1コード | スガ シカオという生き方 ~history of his way~

スガ シカオという生き方 ~history of his way~

1997年デビュー、2011年フリーランスとなった音楽侍スガシカオさんの記録。
本名:菅 止戈男。戈(ほこ)を止める=争いを止めることが「武」の本義であるという孔子の著から取られた名前に込められた思い、それに恥じない生き方の足跡。

BREaTH Vol.49 2004年6月号
15枚目のシングル「秘密」(2004年5月12日発売)発売前インタビュー
「図らない意地悪」(インタビュアー前原雅子)

へそ曲がりかもしれないが、ちょっとだけ意地悪な人のほうが安心して付き合える。誰にでも親切で、いつも笑顔を絶やさず、人当たりがいい、そんな“いい人”を前にすると、どうにも居心地が悪い。被害妄想だと思ってはみても、“いい人”に心の裏側を見透かされている気がして、必要以上にドギマギしてしまう。自分でも実に情けないのだが。
そこへいくと“意地悪な人”は、にたもの同士と思えるせいか、最初から緊張を解いて接することができる。多少の腹黒さなら、“そんなの当たり前でしょ”とサラリと受け流してもらえそうで、ラクチンな心持ちで側にいられる。

それと似たラクチンさを、この「秘密」にも感じた。独占欲と保身と猜疑心がグルグルと回転する胸のうちを描いたとおぼしき「秘密」は、“いい人”ではありえない人の心のダークサイドを何気なく匂わせる。息詰まるような空気も勢いのあるグルーブにのせて、聞く側の鼓動共鳴させる。そしてチクリと心に引っかき傷を残していく。
わざと見過ごしている感情に気づかせようとするみたいに。・・・・・意地悪である。
けれどそこがニヤリとさせられるところでもある。共犯者の信頼感ではないが、大っぴらに白日のもとにさらせない、後ろめたさも含んだ感情を互いに持ち合わせているからこその安心。
そういう共犯者としての歌を歌わせたら、やはりスガシカオの右に出るものはいないのかもしれない・・・。と、ため息とも深呼吸ともつかない、大きな息をひとつつきたくなるほどにリアルな感情を描いたファンク・ナンバー「秘密」はスガシカオのスガシカオたるゆえんとも言える共犯の安心に浸れる楽曲だ。」
$黄金の言葉  スガ シカオ(菅 止戈男)

-今回シングルを作るにあたって、何か方向性とか決めていたことはありますか?

スガ「あんまり特別にはなかったなぁ。去年から今年にかけて、ずっとライブばっかりだったから、ライブでやったら楽しそうだなっていう仕上げにしたくなっちゃって。」

ーこの「秘密」と言う曲、コードの感じとか、すごくスガさんぽい曲だなと思って。

スガ「そお?1コードの曲なんでそれが僕っぽいっと思ったんじゃない?けっこう続いてるから1コードの曲。「アシンメトリー」もそうだし。まあ、1コードってファンクの基本ですからね。」

ー1コードの曲ってお好きですか?

スガ「って言うか、体質的にコードの多い曲って、あまりやり慣れていないんですよ。バラードとかは別だけど、基本的にコードの多い曲はないんで。
今までの曲の中でコードがいちばん多いのは「ココニイルコト」で、あの曲はコード数えきれないもん。アコギで1回弾いただけで手がつっちゃうくらい(笑)。もうジャズだからコード進行が。ぐっちゃぐちゃのコードばっかり。あと、「坂の途中」もコード多いよね。」

—そういう場合は、作りたいように作っていったら、結果すごいことになってたんですか?

スガ「メロディが先に出来てたんで、それにコードをのっけたら、そうなるんですよ。こうかな、こうかなってコードを探していくと。」

—逆に1コードの曲は、最初から1コードでいくと決めて作っていく?その時はなんらかの狙いがあって?

スガ「1コードだとほっといてもファンキーな感じになるんですよ。だからなんかファンキーな曲がいいなって思ってると、おのずと1コードの曲になっちゃう。だから1コードの曲ってすごい多いですよ。「ストーリー」だってサビ以外はずっと1コードだし。アルバムの中の曲にもけっこうありますよ、1コードの曲は。」

—1コードで曲を作るのって、実際難しいものではないんですか?

スガ「むちゃくちゃ難しいですよ。何も考えずに作ってたら、みんな同じになっちゃいますからね。ちょっと難しい言い方をすると、メロディが1スケールのメロディしか作れないんですよ。マイナーペンタトニックっていうものがあって、1コードだと、その中でしかメロディが作れないんです。それ以外の音を使って作ったものって、日本ではホントに数が少なくて。」

—そのスケールっていうのはどういうものなんですか?

スガ「ん~とね、例えば、ジャーンってひとつのコードを弾いた時に、まず頭に浮かびやすい音っていうのが7つくらいあって。で、自然に浮かぶメロディってその7つのうちのどれかの音なんですよ。でも、それだけで作っていっちゃうと、全部同じような曲になっちゃうでしょ。音が7つくらいしかないんだから。1曲や2曲ならいいけど、たくさん1コードの曲を作ると似てきちゃうわけ。それで似た曲にならないように、この7つの音以外の音をあえて探したりしないとダメなんですよ。」

—7つのうち、ひとつの音だけ使って他の音は違うものにしてみたり?

