池波正太郎の「剣客商売」をたしなむ~秋山大治郎の巻~
皆さん、こんにちは。管理人の佐藤有です。
さて、今回は剣客商売のおさらい企画として、物語のもう1人の主人公であり、佐々木三冬との婚礼を迎えた、秋山大治郎について紹介します。
剣客商売・秋山大治郎を知る
秋山大治郎(初登場時25歳)
秋山小兵衛とお貞との間に生まれた1人息子で、母・お貞は大治郎が七つの時に死去しています。父親が剣術道場を経営していたことから幼少期は小兵衛の指導の元、剣術を習います。15歳の夏に、小兵衛の意向により、山城国・大原に隠棲する辻平右衛門先生の元を訪ね、嶋岡礼蔵に鍛えられます。平右衛門先生の死後に大原を発ち、その後4年に渡って諸国を巡りながら修行に励み、24歳の時に江戸で戻りました。
そして、安永6年の夏、時の老中・田沼意次の浜町の中屋敷で開催された剣術の試合に参加し、年若く無名であった大治郎は、名だたる剣客・7人を勝ち抜く結果を残し、江戸の剣術界にその名を知らしめました。
大治郎の道場兼住まいは、浅草外れの真崎稲荷明神社近くに、小兵衛の支援によって建てられました。父と同様に無外流の剣術道場を開くも、まだ無名であったことや弟子がいないため、生活は厳しいものでした。
後に、佐々木三冬の紹介で、当時15歳の飯田粂太郎が弟子入りしたことや、月に何度か田沼屋敷での出稽古を担うようになったことで生活も安定し始めます。そして、三冬と結婚・子供が誕生してからは、弟子も増え、江戸でも評判の剣術遣いとして知られるようになり、剣客商売を軌道に乗せていきます。
一方で、老中・田沼意次の娘婿という立場や江戸屈指の剣術遣いということから、秋山大治郎を名乗る剣客による辻斬りも横行し、田沼老中と敵対する松平定信や奉行所からあらぬ疑いをかけられた回もあり(10巻・春の嵐)、剣客世界を生き抜く厳しさを身を持って知ることとなります。
愛刀は、師匠・嶋岡礼蔵の生前に形見として譲り受けた銘刀・越前守藤原国次の脇差と、横川彦蔵の愛刀・備前兼光の大刀です。
性格
穏やかな気性で、5歳年下のおはるを「母上」と呼ぶなど寛容な性格です。しかし、いわゆる八百長の試合で大金をもらうことは、剣客としてあるまじき行為と考えており、よく言えば真面目で誠実、悪く言えば融通が利かない点が玉にキズでしょう。
また、「悪い虫」(2巻・辻斬り)で10日間の修行を付けた又六からは、「先生は優しいから、無口な自分でも話せた」と言われており、弟子への指導も叱咤激励による厳しいものではなく、相手の特性に応じて諭すように教えるなど、小兵衛とは対照的な指導を行っています。
一方、恋愛に関しては、鈍感かつ不器用であり、小兵衛からは「朴念仁」と称されていますが、最愛の女性・佐々木三冬の命に危機が迫っていると知れば、並みならぬ殺気で敵を追い詰めるなど、小兵衛とは違う意味の強さ・怖さを秘めています。
交友関係
主に大坂・柳嘉右衛門道場に滞留していた頃に知り合った剣客が多く見られ、婿養子の話が舞い込むも、密かに命を狙われていた浅岡鉄之助(3巻・陽炎の男)、父親の敵を討つべく江戸を訪れた高野十太郎(4巻・夫婦浪人)、実戦さながらの稽古が持ち味の四天流の道場主・山本孫六などがいます。
また、旅先で急病を発症した際に看病してくれた和尚を入水から救出したり(4巻・老僧狂乱)、京都・三浦源右衛門道場で立ち合った大和郡山藩士・大久保兵蔵が、三冬の縁談相手として浮上し嫉妬するなど(5巻・三冬の縁談)、思わぬ形で大治郎が事件に関わることもあります。
大治郎の呼び名
おはるや、弥七・傘徳など、小兵衛の「大先生」に対して、大治郎は「若先生」と呼ばれています。また、弟子・粂太郎からは「先生」、佐々木三冬からは、「大治郎どの(後にさま)」、それ以外の人物からは「秋山さん」などと呼ばれています。
趣味は一人飲み?
