わたしは仕事についてもうすぐ9年目になる。

1年目のときから、同じ仕事をするカリスマにあこがれていた。


全国でその手腕を買われ講演したり、社を回ったり、技術指導をしたりといろいろなことをしておられる。

ひそかにテレビにも出ている。



わたしが働く業界では、けっこうな有名人だ。

その有名人が、なんとわが社に来ることになった。

なんのめぐり合わせだかはさっぱりわからん。

しかし、なんかよくわからんミラクルが起きた、と思った。


会えるとわかってからのわたしは、ウカレポンチだった。

足しげく講演会などにおもむき、その人の話をよく聞いていたのだ。

本気で感動することも多々あった。

ワクワクしていた。


そして当日。

いよいよ、カリスマと話をする時間となった。

が、緊張しすぎて何も言えない。


しかし、なんとか、

仕事をして行く上での不安を口にした。


別に不安はあるが、やる気がないわけではない。

ただ、カリスマの師事を仰ぐとなると、今までの仕事の仕方を一掃する必要がある。

今まで積み上げたことをゼロにするのは、誰だって不安だろう。

しかも妊婦で、3カ月もすれば産休にはいるのである。

わたしがいない間に、職場の流れがガラリと変わることは必至で、置いて行かれる、と不安だ。



その時、カリスマがひとことわたしに吐き捨てた。


「キミ、それは仕事放棄だよ」



仕事をするうえで、ちょっとした不安を口にすることはタブーなのか?


しかもこの人は、わたしがどれだけ憧れてきたかとか、

妊娠してるとか、

どんな性格かとか、どんなこと考えてるかとか、

まったくわたしをリサーチしたわけでない。


どんなスタンスで、どんな思いで仕事をしてるか、知っていたらこんなことは言わないだろう。



カリスマは、人の心に迫る人だと有名だ。

あらゆる人を感動に巻き込み、涙を誘う。


わたしもその力に魅了されたひとりだ。



だからこそ、ショックすぎた。


上司がいっぱいいるのに、号泣した。

しかも、妊娠してからしょっちゅうでる鼻血、思いっきり出た。

流血しながら泣く女。

もはやギャグである。


上司に青い顔で心配される始末。




なんだかマズイことを言ってしまったかも、と思ったのか、

カリスマはそのあと、どうもわたしにフォローをしたようだ。

だが、わたしには聞こえちゃいない。


もういいよ、どっかの講演会で、


「わたしのひとことで鼻血吹いた女がいたんですよ!」とか、


「意識の低い奴がいましたよ!」とか、


もう別に悪口言われてもいいです。



キライにはならないと思うけど、

近づいたことをものすごく後悔した。



帰宅して、嗚咽をあげながら風呂掃除をしていたわたしに、

遅れて帰ってきた夫がビビっていた。


嗚咽がようやく止んだころに、ゆっくり話をすると、


「なんだか、キミは失恋した女みたいやな」


と、笑っていた。


「あんなにすきやったのにね。」


どうも、悲しみは理解してくれたようだ。



いやしかし、また会わないといけないんだが・・・。

ズル休みしてやりたいくらい、もう、会いたくない。いまは。