令和5年4月1日から所有者不明土地管理制度が始まりました。

 

これは、所有者が不明な土地について、利害関係人からの申立により、裁判所が管理人を選任し、その管理人に当該土地の管理を任せることができる制度です。さらに、裁判所の許可を得れば、管理人が当該土地を売却することも可能となりました。

 

まだまだ始まったばかりの制度で、全国的にも実際に売却まで至ったケースは少ないと思いますが、つい先日、幸運にも、この「管理人による売却」の登記を申請する機会に恵まれまして…… せっかくなので、備忘録としてまとめておこうと思います。

 

※ブログに記載することについては、売買当事者からの承諾を得ております。

 

 

 

本件は、私が関与した時点では、すでに当該土地の利害関係人からの申立によって、弁護士の先生が管理人に選任されている状態でした。「これから売買に向けて準備したいので、そろそろ司法書士に相談して、法務局に登記関係の確認を…」という段階で、当該土地を購入予定の方(以前に別案件で関与した方)からお声がけいただいた流れでした。

 

最初に電話で「所有者不明土地管理人」という単語を耳にしたとき、(恥ずかしながら)聞きなれない単語に何度か聞き直してしまいました。「所有者不明?土地管理人?不在者とか相続人不存在とかではなく?…あ!…あれのことか!」と。

 

依頼者から関係資料をもらって、急いで調べ直したところからのスタートでしたが、「条文」と「通達」を改めて確認し、「改正民法あたりの書籍」を何冊かあたり、ひととおり目を通したら、ある程度の道筋が見えてきました。(こういう新しい分野の案件は、実際の具体的な案件の依頼がこないと、なかなか深いところまで検討が進まないものですね)

 

非訟事件手続法 | e-Gov法令検索(90条)

 

民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(民法改正関係)(令和5年3月28日付け法務省民二第533号通達)

 

 

 

以下に要点(だと思うところ)を箇条書きにしていきます。

 

●管理人は、利害関係人からの申立てによって選任されます。当該土地を管轄する地方裁判所が選任します。管理人が選任されると、当該不動産の登記記録の甲区に「管理命令が決定した」旨の登記が入ります。この登記は裁判所からの嘱託によってなされます。

 

●管理人は「土地そのものの代理人」です。不在者財産管理人のようなヒトの代理人ではありません。なんか不思議な感じがしますが。

 

●管理人には原則として当該土地を管理する権限しかありません。売却等の管理を超える行為に関しては裁判所の許可が必要です。

 

●「管理人による売却の所有権移転登記」は、通常どおり、登記権利者と登記義務者による共同申請の構造です。登記権利者は買主で、登記義務者は当該土地の名義人です。管理人は「登記義務者の代理人」として登記手続に関与します。

 

●登記義務者側の必要書類は次の通りです。

・「代理権限証書」…管理人の選任が分かる裁判書の謄本

・「印鑑証明書」…裁判所発行の印鑑証明書でOK

・「承諾書」…売却を許可した旨の裁判書の謄本

・「評価証明書」…管理人からの請求で取得可能

・「登記原因証明情報」

・「登記申請の委任状(司法書士宛)」…管理人の印鑑(印鑑証明の)で捺印

 

※裁判所発行の「印鑑証明書」は、”選任”および”印鑑”の証明を兼ねているものでしたが、法務局からは別途「選任の裁判書の謄本」も添付して欲しいと言われました。理由は不明ですが、記録保管上の事情でしょうか。

 

※権利証(登記識別情報)の添付は不要です。

 

●管理人は、受領した売買代金を供託します(供託することができます)。

 

 

 

相続財産清算人による不動産売却の流れに近いと感じました。登記原因証明情報の記載内容も、それをイメージして作成しました。念のため、事前に管轄法務局にも流れを確認していたこともあり、とくに問題はなく登記手続は完了しました。

 

 

参考までに…登記記録の一部抜粋です。↓

 

 

ちなみに↑甲区の「土地管理命令」の登記は、いわゆる「処分の制限の登記」にあたるものですが、これを抹消する登記は、裁判所の嘱託によってなされます。裁判所に確認したところ、抹消登記のタイミングはもう少し後になるようです。

 

※「管理人が全ての業務を完了して裁判所に報告」→「裁判所が管理命令の取消を決定」→「裁判所が抹消登記を嘱託」の流れになるそうです。(「土地の所有権移転の効力が発生」したらすぐに「裁判所に抹消登記の嘱託を依頼」という流れにはならないとのこと)

 

※いまのところ、万が一「土地管理命令」の登記が抹消されずに放置されたとしても、買主側に何らかの不利益がある可能性は思いつきませんが、もしかしたら、融資アリの売買の場合は、金融機関側が気にするかもしれないと思いました。この点については、実務上どんな扱いをされていくのか見守りたいと思います。

 

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司法書士 黒川雅揮

司法書士黒川雅揮事務所HP⇒https://k-legal.jp/

 

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