こんにちは!

 

劇団四季「ひばり」の初日、観劇記録です。

創立70周年記念の節目の年に約11年ぶりの上演でした。

辛辣な喜劇作品を多く手掛けたフランスの劇作家ジャン・アヌイの戯曲で、1957年の初演以来、周年記念などの折に大切に上演されてきた劇団四季の珠玉のストレートプレイです。

歌やダンスのない演劇は少し苦手な私でも興味深く見ることの出来る作品のうちのひとつ。

 

私が過去に「ひばり」を観劇した際のヒロイン・ジャンヌはいずれも野村玲子さんでした。

今回「ひばり」を今の四季のキャストで見られることはこのうえない喜びです。

藤野節子さん、野村玲子さんに続く3人目のジャンヌを演じる五所真理子さん、本当に楽しみにしていました。

Wキャストのシャルル7世は、この日は田邊真也さんでした。

 

【初日のキャスト】

ジャンヌ  五所真理子

コーション 道口瑞之

宗教裁判所大審問官 味方隆司

主任検事 飯村和也

ラヴニュ 鈴本務

ウォーリック伯  阿久津陽一郎

シャルル七世  田邊真也

王妃 小林由希子

アニエス 宮田 愛

ヨランド王太后 中野今日子

ランス大司教 星野元信

ラトレムイ 福島武臣

ライール  金久烈

ボードリクール 勅使瓦武志 

ブードウス 正木棟馬

ジャンヌの父親  林和男 

ジャンヌの母親 大橋伸予

ジャンヌの兄 戸高圭介

死刑執行人 木内和真

シャルルの小姓 近藤合歓

 

【男性アンサンブル】

香取直矢/鈴木貴雅/橋岡未浪

【女性アンサンブル】

秋山知子/佐和由梨/徳山稚子/中川奈々美 /柳 葉奈/山崎遥香

 

後半にネタばれがあります。

これから初見の方はまっさらな状態でご覧になることをお勧めしますので、ご注意を。

あくまで個人の感想です、間違いや勘違いが多々あると思います、よろしくお願いいたします。

 

入場すると既にシンプルなセットが舞台に。
写真撮影OKだなんて嬉し過ぎます。
ちょうどお客様で隠れていますが、舞台中央は円形で中央の階段の上と両端に主要人物の座る椅子が配置されています。
シンプルにして歴史の芳香漂う金森馨さんによる舞台装置と吉井澄男さんによる照明の妙、2階席から見ると、その魅力がよくわかります。
開演前に一度2階席からご覧になることをおすすめします。
 
1431年、イギリスとの百年戦争真っ只中、フランス・ルーアンにて、ジャンヌ・ダルクの宗教裁判が始まります。
神の声を聞いて軍を率いイギリス軍と戦い、結果大きな敗北を負い、宗教的に異端の嫌疑をかけられた19歳の少女ジャンヌ。
 この物語はその裁判の最中に彼女の生涯が演じられる、という劇中劇の形を取っており、誰もいない舞台に三々五々登場人物が現れ、所定の位置に着きます。

これから演劇を見るんだという気持ちが否が応でも高まるオープニングです。
 口火を切るのは阿久津陽一郎さん演じるウォーリック伯、ルーアンの司令官であるイギリスの貴族で、この人が観客の心を掴むかどうかで見る側のテンションも変わってくるのではないと思えるほど重要な役どころ。
過去には山口祐一郎さんや田邊真也さんが演じていらして、重責を全うしてらっしゃいましたが、今回はどなたが?と期待していたところの阿久津さん、その手があったかと嬉しくなりました。
皮肉めいた言葉でフランス法曹陣を煽り、ジャンヌにも影響を与え、かつ颯爽としたその佇まいと存在感、今の阿久津さんが見事にフィットしたウォーリック伯で新鮮な喜びを感じました。
俄然、物語に引き込まれる。
 
