【マリンの受験戦記3~決意~】

 

「お母さん」

 

マリンは中学2年生あたりから、ママの呼び方を、ママからお母さんに、変えた。

 

ちょっと大人バージョンといったところなのか。

 

ともあれ、2年生の3学期も終わりに近づいたある日、

 

やけに真剣な表情で、マリンはママに、

 

「お母さん」

 

と。

 

何やらただならぬ雰囲気を感じながら、

 

「はい」

 

と、思わずつられて、妙にかしこまってこたえたママに、マリンが決意も堅いと思しき声で一言。

 

「私、支援級に移りたい」

 

と……。

 

 

 

 

 

ええええええええええええ?????

 

 

えええええええええええええええええええええ?????

 

 

支援級ってあれだよね!?

 

特別支援級のことだよね??

 

ええええええええええええ???

 

……これはあれだ。

 

ママの、聞き間違い……かな!?

 

「……今、支援級って、言った?

 

 それってもしかしなくても特別支援級のこと??」

 

「そうそれ!特別支援学級!!」

 

 

ーー聞き間違いじゃなかった。

 

 

 

 

てゆーか今!???

 

 

 

中学2年も終わりがけの、間もなく最高学年になろうというこの段階で、今!?

 

 

「うん」

 

その真っ直ぐにママを見返す目…どうやらノリや冗談ではないらしい。

 

「……えーっと……とりあえず、何で?」

 

呆然と返したママに、マリンの怒涛の演説が始まった。

 

 

「私、私だけ、授業中何にもしてない」

 

「…うん?」

 

……授業がさっぱり分からないから、ぼーっと…空想しまくってる、って意味だね?

 

知ってる知ってる。

 

あなたが授業の時間をほぼほぼ棒に振っているのは、ママ大分前から知ってた。

 

……えーー…で、それで?

 

 

「私だけ、授業中何もしないで楽してて、放課後だけ、みんなとワイワイ楽しんでて、私だけ、ズルしてる。ズルじゃんそんなの」

 

「ズル、か…」

 

ズル、ときたか。

 

「ズルだよ!

 

 だって、だってさ!

 

 みんな頑張ってるのに、私だけ楽してて、

 

 何にもしてなくってさ!!」

 

言いながら、何かが込み上げてきたらしく、泣き出したマリン。

 

 

えええ、泣く⁉︎

 

ここで泣く⁉︎

 

てゆーか、泣くほど⁉︎

 

ズルしてた(?)自分が??

 

ダメだと思うワケかな???

 

ママは、無意味で退屈な時間はさぞ苦痛かろうに、今までよく耐えてきたよねとか思ってたわけだけど、ズルって思うってことは、つまり。

 

 

 

授業中の空想タイムが

よほど楽しかったということかしらん……(^▽^;)

 

 

 

「と、とりあえず、一旦落ち着こう?

 

 えっと……それで、何で支援級?」

 

 

 

 

「ちゃんと勉強したい!!」

 

 

 

 

!?!?!?!?!?!?

 

 

お、おお!?!?!?

 

 

今、何と!?!?!?

 

 

「……へ!?!?!?」

 

「私も、私の勉強がしたい」

 

 

 

 

……つまり。

 

支援級に移って、自分のレベルに合った、自分のための勉強をしたい、ということ…?

 

「うん」

 

 

まじか(゚Д゚;)(゚Д゚;)(゚Д゚;)

 

 

あんた、あんなに勉強苦手なのに、そんなに勉強したかったの!?!?!?

 

 

ママなら間違いなく、どうやって避けて通るか考えるとこだよ⁉︎

 

(それもどうなんだ)

 

 

ーー1年生の頃は、テストの点が低くても、塾に行きさえすれば、自分ももっと高い点が取れると思っていたマリン。

 

2年から塾に通い始めて、それまでに比べれば劇的にアップしたけれど、本人としては、その点数に失望しかなかったらしく……

 

さらに、2学期に、グループワークで置いてけぼりをくらった事が決定打となったらしい。

 

そういえばあの頃、

 

「ママ…なんで私は、みんなと同じ事が同じようにできないのかなぁ…」

 

と、しょんぼりしていたことが何度かあった。

 

ママは、マリンが周りと同じことが同じようにできないのは今に始まったことじゃないので、あんまり深刻に考えておらず…

 

 

「いやいや、同じ人とかおれへんから。

 

 できることが違うのは当たり前やん。

 

 ママかって、そら数学はそこそこできてたけど、

 

 英語はどんだけ勉強しても、ノー勉のマリンよりひどい点数やったし(マジです)、

 

 2点とか取ったことあるし!!

 

 スーパーの駐車場に置いた自分の車の場所を覚えてなくて毎回めっちゃ探し回るし、

 

 人の顔と名前覚えられへんし、

 

 (ママ……ポンコツだな……)

 

 マリンはそこんとこめっちゃ強いやん。

 

 そんな比べんでええやん」

 

 

とか、実に軽い調子で返していたわけだけれど。

 

 

………ご、ごめんよう………。

 

あなたがそんなに真剣に、勉強できるようになりたいんだとか、

 

ママ全然知らなかったんだよう……。

 

 

ーーママは、マリンを見くびっておった。

 

 

マジで申し訳ない。

 

 

かくなる上は、ママはママの出来ることを、精一杯やってあげよう。

 

 

 

「勉強したいから、支援級に移りたい、のね?」

 

「うん」

 

「分かった。パパに話して、それから先生にもお話して、手続きしよう」

 

「マジで!?」

 

「ん。ママに任せて」

 

「まかせる!!」

 

 

 

そんなこんなで、マリンが、支援級に移るための、1ヶ月弱の大騒動が始まった。

 

つづく。