父・小兵衛と共に鬼熊酒屋の常連であり、事件の際には連絡を受け取る場所として活用しており、いつもと様子がおかしいことを察した文吉・おしんが心配することもあります。また、気が向いた時に立ち寄ることも多く、鬼熊酒屋での一杯は、大治郎のささやかな楽しみとなっており、その様子は父・小兵衛に似ているとも言われています。
変装が得意?
作中では、大治郎の変装によって事件を解決に導いた回があり、秋山小太郎として村岡堂歩の見習いに扮したり(3巻・兎と熊)、婚礼を控えた友の暗殺を目論む一派を討つべく、みすぼらしい浪人・橋場弥七郎を演じており(3巻・婚礼の夜)、悪役を成敗しています。
江戸の料理男子
大治郎宅の食事は、近所の百姓の女房に任せることが多いですが、時には自ら腕を振るい客人に料理を振舞うこともあります。大治郎は、男同士が寄りあつまって作っていたもので、料理と呼べるものではないと謙遜していますが、お嬢様育ちで、お米の炊き方すら知らなかった三冬を関心させています。
大治郎が作った料理は、結婚間もない頃に振る舞った、焼いた鴨肉を小さく切り分け、それらを生卵と合わせて、しょう油・酒で味付けしたものを、炊き立てのご飯にまわしかけたもので、豪快かつ食べ応えのある一品です。(6巻・川越中納言)
妻・佐々木三冬とのなれそめ
「剣客商売」と言えば、秋山大治郎とヒロイン・佐々木三冬の恋模様も欠かせない要素です。
2人が初めて出会ったのは、1巻・剣の誓約にて、小兵衛宅の様子を伺う男装の三冬に、大治郎が話しかけるという場面でした。しかし、その時点では、三冬は大治郎の存在を知らなかったため、そっけない態度でその場を去り、大治郎も変わった若者という印象しか持っていませんでした。
その後、黛の金ちゃんの回にて、小兵衛の口から大治郎の存在が三冬に知らされ、御老中毒殺の回でお互いに名乗りを上げ、飯田粂太郎少年が大治郎の弟子になるきっかけがもたらされました。当初は、剣術を志す者としか思っていなかった2人でしたが、ある事件をきっかけに三冬が大治郎のことを意識するようになり、次第に大治郎も三冬に対する恋心を芽生えさせます。
その後、両想いとなりつつも、お互いの好意を見抜くことができず、三冬の2度目の縁談話が浮上した際には、父親として三冬の縁談を喜ぶ小兵衛を無意識に睨み付けることもありました。大治郎の想いを知った小兵衛も、こればかりは驚きを隠せなかったものの、朴念仁の息子の気持ちを理解したうえで、助言を与えています。
秋山大治郎の名言
大治郎といえば、小兵衛の後妻となったおはるとのやり取りも欠かせません。まだ、小兵衛の結婚が正式に決まっていない序盤では、おはると呼んでいたものの、結婚後は「母上」と呼び方を変えています。一方のおはるは、「母上はいやですよう」と毎回のように照れくさそうにしています。
「だが母上は母上だ。父上と祝言した人ゆえ」(2巻・東海道・見付宿)
また、箱根細工の回では、おはるへ箱根細工の裁縫箱をあげており、その時も自分の母への土産として購入しています。大治郎が「母上」と呼ぶことにこだわる理由は、父親の妻となったおはるへの敬意が込められているでしょう。
剣客商売~秋山大治郎~まとめ
無名から江戸剣術界の若手として台頭する大治郎の活躍は、諸大名の耳にも入り、各屋敷から出稽古の依頼が来るようになり、大治郎の剣客商売も右肩上がりとなっていきます。同時に、田沼意次の娘婿という立場から、身に覚えのない事件に巻き込まれたり、舅の田沼老中自身も、三冬の出自が大治郎の出世の妨げになっていると思い悩むなど、剣客商売の難しさも浮き彫りにしています。
さて、次回の剣客商売・おさらい企画は、秋山親子を陰で支える2人の女性、おはる・佐々木三冬を紹介していきます。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました