鬼平犯科帳・血頭の丹兵衛~池波正太郎の三大シリーズ・鬼平犯科帳をたしなむ~ | 池波正太郎・三大シリーズをたしなむ

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血頭の丹兵衛・池波正太郎の鬼平犯科帳をたしなむ

 

本日は、鬼平犯科帳1巻第3話「血頭の丹兵衛」のあらすじや見どころを紹介します。江戸市中で起きた凶悪な強盗事件。犯人は血頭の丹兵衛一味とされるも、その頭はにせものの可能性が…

 

あらすじ1)

小川や梅吉一味の逮捕後、長谷川平蔵は火付盗賊改方を解任させられた。

 

その背景には、平蔵の働きぶりに目をつけていた、老中・松平定信の意向があった。各地で起きた天災や飢饉により、人々の生活は荒れるばかりだ。幕府の政治も不安定さが見られる中、松平定信を中心にさまざまな政策が打ち立てられていた。

 

一方、火付盗賊改方の長官には大崎源四郎が就いたものの、神出鬼没の盗賊・血頭の丹兵衛に頭を悩まされていた。

 

丹兵衛に押し入られた商家では、主人夫婦や奉公人が皆殺しにされ、盗賊改めが駆けつけた時には凄惨な光景が広がっていた。このような手荒なやり口は「急ぎ盗(はたらき)」と呼ばれ、突発的な押し込み強盗だ。

 

江戸では立て続けに血頭一味による血なまぐさい強盗事件が起き、大店の商家だけでなく豪農の家も狙われている。このまま大崎組に任せていてはらちが明かない。そこで、長谷川平蔵を盗賊改めの長官に戻し、血頭一味の逮捕をめざそうとした。

 

十月二日。平蔵は五か月ぶりに清水門外の役宅へ戻ってきた。役宅の牢屋内には小房の粂八が待ち構えていた。平蔵の意向で刑が延期されたものの、長官が変わったことでいつ処刑されるか分からない身となった。

 

しかし、平蔵は粂八を密偵として働かせることを考えており、役宅を去る前、後任の大崎へ粂八の身柄を頼んでいた。平蔵の復帰を受けて安堵する粂八。彼は血頭の丹兵衛の下でつとめをしていた過去があった。

 

粂八が知るかぎり、血頭の丹兵衛は、殺生などむごたらしいまねは絶対にしない。もちろん、襲撃した先で女を襲うことはご法度だ。ちなみに、粂八は押し込み先で女を襲ったことで一味を追い出されている。19歳の時だった。

 

盗賊といえど、卑怯は真似はぜったいに許さない姿勢を貫いてきた丹兵衛。現在、江戸を騒がせている丹兵衛はニセモノだと粂八だとみていた。

 

一方、襲撃した家には血頭の丹兵衛の焼き印が押された木札がおいてあった。本物の血頭一味がやったように細工をしたのだ。

 

あらすじ2)

江戸市中の商家が用心に用心をかさねる中、麹町三丁目の紙問屋・万屋彦左衛門方へ強盗がはいった。血頭一味に襲われ、主人夫妻や奉公人が殺害される中、次女だけは一命を取り留めた。

 

重傷を負いながらも、死体のふりをしてその場をやり過ごす次女。偶然、血頭一味が島田宿に逃げることを聞きつけた。盗賊改め方はさっそく一味の捕獲に乗り出すも、まんまとすり抜けられてしまった。

 

盗みも早ければ、逃げ足も早い。苦戦を強いられた平蔵は、小房の粂八を密偵として引き入れる決断をした。粂八にとっては盗賊かつての仲間とは敵同士になることを意味する。

 

また、粂八は野槌の弥平一味を盗賊改めに売っている。まだ一味の残党が数名残っており、彼らから命を狙われかねない。しかし、平蔵に恩のある粂八は、命をかけて密偵の役目を引き受けた。

 

粂八が東海道・島田宿へ旅立った頃、江戸では書籍商・丸屋徳四郎方へ血頭の丹兵衛が押し入った。しかし、丸屋では金四十両と、主人夫妻の寝間にあった金箱が盗まれ、その場所には「血頭の丹兵衛」の木札があった。

 

何か妙な気配を感じた平蔵。酒井祐助同心を島田宿に向かわせ、粂八に知らせた。一方、島田宿には粂八に次いで盗賊改めの与力たちも向かい、丹兵衛一味を捕らえる準備を整えていた。

 

