Sound&Recording | スガ シカオという生き方 ~history of his way~

スガ シカオという生き方 ~history of his way~

1997年デビュー、2011年フリーランスとなった音楽侍スガシカオさんの記録。
本名:菅 止戈男。戈(ほこ)を止める=争いを止めることが「武」の本義であるという孔子の著から取られた名前に込められた思い、それに恥じない生き方の足跡。

$スガ シカオという生き方 ~history of his way~

Sound&Recording 2000年10月号
アルバム「PARADE」制作にはエンジニア諸鍜治辰也氏、中村文俊氏、およびキーボードの森俊之とスガ作品では同じみの面々に加え、亀田誠治、屋敷豪太がサウンドプロデューサーとして名を連ねているのも興味深い。

■プリプロの作業はどこで行われたのですか?
スガ「僕のプライベート・スタジオの“アダムとイブ”ですね。ここは制作でも使っていて、機材もあまり変わってないのでプリプロは前作同様にROLAND VS-2480を使って録音しています。

(音楽制作の場合のプリプロ(Pre-production)とは本番レコーディング前の“簡易的なレコーディング”や、作品の方向性を決めたりすること。)

■『7月7日』という弾き語り風の曲ではデモ・テイクが使われているそうですがそこで録音したものですか?

スガ「そうです。ちなみにデモ・テイクが使われているのはボーカルとギターです。作ったその日の夜中に歌ったテイクで“この世界観は二度と再現出来ないだろう”という予感があったので、AKG C3000BをマイクプリのVINTECH X73に通して、とにかく歌だけは太く録っておきました。」

■今作ではそういった弾き語り風の曲あり、スガさんらしいファンク調の曲あり、ロックやディスコもありというようにバラエティに富んだ楽曲が集められている印象ですが、どのような方向性で制作に臨んだんですか?

スガ「前回はすごくディープでストロングな作品だったので、その反動もあり今回はもっと分りやすく人に伝わるものを作りたかったんです。」

■スガさんの中で分りやすく伝わるものとはどういう音なのですか?

スガ「“ご飯をたべているとき有線から流れてきて気持ちいい曲”とかそういう感じです。今回は亀田さんと豪太さんにサウンドプロデュースをお願いしていますが、それはそういった分りやすさが欲しかったから。例えばロックっぽい曲が出来た時にはロックが得意な亀田さんに任せた方がやっぱり分りやすく人に伝わるロックになるということです。
亀田さんがいうには、アーティストは曲作りのアレンジや演奏などを8割ぐらいのところで恥ずかしくて止めちゃうらしいんです。でもそこを10まで押し上げてあげると凄くスケールの大きいものが生まれるということ。そう考えてみると僕なんかは6割くらいで止めちゃう。でも亀田さんはやり過ぎじゃないかってくらい行けるとこまで持っていってくれるので曲のスケールが大きくなる上にキラキラした感じになるんです。渋く決めるよりも“バーンといく”感じが欲しかったので、お願いして正解でしたね。」

■屋敷さんがサウンド・プロデュースした「午後のパレード」はディスコアレンジですね。

スガ「豪太さんはロンドンとのコネクションが強いので、ディスコ調の曲ならば何かおいしい部分を引き出してもらえるかな、と考えてお願いしてみたんです。実はこの曲のストリングスはサイモン・ヘイルというジャミロクワイやインコグニートのストリングス・アレンジを作っている人に頼みました。豪太さんが直接電話でオファーしてくれたんです。ストリングス以外でも、豪太さんの日本人離れした弾力性のあるバウンシーな低音の魅力も外せないですね。“これが欲しかった”というものが沢山もらえました。」

■複数のエンジニアがクレジットされていますが、人選について教えてください。

スガ「亀田さんと作った曲では工藤雅史さん、屋敷さんとの曲では石神崇敬さんに担当してもらっていて、僕がプロデュースした曲は中村文俊さんに1曲、それ以外は諸鍜治辰也さんですね。」

■諸鍜治辰也さんは前2作でもエンジニアリングを担当されてますね。

スガ「諸鍜治さんは現場の雰囲気を作るのがすごく上手なんです。また生の録音を知り尽くしていて、どんな難しい楽器でもその楽器の良い所を録ってくれるので、そこは信頼していますね。あとは、やっぱり、歌の録音に尽きるな。ハンド・コンプとでも呼べばいいのか、声が小さくなるところでは、歌っている途中でフェーダーを上げてくれたり、デリケートな操作をしてくれるのですごく歌いやすいんですよ。」

■ボーカル録りのマイクは何を使いましたか?

