済州島は、本土側(島の北側)よりも、その反対の南側の方が、自然が美しい。リゾート地としてホテルに宿泊する客のお目当ては、ギャンブルであるカジノである。その姿は、イ・ビョンホン主演のドラマ『オールイン』で描かれている。韓流ファンならば、ロケに使った教会が残り、名所になっていることをご存知のことであろう。 

 

 済州島はヨン様ブームの後、『宮廷女官チャングムの誓い』で、さらに広がりをみせる。冬ソナは、もっぱら女性層にうけた。チャングムは男性層を巻き込んだ。物語の面白さはいうまでもなく、主役を演じたイ・ヨンエの魅力も大きく影響した。そのロケ地の一つが済州島の民俗村にあった。

 ドラマでいえば、済州島が舞台となるのは『チャングムの誓い』『タムナ』『キム・マンドク』『アイリス』などが挙げられる。どのような物語なのか、それは省くが、済州島はドラマには欠かせない島である。

 

 済州島に縁のある人物には暴君といわれた光海君(朝鮮王朝15代王)がいる。クーデターで王位をはく奪され、済州島に流され、そこで亡くなっている。 また、済州島の女商人の物語『金萬徳(キム・マンドク)』は、実在の人物を主人公にしている。島が飢饉に陥ったとき、金萬徳は米蔵を開けて、民衆を救った。ときの国王・正祖は彼女の行いを称え、宮中に呼び出して、その美挙を称えた。

 こういう麗しい話がある反面、済州島には政争に敗れた両班官僚が度々流された。済州島は罪人の島でもあった。それを知るには、昔、商船が入った港や、流人となったが島で尽くした儒学者の碑、観徳亭を中心にした済州牧官衙など、旧済州市を歩けばいい。

 

 太平洋戦争末期、日本軍は済州島を要塞化した。「抗日記念館」を韓流ツアーを企画して訪ね、その歴史の一端に触れたことがある。日本人観光客が行くこともない記念館である。高宗時代の大韓帝国から韓国併合にいたる近代史を描いていた。

 戦後は李承晩政権下の1948年に起きた「四・三事件」で、朝鮮労働党ゲリラ隊は日本軍が残した武器を活用して、攻撃してくる韓国軍と米軍に対抗した。祖国統一を阻む南単独の選挙に反対して、武装勢力が蜂起した。この事件による抗争は1年余りも続き、3万人にも及ぶ済州島の島民が惨殺された。

 

 大阪には済州島出身者が多い。これは、戦前から植民地時代にかけて、済州島と大阪間に定期航路が開設され、フェリーの往来があったことが大きいが、これに加えて「四・三」事件の影響もある。

 その事件に触れることは、当事者にとって容易なことではない。詩人・金時鐘(キムシジョン)先生。1929年生まれ。現在、奈良県在住。1948年、済州島4・3事件を逃れて、命がけで海を渡った方である。かつての悪夢を長く封印していた金時鐘先生が、その扉を押し開けるようになったのは、2000年頃でなかったか。私の処女作『李朝国使3000キロの旅』の版元が持参してきた読書新聞に大きく紹介しているのを見て、「やっと」という感慨を抱いた。それほど、当事者には重い現実であった。

 

 済州島は、対馬ともつながっている。対馬の海岸に、四・三事件の遺体が漂着したと、目撃者の対馬新聞社社長の明石雅操氏から生前、自宅で話を聞き、厳原港で撮影した写真も見せてもらったこともある。