酒井同心と合流し、先日の丸屋のことを聞かされた粂八。この一件に関しては、本物の丹兵衛がやったものだと確信した。3日後には山田市太郎同心が島田宿へ着き、長官からの手紙を酒井同心に託すと江戸へ引き返した。

 

手紙には、丸屋で盗まれた金四十両が返されたこと、気づかれることなく主人のまくらもとに置かれていた。本当の親分がみかねて、真の盗(まことのおつとめ)に出たとにんまりする粂八。

 

一方、島田宿では有力な手掛かりが掴めず、盗賊改めは一旦、江戸に戻ることにした。出発の前日、粂八は念のために島田宿を捜索し、茶店・くりぬき屋に入った。

 

店先の土間を抜け、二階の小部屋へ上がった粂八。熱い酒が来るのを待っている間、体格の良い男の足音が響いた。

 

足音は粂八のいる小部屋の前で止まった。野槌の弥平一味の残党が来たと覚悟を決めた粂八。しかし、男の正体は血頭の丹兵衛であり、15年ぶりの再会だった。

 

あらすじ3)

すでに60歳を越えていたものの、昔と変わらぬ風貌の丹兵衛。その正体は、江戸の大店を立て続けに襲った血頭の丹兵衛その人だった。最初こそ、本物の丹兵衛が血なまぐさいことはしないと信じていた粂八。

 

しかし、丹兵衛の口から江戸での盗みを聞き、万屋などの襲撃事件は彼のしわざだと思わざるを得なくなった。一方、粂八の現在を知らない丹兵衛は、彼を仲間に引き入れることを決め、島田宿にある盗人宿を教えた。

 

盗賊として尊敬していた親分の変わりように失望した粂八。血頭の丹兵衛を捕まえるべく、盗人宿の場所を盗賊改めに報告した。

血頭一味の盗人宿は、宿場本通り七丁目裏の大久保川の川べりにある煙草屋・三倉やだった。

 

夜になり、盗賊改め方では天野甚造与力によって準備が進められた。三倉やの三方を盗賊改めが囲む中、粂八が三倉やへ入った。

 

昨日、丹兵衛からもらった煙草入れを通行手形にして侵入した粂八。丹兵衛は地下部屋におり、粂八とかための杯を交わした。そして、次の合流地点を教えられ、一刻後(2時間)に出てきた。

 

本通りへ出て、天野与力と酒井同心と合流し、内部に丹兵衛がいたことを報告する。そして、盗賊改めによる三倉やの手入れが始まった。

 

あらすじ4)

血頭の丹兵衛一味は、頭とその手下5人がお縄にかかり、残り7名は切り捨てられた。

 

40年あまりお縄にかからなったことでも有名な大盗賊・血頭の丹兵衛。粂八の顔を見るなり、軽蔑の意味をこめて「狗」呼ばわりした。そんな丹兵衛に対して、粂八は「にせものの丹兵衛」と言った。

 

目の前にいる丹兵衛は確かに本物であった。しかし、本当の丹兵衛はむごいことをする人物ではないと、丹兵衛の変わりようを必死に否定しようとした。

 

血頭一味が江戸に護送される中、粂八は懐かしい人物と再会した。茶店で壺焼きに舌鼓を打つ商人風の老人。彼は蓑火の喜之助といい、血頭の丹兵衛とも親交のあった盗賊だった。

 

かつては大盗賊として丹兵衛と肩を並べていた喜之助。今は盗稼業をやっていない。武州・蕨で楽隠居をしていたところ、江戸で血頭の丹兵衛を名乗るものによる血なまぐさい事件を知った。

 

丹兵衛のやり方を知る喜之助もにせものの仕業だと察し、そこで昔なじみのためにひと肌ぬぐことにした。実は、丸屋で起きた奇妙なできごとは、喜之助の仕業だった。

 

老齢なので大店は狙えなったものの、彼なりに本当の盗(つとめ)というものを世に知らしめたかった。最近は、むごい形の盗みが多くなり、同業者である喜之助もそのようなやり方を良く思っていない。

 

まさか、あの丹兵衛が手を血で染めるような真似はするまいと、粂八と同様、丹兵衛のことを信じている喜之助。茶店を後にすると上方に眠るおんなの墓参りのため、先を急いだ。

 

一方、喜之助に丹兵衛の今を話すことが出来なかった粂八。脳裏には、江戸に護送される変わり果てた丹兵衛と、おどろきを隠せない喜之助の姿が浮かんだ。

 

血頭の丹兵衛・終わり

 

血頭の丹兵衛の登場人物

火付盗賊改め方

小房の粂八:平蔵の計らいにより盗賊改めの密偵となる

 

