「田代和生先生(慶応義塾大名誉教授)の講演、長いね。1時間の予定だったのでは」。上野駅から近い場所にある、台東区役所のホールで、後ろの席で隣り合わせに座った「21世紀の朝鮮通信使友情ウオークの会」会長の遠藤靖夫さんに、こうささやいた。次の出番が、遠藤さんである。「いいよ。長くなったら、俺の話は簡単で済む」。1時間半、田代先生は大学で講義をするように話した。

 この大会は、朝鮮通信使ゆかりのまち全国交流会東京大会という。ゆかりのまちから官民の代表70人ほどが集まっている。最も多い参加集団は、朝鮮通信使友情ウオークの会であった。翌日の江戸城を巡るフィールドワークの案内役にもなっている関係で、関東各地から集合していた。

 

 遠藤さんは、講演でこう語る。 

「韓国の食を味わいたい方、通信使ウオークにぜひとも参加ください。韓国では、朝・昼・晩の3食とも食堂で食べます。都合30食をたべることになる。どこに行っても多人数が入る店がある。60食すべてメニューが違うから、通信使ウオークは韓国の食文化を触れる最高の場ですね。ウオークの途中、いろんな出会いがある。差し入れがあったり、通り過ぎたトラックが戻ってきて『これで何か買って食べて』とお金をくれたり…。情の厚さを感じる。」

 

 朝鮮通信使日韓友情ウオークはソウル景福宮前を4月1日に出発して、韓国約500キロ(ソウルから釜山)。日本約700キロ(大阪~東京)を歩き、皇居前に5月23日にゴールする。合わせて約1200キロ。日韓友情ウオークというように、日韓合同で歩くところに意義がある。遠藤さんが「日韓親善にも通じる」というのは、そこにもある、

 

 釜山文化財団の李美連代表らも参加していたので、遠藤さんのこの話を聞いていたとしたら、胸にジーンと来るものがあったのではなかろうか。

 

 「通信使ウオークで沿道の自治体が、ウオーク参加者を夕食会に招待してくれる。料理は豪華である。このもてなしは、ウオークを重ねる度、招かれる回数は少なくなった。費用がかさむからね」(遠藤さん)というが、いまだ健在である。2019年(第8次通信使ウオーク)、東莱区(釜山市)の招待夕食会がいまだに忘れられない。食べながら、歓談のひと時を過ごせて、お腹はいっぱい、心も満たされた。

 

 東京大会では、上野公園で朝鮮通信使再現行列があり、その出発地点には、通信使友情ウオークの会のメンバーがきていた。李性任さん。ソウルから東京まで、会の旗を掲げ先頭に立って歩いた健脚の女性で、共同通信がインタビューして加盟各紙に配信した。各紙には話題の「ひと」欄の紹介されていた。

 そのほかにも、顔馴染みの方々がいる。朝鮮通信使ゆかりのまち全国大会に、通信使ウオークの会員がこれほど多く参加したのは、やはり身近な東京大会だったためであろう。会員の多くは、関東地方に住んでいる。

 

  通信使行列が行われた上野公園では、韓国フードフェスが開催され、大変な人出で賑わっていた。その一角で開かれていた、通信使ウオークの写真展は元朝日新聞カメラマンの金井三喜雄さんの奮闘劇をひしひしと感じた。ソウルから東京まで約1200キロを歩き、随時撮影した労作である。

 

 2025年は、大阪万博の年にあたり、「第10次21世紀の朝鮮通信使日韓友情ウオーク」は、3月9日ソウル出発、4月30日東京到着の日程で実施される。