路線バスを乗り継いだ旅を、好んでする人もいる。目的地に急ぐのではなく、その途中の景色を楽しみながら、旅をする。時間に追われる人には、到底望めそうにない。しかし、時間があっても、このような世界に足を踏み入れようと思う人は少ないのではないか。

 先日、北九州から横須賀(神奈川県)まで、フェリーの船旅を楽しむために、わざわざ関東から飛行機(もしくは新幹線)で北九州市に来た人を紹介するテレビ番組を見た。日頃味わえない海路の旅を楽しむマニアが少なからずいるようである。しかし、フェリーの乗るため、片道は飛行機や新幹線に乗るとは、意外であった。なぜ、往復、フェリーに乗らないのか。安価な旅ができることも船旅の魅力ではないかと思うが…。

 

 海外旅行に行ったとき、こう思うことがある。見学したその先にある、話に聞いた気になる場所に入り込めないか、そして1日でもいい、ゆっくり滞在できないか、と。その一つが、東海に面した江原道の、小さなまちである。

 

 江原道の襄陽(ヤンヤン)。その周辺にある海岸に面した寺、洛山寺(ナクサンサ)に行ったことがあるが、その北側は未知の世界である。襄陽の北側にある束草(ソクチェ)がドラマで出て来た。『青い海の伝説』である。最終回にチョン・ジヒョン演じる人魚と天才詐欺師(のちに新任検事に)が、束草の海岸線を車で走っているシーンがある。波しぶきがうちあがる、海岸線。行ってみたい、と思わせる絶景である。

 

 江原道は名勝の地が多くことが、関東八景からも分かる。その八景の一つに、束草よりさらに北側にある、高城(コソン)の三日浦(サミルポ)が入っている。この地には、昔ながらのゆっくりした生活が楽しめるスローライフの里、旺谷村(ワンゴクマウル)がある。

 

 韓国政府が保存すべき民俗村に指定しているが、この村の成り立ちが興味深い。二君にまみえず、仕えず、といった教えを守った高麗の儒学者たち。高麗を倒し、朝鮮王朝を建国した李成桂(イソンゲ、太祖)は、国づくりに高麗の遺臣の力を借りようとした。呼び掛けられた彼らは、高麗に忠誠を誓っていることから、これを拒否し、辺境へと隠れるように移り住む。

 旺谷村には、江陵(カンヌン)から咸(ハム)氏一族が移住することによってして、村が形成された。その後、江陵の崔(チェ)氏一族も移って来て、村を盛り上げようと、咸と崔の両氏族は、仲もよかったのであろう、団結して、豊かな村づくりに励み、よき伝統をつくりあげてきた。