ジャンヌが変わるとこうも受けるものが違うのかと衝撃さえ覚えた五所真理子さんのジャンヌ。
 
私は野村玲子さんの「ひばり」しか見ていないので、どうしてもデフォルトが玲子さんになってしまいます。
自身の中にジャンヌを入れ込み、戯曲を忠実に届け、普段からのクールな面持ちが土台にあって、かつ情熱的な迸りも見せるという神秘的なジャンヌ、それが私の感じていた玲子さんのジャンヌでした。
私の中のジャンヌ・ダルクのイメージと重なる部分も多く、女優として冴え冴えとした腕前に毎回感服していました。
 
一方の五所さんは、瞳に宿る光、瑞々しい表情、市井を生きるそのままの可憐な少女、神秘というよりは日常を感じさせる温かさを全面に感じます。
もちろんとめどなく紡がれる膨大な量の台詞は微塵の乱れもなく繰り出されます。
観客、舞台上の人々、すべての視線を集中して浴びる中で、五所さんはジャンヌとして生きていました。
生命力溢れる立ち居振る舞いや、ボードリクールやシャルル7世に対しての軽快な人たらしぶり、ラ・イールへの無垢な友情、過酷な運命の中でのひたむきな神への想い。
後半、改宗を悩み戸惑い、感情を思いきり吐き出すシーンでの目から鼻からの滂沱の泪は、いかに五所さんがジャンヌと同化しているかを物語っていました。
 
無宗教で現代を生きる私にとっては、異端、殉教なんて別世界のこと、ジャンヌや他の登場人物の紡ぐ難しい宗教上の言葉や旧い言い回しはどうしても咀嚼が難しく、時々は睡魔に襲われながら、キャストの芝居の力を味わうのが関の山。
その中に置いても、ジャンヌが無意識のうちに内包している「疑いなき使命と信念」には引き寄せられてしまうところもあり、そのジャンヌの全力が見たくて、そして受ける俳優たちの役へのアプローチを楽しみに観劇に臨んでいます。
 
五所さんの持つ乙女的な煌めきを放つジャンヌ像と、神の声が聞こえなくなってしまったことを嘆く心の折れと止めどない涙で、すっかり五所ジャンヌに寄り添ってしまった私は、「お返しします、永久にジャンヌらしいジャンヌを」と神に決意を放つ、物語の白眉である場面でも心を掴まれました。
今はその、ジャンヌが降りた五所真理子さんを早くまた見たいという思いでいます。
 
そして、順々に自分の役柄を演じる俳優たちが、流れる時間とともにジャンヌとの関わりを演じ始めます。
 
前述したウォーリック伯の阿久津さんの飄々とした中に漂う風格と、他と一線を画す現代的な台詞回しは重い物語の中でも一服の清涼剤のようで、私はこの配役に大拍手。
恋に落ちたシェイクスピア」の時同様、またあの手のイギリス貴族のコスチュームが良くお似合いなんです。
 
ボードリクールを演じた勅使瓦武志さん、重過ぎず軽過ぎず、絶妙な線のキャラクターを持つ勅使瓦さん。
地方官然としながらもどんどんジャンヌに傾倒していく様子と、耳を澄ませると響いてくるペーソスに満ちた台詞力はさすがです、急遽の配役変更だなんて信じられない。
 
強力なキャラクターで開演時から目を引いてしまうシャルル七世に田邊真也さん。
2004年と2012年にウォーリックを演じていて、歳を重ねてシャルル、本当に驚きでしかありません。
そしてがっつりさらって行きますからね。
どうしても田邊さんの知的な雰囲気が漂ってきてしまうので、無気力を装ってるのが明け透けな感じがして、このタイプのシャルルは初めて見たかも。
王妃、アニエス、二人きりになるとどっちにも優しいんだろうなあ、とかバックグラウンドまで想像できる。
もちろん、台詞のべっち節は相変わらずで、本当に言葉がスンと伝わって来るし、五所さんジャンヌとの会話は、軽妙そのもの、躍動感に満ちていて、シャルルの内心の楽しさが見て取れる。
地毛?前髪ありの巻き毛の効果もあって見事に信憑性高い佇まいにも感動しました。
お気に入りの場のひとつが、史実本当にあったと言われる、小姓を身代わりに据えたシャルルの正体をジャンヌが見抜くシークエンスなんですが、小姓役が今回近藤合歓さんだったので、いっそう楽しみでした、合歓さん可愛くも凛々しい。
 
