不動産売買の話です。
民法上、売買契約では、原則として、
売主と買主の合意があれば、対象物の権利は買主に移転します。
契約と同時に、代金を支払うことができるものであれば、
契約時に権利が移転する、ということでいいのですが、
通常、不動産の売買契約においては、
「残金の支払と同時に所有権が移転する」という特約を入れて、
契約しただけでは(代金の支払があるまでは)
権利が移転しないような契約内容にしてあります。
※敢えて、原則通りに、契約時に所有権を移転させる場合もあります。
(例えば、親族間での不動産売買の場合とか)
では、
その「売主」が、売買契約を締結した後、
残金を受領する前に亡くなった場合、権利関係はどうなるのでしょうか?
答えは…
売主の相続人が、
当該不動産の「所有権」と「売主たる地位」を相続します。
登記手続上は、
残金決済をして所有権を買主に移転する前提として、
相続による所有権移転登記を入れる必要が生じます。
(相続の登記は、売買の登記と、同時に連件で申請してもOK)
売主名義のまま(相続の登記を入れないまま)、
直接、買主名義に所有権移転をすることはできません。
この問題、
司法書士試験の受験勉強では、ド定番の論点ですが、
先日、実務では初めて経験しました。
(以下、一部脚色してあります)
当初の残金決済予定日の1週間ほど前に、
売主の仲介業者から、
売主がお亡くなりになった旨のご連絡を頂きました。
その数日後に、相続人のお一人と連絡がとれ、
必要となる手続の説明をしたうえで、
スグに司法書士側で戸籍関係の収集を開始させて頂きました。
かなり大急ぎで収集したのですが、
約20日間位かかってしまいました。
戸籍関係が揃うまでの間に、
相続人間では遺産分割の話し合いをしておいてもらいまして、
相続人全員が迅速に協力してくれたおかげで、
約1か月程で、相続登記に必要な書類は全て揃えることができました。
実務上の注意点としては、次の様な感じでしょうか。
・お亡くりになった旨の記載が戸籍に反映されるまで、
思ったよりも時間がかかる。
(死亡届の提出先が、本籍地と異なる場合はとくに)
・相続関係者の数が少なかったとしても、
転籍の回数が多い人がいると、
戸籍収集には思ったよりも時間がかかる場合がある。
・買主側が、銀行の融資を利用する場合、
融資の条件として、相続登記の完了まで必要かどうか確認する。
(書類が揃っているだけでもOKかどうか)
・もとの売買契約上の残金決済期日に間に合わない場合は、
期日を延期してもらう。(念のため、余裕をもった期日に)
けど、ある程度、戸籍が集まらないと、
どれくらいで相続人が確定できるか、判断できない。
・「すぐに現金化できる不動産」の相続なので、
遺産分割の手続の説明には少し気を遣うこと。
(不動産と比べて、現金は分配し易くなってしまうので…)
・”遺産分割の話がまとまらない”可能性もあることについて、
あらかじめ買主側には説明しておく。
例えば、”知らない相続人の存在が判明”することも、等。
ちなみに、この件では、
買主側の金融機関の都合で、
相続登記が完了してからでないと、残金決済ができませんでした。
この手続をしていた時期は、
ちょうど管轄の法務局がかなり混んでいる時期で、
登記の完了が、申請日から2週間ちょっとかかる予定になっていました。
相続登記を申請する時に、
一応、法務局には事情を説明して、
何とか急いで処理してもらえないか、とお願いをしたのですが、
ほんとうに大混雑だったようで、
結局、相続登記が完了したのは、ほぼ予定日通りでした。
そんなこんなで、
当初の決済予定日から約2か月弱の遅れになりましたが、
無事に残金決済を行うことができました。
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司法書士 黒川雅揮
司法書士黒川雅揮事務所HP⇒http://k-legal.jp/