スガ「AKG C12とマイクプリはTELEFUNKEN V76の組み合わせが多かったです。」

■スガさんが森俊之さんと共同プロデュースしている「38分15秒」はめまぐるしく変わるサウンドと風変わりな展開が特徴ですね。

スガ「この曲はリズムと歌しかないので、ヒップホップに近い。それをどれだけ飽きさせないで聴かせられるかということを考えながら作りました。色々変化をさせましたが、音色を増やしていく方向性とは違うアプローチですね。やっているのは平歌のメロディが全部違うとか、コーラスの和音の重ね方が全部で違うとかそういうストイックなやり方。ギターもあんまり音色を使わないで、“なんかギター1本だけうるさいのがいたね”とか感じさせるぐらいがいいんです。
この曲は、作り始めの頃から、諸鍜治さんと共同作業でしたね。エンジニアが存在理由を認識できていない音が多くあると、出来上がりが全然違うものになっていまうので。長さと構成とメロディとコーラスと、何となく聴こえているものが8割くらい出来たら、キーボードの森さんにアレンジしてもらって、次は僕がギターを入れてという感じで何度かセッションして形にしていった感じです。」

■そういった、精密な音造りの曲がある一方、バンド・サウンドの曲も収録されていますね。

スガ「そうですね。今回のアルバムは1発録りの曲も数曲入っています。「HOP STEP DIVE」などの亀田さんプロデュースの曲はそのセッションの参加ミュージシャンと僕がレコーディング・ルームに入って、“せーの!”で演奏した音がそのまま入っています。確か、「HOP STEP DIVE」は1回しか録ってないはずです。」


■そういった方向性を今後も継続する予定ですか?

スガ「サウンド面をある程度人に任せた分、歌詞や歌い方、アルバム全体の持っているエネルギーやオーラをきっちり管理出来たのではないかと思います。サウンドをミックスしてくれる人のテイストと僕自身のオリジナリティをミックスすればバラエティに富んだ面白いものが絶対に出るはずなので。もちろん、僕自身のこれまでやってきたやり方も残してバランスを取りつつ、スタンダードなものもきっちりやって、ハードルの高い曲に挑戦していくつもりなので、自分でもどこまで行けるのか楽しみです。」

亀田誠治
「スガさんとの出会いは昨年夏のシングル『奇跡/夏陰/サナギ』から。共通のミュージシャン仲間も多く、スガさんは“カメダに投げれば、オモロイことになりそうだ”とひそかにたくらんでいたようです(笑)。“スガシカオはこだわり派、特にベースにはウルサいよ~”という前情報とは裏腹に、スガさんから“アレンジはお・ま・か・せ・よ(はぁと”と言われ、ちょっぴり拍子抜けした記憶があります。コラボした曲全て、ドラム、ベース、ギター、キーボードを“せ~の!”で同録(1発録り)しました。“歌うグルーブマスター”スガさんに、いかに気持ちよく歌ってもらえるかを考え、目の前の音楽に素直になってレコーディングを進めた感じです。結果的に“カメダワールド”と“スガワールド”がすてきにレゾナンス出来たのではないかと思っています。」

屋敷豪太
「スガさんとは、おいしいおそば屋さんを教えあうような友達的な感じで親交を深めたのがはじまり。前に「サナギ」という曲をリミックスしたのが気に入ってもらえたみたいで、今回の話が来たんです。「午後のパレード」のデモをもらった時の印象は、軽快でダンサブルなスガシカオだな”という感じで、合言葉は“ディスコ”でした。この曲にはロンドンのストリングス・セクションが参加していますが、僕らはロンドンに行けなかったので、ロンドンと日本をⅰChatでつなげてレコーディングしました。日本で作ったトラックを送ってそれに合わせて演奏してもらい、それをパソコンのモニター越に“そこはもうちょっとこうしよう”なんて言いながら録ったんです。斬新なトライでしたがロンドン側とも長い付き合いだったので大成功でした。」


PARADE/BMG JAPAN


2006.9.6発売

・奇跡
・19 才
・38 分15 秒
・斜陽
・夏陰~なつかげ~
・タイムマシーン
・Rush
・Hop Step Dive
・真夏の夜のユメ
・7月7日
・午後のパレード
・Progress(Family Sugar Version)

スタジオ「一口坂・BURNISH STONE、Bunkamura、アダムとイブ」