宮田愛さんのアニエス、小林由希子さんの王妃もしっくりと来る並び。
それぞれの美しさ、シャルルに対しての目線の違いが楽しい。
本編に関わりないけれど、流行の帽子、どうしても注目してしまいますよね。
 

戦友ラ・イールとの再会はとても気持ちが弾む場です。

彼の玉ねぎとワインの臭いを「いい匂い!」と言いながら甲冑の上から抱擁、心が通じ合う大好きな隊長とのある晴れた一日。

戦場でもこんな日常があるということ、ジャンヌにもこんな心安らぐ日々があったという検証。

またラ・イールを演じる金久烈さんの鷹揚さと懐の深さ、包まれるジャンヌの心底嬉しそうな安心しきった姿、「ひばり」2度目以降は涙なくしては見られない場となってしまいました。

金久さん、本当に素敵な俳優さんです。

ベル&ガストン時にも感じていたこのお二人のフィット感、ここに極まる。

 

法曹界4人衆、裁判長コーションの道口瑞之さん、難解な宗教的台詞を澱みなく繰り出し、アクション無しで言葉のみでジャンヌ懐柔に挑む姿は圧巻。

後半のクライマックスでは表情もさすがの道口モードで見ごたえがありました。

宗教裁判所大審問官の味方隆司さんは、シャルル七世~ボードリクールときて、今回のこの重鎮。

まろやかな重みあるお声と台詞力、来るべくしてきたさん大審問官。

皆さん仰る「日下さんを感じる声」は比較とかではなく、最大級の賛辞。

飯村和也さんの主任検事は今回鮮烈な印象を残す配役の一人、とにかく若い尖り方がいい、あんなに暴れ検事になるとは。

ルックスが男前だけにもっともっとと期待してしまう自分がいました。

ラヴニュ判事に抜擢された鈴本務さん、ジャンヌに寄り添う役ですが、若さとソフト感と役どころで好感しか持てません。

 

広く知られるジャンヌの火刑シーン、そこで悲劇は終わる、クライマックスがやってきた!と思ったところで、あのボードリクールの後方通路からの「やめろー!

初見時、本当に驚きました。

戴冠式がまだだ!」ってどういう意味?と。

面食らってしまってにわかには落とせなかったのですが、史実は変わらないけれど、この舞台では一番輝かしいジャンヌの時間で締めくくろうぜ!悲しみに満ちた涙のエンディングにはしたくないというアヌイさんの思い。

確かに彼女にはそんな人生の最高潮、神からの命を果たした瞬間があったんだ。

そこを幕切れに持ってくることでジャンヌの奇跡がこの物語の中では悲嘆では終わらない。

受け止め方は人それぞれだと思いますが、初見時のこの驚きがあったからこそ、「ひばり」は私の中でまた見たい演劇となったのだと思えます。

 

初日の緊張感の中、終演、カーテンコールでは五所さんにも涙はなく夢から覚めたような表情。

大拍手の中、淡々と進んだけれど、4回目でスタンディングオベーション。

その時には五所真理子さんしか登場しなかったけれど、終演アナウンスが入っても拍手止まずで、もう一度皆さま揃って登場してくださった。

前を歩くべっちさんのマントを踏まないようにちょこちょこ歩く素の真理子さんが可愛かったです。

 

べっちさんとWキャストのシャルル七世、笠松哲朗さんも楽しみ!

開幕前の降板発表で複雑な思いもありましたが、今は新生「ひばり」が見られる喜びでいっぱいです。