スガ「そそそ。そのスケールの中で作る方が、作りやすいんだけどね。でも同じような曲を作っても仕方ないから、いろいろやるわけですよ。歌い方を変えてみたり、コーラスの積み方を変えてみたり。あたかもコードが変わっていってるように見せるっていう。その見せ方を毎回いちいち探してくるんです。」

—それはもう、とにかく探して試して、また探しての繰り返し?

スガ「そう。で、30個くらい作ってメロディを作ると、その中の1個はいつもの形じゃないのが生まれるというね。そしたらそのメロディを採用して、いつもと違う感じにしてくわけ。」

—1コードの曲って大変ですねぇ。

スガ「大変なんですよ。この「秘密」とか、サビまでずっとコードが一緒だし。「はじめての気持ち」なんてもっと大変だったよ~。サビの真ん中までずっと1コードだからね。」

—とてもそんな風には聞こえませんね。

スガ「だから色々考えてるんですよ。(笑)だってコードが多いほど、メロディの可能性は広がるわけだから。その意味でいちばん作りやすいのは、バラードでコードが多い曲ですよ。それを1コードで、今までやったことのないこととか、聞いたことのないメロディの曲とかを作ろうってんだから。そりゃ、すっごい難しいよね。けど、カッコイイ曲にはなるんだよ。」

—難しい分、挑みがいがある?

スガ「好きだからね。そういうの。作業も楽しいし。」
$黄金の言葉  スガ シカオ(菅 止戈男)

—歌詞のイメージはどうだったんですか?

スガ「男と女の話で、ちょっと危うい感じの恋愛ものを書こうと思ってましてね。で、それがそのうち、恋愛を隠す、秘密にするっていうテーマになって。
これは、ラジオ番組のお悩み相談コーナーで“どうして男の人ってすぐ秘密にするんですか?”みたいなのがあって・・そういや俺も秘密にしてたなぁ、なんて思ったりして。」

ーなんで秘密にするんですかね?

スガ「職場なら仕事に差し支えるとかって大義名分がありますけど・・まぁ色々都合の悪いことは隠さなきゃならないものかなって。隠さないと面倒くさいこともあるだろうし。中途半端に別れたりしたら酒の肴にされたり。ダメになるかもって前提がにおいますよね、この歌詞は。ダメにならない自信があったら隠さないんでしょうけど。」

—でも、不実そうな感じもするけれど、ふたりで秘密を持ちたいってのもあるかもしれないですね。誰にも触らせたくないほど何かを大切にしているふうでもありますよね、この歌詞の主人公は。

スガ「ほら、ちゃんと、そっちの純粋なほうの”秘密”もちゃんと入っているんですよ。(笑)
でも、最近は、詞で行く曲と、サウンドと声でもってく曲とに分かれてるんですよ。だからこの曲の詞もあまり深く考えずにささっと書いてて。“秘密”はサウンドに乗りやすい詞ってことを優先してるから。この曲で細かいことを歌ってもパーッと流れていっちゃうからやめたんですよ。」

—新幹線から景色を見ているみたいに、どんどん場面が過ぎていっちゃう感じですかね。

スガ「そういうのを“ストーリー”の時に、発見して。あの曲って鬼気迫った感じに聞こえるでしょ。でも全然そんなこと歌ってないんですよ。
俺たちなーんかダメかもなーってくらいなの(笑)でも、曲の持ってるパワーが強いから、追いつめられるように聞こえるという。」

—だからと言って、「ストーリー」も「秘密」もすごくテンポの早い曲でもないんですよね。

スガ「そうそう。だからやっぱりそれは1コードの曲が持ってるにおいなんでしょうね
”秘密”の最後でサビを繰り返してるじゃないですか。そこがすごい好きなんですよ。なんか男って哀しいなぁっていう悲哀を感じるっつうか、人って小さいなぁと思うというか。。そういう哀しさを感じるところが凄い好き。 

$黄金の言葉  スガ シカオ(菅 止戈男)



ラジオ番組をやっていた時に、社内恋愛や同じクラスのカップルなんだけど、
「どうして男の人は関係を秘密にしたがるんですか?」みたいなのがたくさん来たんですよ。
自分でフッたならいいけど、自分がフラれたらカッコ悪いし。
だったら何もなかったことにしようっていうのは心の片隅にあったんで…そこを大げさに書いたんです。ほとんど実体験に近い。コソコソしてるのって楽しいじゃないですか。
僕はぶっちゃけ「別れたあと面倒だから秘密にしよう」って言ってましたから。(笑)
僕の自論では、大概男がそういうことを言い出すときってろくな理由じゃないですよ。(笑)
「それをあたかも彼女のためのようにいう場合が多い」と僕と僕の友達の中ではいえます。