被災地で歌う、ということ。
３月１１日、東日本大震災から一年が経つ・・・。
あぁ、もう・・・一年たったんだっていう、変な焦りと変な安堵の気持ちが、ざわざわと心をよぎる。
２０１１年という年は、忘れられない・忘れてはいけない１年になった。
おれの中でも、いろんなものが変わった。
みんなの中でも、いろんな価値観が変わった。
それくらい、想像を絶する出来事だったんだと思う。
震災前と震災後では、開けるはずのなかった沢山の扉があいてしまった。
今日は震災から一年、さまざまな特別番組が組まれ、被災地では歌える場所も歌える環境も、少しづつ整ってきた。
色々事情があって、今年、おれは被災地に歌いに行くことができない。
それもあって先のツアーでは、東北の被災3県を4日間かけてじっくりまわった。
震災直後、生放送で被災地に向けて歌ったフジテレビ「FNS音楽特別番組・上を向いて歩こう」で、
歌いきれなかった、届けきれなかった想いを、どうしても届ける必要が、おれにはあった。
震災直後、たくさんの方からコメントで、「今こそ歌うべきです！！」って言われたけど、おれは歌わなかった。
歌よりもまず、今消えそうな命や心を助ける手段が絶対あるはずだと思ったから・・・・。
でも・・・・・その反面、正直、歌えなかったのも事実だ。
歌うべき言葉もなかったし、歌なんてものに向かう精神力も気力も自信もなかった。
おれにとって「被災地のためにうたを歌う」ということが、こんなにも重いことだったのかと、改めて心にのしかかった。
2011年3月27日、震災からわずか16日しかたっていない夜19時、
「FNS音楽特別番組上を向いて歩こう～うたでひとつになろう日本～ 」
生放送が始まった。
被災地に向け、避難生活をしてる沢山の方々に向け、
自分で考えたコメントを冒頭で話し、そして歌う。
そういう番組だった。
演奏曲も自由、コメント内容も自由、すべて自分で責任を取る。
なんのやらせも、押しつけも演出もないシンプルな番組だった。
おれは歌う覚悟を決めて、スタジオに向かった。
毎晩徹夜で仲間の安否を探す、気仙沼出身の総合Ｐ・菊池さんの、気持ちにもこたえたかった。
だが・・・
精いっぱいやったが、高ぶる気持ちと被災地へのどうしようもない想いで混乱し、実はまったく記憶がない。
うまくいったとかいかないとか、それ以前の問題だった。
自分のクソったれ加減に、腹が立った。
誰かのために歌う資格なんて、おれにはないと猛烈に凹んだ。
それからボランティアに行っても、復興支援ライブをやっても
どこかケジメのつかない自分がいた。
そして話は、今年2012年2月全国ツアーに戻る。ついこの間だ。
超満員の仙台rensa。前売りも、当券も全部なくなった。
Ｌｉｖｅは、いつもの感じで軽快に進んでいった。
楽しい時間はどんどん過ぎて行った。
セットリストのど真ん中に、震災から1年間、夏フェスでもテレビでも歌い続けてきたＰｒｏｇｒｅｓｓを持ってきた。
ＭＣで、おれは
「震災直後の生放送の歌番組で、伝えきれなかった想いを、今日は歌いに来た。」
そう話して、ゆっくりとＰｒｏｇｒｅｓｓをはじめた。
Ｐｒｏｇｒｅｓｓを歌い進めていくと、前方椅子席の人がたくさん泣いてた。
下を向いて、顔を抑えている人も大勢いた。
立ち見の男性も、ボロボロ泣いてた。
それを見ちゃうと、泣いてる人たちと同じところに立っちゃうと、また、あのテレビの時と同じになってしまう。
だから、ずっと前だけ向いて歌った。
歌う覚悟を、しっかり持って歌った。
歌うということは、一緒に涙を流すことではないことを、おれはあの時、学んだ。
そしたら、ちゃんと最後まで歌うことができた。
震災から一年、盛岡、仙台、福島で、それぞれ納得のいく歌を届けられた。
歌に関してのけじめというか、スタートがようやくきれた気がした。
そんな東北ツアーだった。
まぁ、おれの歌に話はいいとして、
本来の被災地の復興支援
まだまだずっと続けていかないと・・・・って、
色々なメディアを通して、改めてそう思った。
本当に長い長い道のりです。
でも、いっぺんに背負いすぎると、あの時のおれみたいに潰れちゃうから、
立ち上がる方も、応援する方も、
一歩づつ少しづつ前に進めたらいいなと・・・・。
沢山の悲しみも、壊れてしまったものも
きっと、取り戻せる日が来ると信じて。
東北ツアーの道中、定食屋さんで見つけたポスター。
2012.03.11
スガシカオ
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