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このほど、もと光源氏メンバーの大沢さんの親子関係不存在確認の訴えが認められ、16年も一緒に暮らしてきた子と大沢さんは親子ではないと確認されました。

喜多嶋さんは奔放にも、離婚後も、第三者との間にできた子を大沢さんに育てさせていたのです。喜多嶋さんの母親は確か内藤洋子さんといって、昭和の大スター(アイドル)であったように記憶しています。

さて、大沢さんの親子関係不存在確認の訴えは、DNA鑑定による生物学上の親子関係を重視するもので、 身分関係の法的安定を重視すべきとする去年の最高裁判例に反するのではないか?

このような疑問を持たれた方も多いと思いますので、これをできるかぎり分かりやすく解説してみましょう。

嫡出推定に関する現行民法の規定は、妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と推定し(民法772条1項)、夫において子が嫡出であることを否認するためには、嫡出否認の訴えによらなければならず(同法775条)、この訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない(同法777条)とされています。

そして、このような嫡出推定に関する規定があることに伴い、父性の推定の重複を回避するための再婚禁止期間の規定(民法733条)及び父を定めることを目的とする訴えの規定(同法773条)が整備されています。

本件(身分関係の法的安定を重視すべきとする最高裁のほうの事件)にあてはめると、本件の子は、妻Aと夫Bの婚姻中にAが懐胎し、Aから生まれた子であるため、民法の定めを素直に適用すれば、Bの嫡出子と推定されます。しかし、Aには愛人Cがいて、その子はCとの間にできた子だったのです。Aもまた奔放な奥様でした。

DNA鑑定によればBと血縁関係がない本件のような場合であっても、民法の規定をストレートに適用すれば法律上の父はBであり、子は推定される嫡出子ということになります。このような場合に子がBの嫡出子であることを否定するためには、原則的にはB自身が嫡出否認の訴えを、子の出生を知ったときから1年以内にしなければなりません。

これに反する、最判昭和44年5月29日等の判決は、「民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について、妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから、同法774条以下の規定にかかわらず、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当」である旨を判示しています。

しかし、本件では、Aの懐妊当時、AとBは夫婦として同居していた実態があったため、このような例外的な場合には該当しませんから、この判例が適用される事案にはあたりません。

このような判例(夫の長期不在中などにできた子は嫡出推定を受けないという判例)があるというのは、またまた自由奔放な奥様がいて、夫以外の男性との間に子ができてしまい、裁判沙汰に発展して最高裁まで争われたということが分かります。

ところで、原審(高松高裁)は、以下のように判示し、当該訴えの適法性を肯定し、Bと子の間の親子関係の不存在確認請求を認容すべきものとしました。

つまり原審は、「嫡出推定が排除される場合を妻が夫の子を懐胎する可能性がないことが外観上明白な場合に限定することは、相当でない。民法が婚姻関係にある母が出産した子について父子関係を争うことを厳格に制限しようとした趣旨は、家庭内の秘密や平穏を保護するとともに、平穏な家庭で養育を受けるべき子の利益が不当に害されることを防止することにあると解されるから、このような趣旨が損なわれないような特段の事情が認められ、かつ、生物学上の親子関係の不存在が客観的に明らかな場合においては、嫡出推定が排除されるべきである。上告人と被上告人との間の生物学上の親子関係の不存在は科学的証拠により客観的かつ明白に証明されており、また、上告人と甲(元妻)は既に離婚して別居し、被上告人が親権者である甲の下で監護されているなどの事情が認められるのであるから、本件においては嫡出推定が排除されると解するのが相当であり、本件訴えは適法というべきである。」としたのです。(上告人、被上告人という呼称は上告審に当てはめたものです。)

まぁ、これはこれなりに尤もな意見であると思われます。

しかし、最高裁はこれを是認せず、本件の訴えを不適法である(本件では親子関係不存在確認の訴えはできない)として却下しました。理由は以下のとおりです。

「民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには、夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる。そして、夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、夫と妻が既に離婚して別居し、子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。 このように解すると、法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが、同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。」

すなわち、 民法第772条には
1項 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2項 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
と規定され、子の身分関係の法的安定を保持する必要から、出生が2項期間に該当する子に限り、父は出生を知った日から1年以内に嫡出否認の訴えを起こすことができるのみで、他に父子関係を否定する方法を設けるべきではないとしたのです。

大沢さんのケースでは、2項期間に該当しない200日目に生まれた子であるため嫡出推定が及ばす、かつ生物学上の親子関係も否定されたため勝訴できたものです。

なお、身分関係の法的安定を重視すべきとする最高裁の事件のほうは、嫡出推定はあくまでも推定であり、推定は証拠をもって覆すことができるという法律上の常識があること、また親子関係不存在確認訴訟は、確認の利益が認められる限り、誰からでも、また民法777条の1年の提訴期間の制限に服することなく提起できること(判例)、ケースバイケースで子の幸福を優先させるべきであること等を考慮すると、どうも釈然としないところがあります。

この事件は、上述した通り、いわゆる不倫をした妻Aが不倫相手との間に子を作り、その子を連れて家を出て、不倫相手Cと暮らしながら、夫Bと子の間には親子関係が存在しないことの確認を裁判所に求めるという身勝手極まりないものでした。Cは、Bから妻子を奪ってそ知らぬ顔をしているという背景もあります。

1、嫡出推定はあくまでも推定であり、推定は証拠をもって覆すことができる。
2、親子関係不存在確認訴訟が、確認の利益が認められる限り、誰からでも、民法777条の1年の提訴期間の制限に服することなく提起できることには合理性がある。
3、ケースバイケースで、子の幸福を優先させるべきである。

というのが多数意見であると思われますが、判決文はどうとでも書けるのです。本件は、AとCに対し、「そんな非道は許さない!」と最高裁が正義の判断を下した?というのは考え過ぎでしょうか。