去の中で必ずしも抑圧され続けたとは解釈できない事実にぶつかるのである」

 

 李圭泰は、その事例を民俗的資料のなかから丁寧に洗い出し、次のような感慨をいだく。

「抑圧された伝統以外に別の伝統があったのではなかろうか。抑圧された伝統は、少数の階級社会に極限されたものであってその他の多数の庶民社会では、それとは別な習俗があったのではなかろうか、という疑問が生まれてくる」

 李圭泰は韓国史を古代から近現代に至る事例を一つ一つ紹介しながら、多様な女性像を探っていた。そのため、 韓国の女性史を知る上で、とても参考になる。