釜山の留学時代を通して、また韓国ドラマを見ていて、韓国人の気性の激しさにあ然とするときがある。何が原因なのか知れないか、突然激する。口論の場で、激しく言い合う。自己主張が強い国民気質が、そうするのか。我を通すことが、こういう現象を起こすのだろうか。

 『線を越える韓国人 線を引く日本人』(飛鳥新社)の著者、文化心理学者のハン・ミン氏は、韓国人の特性について、こう書いている。

 

 「一言で要約すれば、『インフルエンサー』、つまり他人に影響を与える人です。韓国人は誰かが自分を無視すると自尊心が傷つき、自分の心を分かってもらえないと火病(ファビョン)になります。現実の自分の姿と自分の考える姿とに差異があればひどく不快に思い、その差異を埋めようと必死に努力しますが、それができないとなれば虚勢を張ってでも自分の影響力を誇張します。韓国に声の大きな人が多いのも同じ脈絡ではないかと思います。」

 

 火病は韓国固有の精神疾患で、精神医学の基づき、こう説明している。

 「衝撃的なことによって生じた怒りまたは憤怒を抑制した結果にあらわれる慢性的な心因性疾患病である。消化不良と頭痛などを誘発する一般的な神経症とは異なり、胸が詰まるような感覚、熱、喉と胸に塊が生じるなどの身体的症状を同伴する。」

 

 名匠イ・ビョンフン監督が製作した朝鮮王朝シリーズのドラマは、宮廷を舞台に激しい政争を描いた点に特徴がある。そのなかで、気絶・失神する場面が必ずといっていいほど現れる。その症状は、烈しい感情を露わにした直後であり、自分の思いが叶わない、届かない場面のなかで引き起こされる。

 

 火病は『朝鮮王朝実録』にも記録があると、ハン・ミン氏は言っている。粛宗(スクチョン、第19代王)、思悼世子(サドセジャ、英祖の息子)、恵慶宮洪氏(ヘギョングンホンシ、正祖の母)、明成皇后(ミョンソンファンフ、高宗の妃)らが患ったとある。

 ここに上げられた国王、王妃、世子、国王の母は、平穏な人生とは無縁だった。時代が、そうさせた。政争に巻き込まれて、心身の不調を引き起こしている。

 

 どう世のなかに対していくか。「ケンチャナ?」。韓国でよく聞くこの言葉には、「関係ない」「気にならない」というニュアンスあると、ハン・ミン氏はいう。「ケンチャナ?」には、「気にならない」の意がある。

 ということは「ケンチャナ?」には、社会からわが身を守りなさいという温かい配慮が籠っているのだろうか。釜山留学時代、最も数多く聞いた言葉が「ケンチャナ?」だった。