天野甚造:島田宿での血頭の丹兵衛一味の捕獲を指揮した与力

 

酒井祐助:柳剛流の免許を持つ同心。粂八と共に島田宿で張り込む

 

大崎源四郎:平蔵の後任として火付盗賊改め方の長官になる。実直な人物であり、血頭一味には煮え湯を飲まされ続けられた

 

盗賊

血頭の丹兵衛:粂八が19歳まで世話になった大盗賊。押し込んだ大店には、自身の名前の焼き印を押した木札を置いていく

 

蓑火の喜之助:丹兵衛と共に本格派として名を馳せた大盗賊。現在は稼業から身を引いている

 

本日の捕り物

血頭の丹兵衛一味 頭を含めて計6人 江戸に護送中

 

血頭の丹兵衛の見どころ

見どころ1)粂八の密偵デビュー

「唖の十蔵」では平蔵から凄まじい拷問を受けた粂八でしたが、今ではすっかり平蔵に気を許し、彼のために働くことを決意しました。

 

江戸で血なまぐさい盗みをする血頭の丹兵衛の正体を探るべく、命がけで挑む粂八。また、平蔵夫妻が盗賊の子供を養女にした話に感銘を受けたことも大きかったでしょう。

 

粂八の過去は1巻101P以降で語られています。幼くして両親を失い、各地をたらいまわしにされるなど、壮絶な少年時代をおくった粂八。

 

そのような中で出会った丹兵衛は、粂八にとって親も同然の存在であり、厳しい掟のもとで盗をする丹兵衛は尊敬の対象だったでしょう。

 

しかし、十数年ぶりに再会した丹兵衛は、粂八の知る丹兵衛ではなかった。丹兵衛に対する失望や怒りが粂八を変え、密偵として人生をやり直す決意をさせたでしょう。

 

見どころ2)本格派の盗(つとめ)とは?

鬼平犯科帳では、盗賊はおおきく2パターンに分けられます。

 

1つ目は、厳しい掟を守りながら稼業を行う本格派です。お金が有り余っている大店の商家をターゲットにし、数年にわたる大がかりな準備期間を経て決行します。

 

また、盗みの際には一滴の血も流さず、女は犯さないという信条を持ち、掟を破った者には破門を言い渡しています。

 

作中では、ひと昔前の血頭の丹兵衛、蓑火の喜之助が当てはまり、最近では本格派の盗賊が減ってきたと評されています。

 

2つ目は、盗賊の掟に縛られず、自由に盗みを働くパターンです。金品を得るためなら殺人もいとわず、非常に手荒でむごたらしいやり方となっています。

 

本格派とは対照的なやり方であり、すばやく盗みをして他国へ逃亡するやり方は「急ぎ盗」とも言われています。

 

作中では、2つ目のパターンが多く、野槌の弥平や小川や梅吉の一味が該当します。

 

盗賊稼業にもさまざまな種類があり、一味ごとにさまざまな色をみせてくれる。なかなか奥深い世界ですね。

 

見どころ3)逮捕された血頭の丹兵衛は本物なのか?

結論から言うと、島田宿で捕まった血頭の丹兵衛は、本物の丹兵衛に間違いないでしょう。

 

かつては本格派の盗賊として、厳しい掟を守り続けてきた丹兵衛。しかし、時代の流れに沿うように、稼業に対する考えも変化していった。

 

どのような身分・世界に身を置いても、他人を蹴落とさなければ生きていけない。盗賊稼業でも同じであり、時間をかけて大がかりな仕掛けでは、盗賊としてやっていけないと考えた丹兵衛。

 

また、老齢にさしかかったことも、彼や一味を急ぎ盗へ向かわせたのでしょう。尊敬していた親分の変わりように絶望し、「にせものの丹兵衛」だとののしる粂八。

 

目の前にいる丹兵衛は確かに本物だった。しかし、粂八の知る丹兵衛ではなく、別人だ。親分の変わり果てた姿を認めたくないという思いが粂八にはあったのでしょうか。

 

鬼平犯科帳・血頭の丹兵衛まとめ

盗賊から盗賊改めの密偵となり、人生をやり直しはじめた小房の粂八。かつての親分だった血頭の丹兵衛を捕まえたことは、盗賊稼業から完全に足を洗ったことを意味するでしょう。

 

今回もまた、長谷川平蔵の出番が少ないエピソードでしたが、彼を取り巻く人々の物語もまた、鬼平の読みどころとなっています。

 

さて、次回の投稿は6月26日を予定しています。

 

最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたニコニコ