東京高裁判決 横浜ルート | 建設アスベスト裁判

建設アスベスト裁判

建設現場で、アスベスト含有建材を加工や吹き付けアスベストを削ることで、目に見えないアスベスト粉塵を吸引し、悪性中皮腫を患い死亡した父と遺族の戦い。
国と建材メーカーに謝罪させ、アスベスト救済基金の創設が最終目標。

 建設現場でアスベスト(石綿)を吸って肺がんなどになったとして、神奈川県の建設労働者や遺族ら八十九人が、国と建材メーカー四十三社に計約二十九億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が二十七日、東京高裁で開かれた。永野厚郎裁判長は原告敗訴とした一審横浜地裁判決を変更し、国とメーカー四社に総額約三億七千万円の賠償を命じた。

 全国で十四件ある同種訴訟で初の高裁判決。地裁も含めて判決が出ている七訴訟のうち、国への賠償を命じたのは七件目、メーカーへの賠償は三件目。

 東京高裁判決は「医学的な見解などから、国は一九八〇年ごろには重大な健康被害のリスクを把握できた」と認定した。遅くとも八一年までに防じんマスクの着用を義務付け、警告表示などを改めるべきだったと指摘。九五年まで怠ったのは「著しく合理性を欠く」として、原告四十四人への支払いを命じた。

 一方、メーカーのうちニチアス(東京都中央区)、エーアンドエーマテリアル(横浜市)、エム・エム・ケイ(東京都千代田区)、神島化学工業(大阪市西区)の四社については、製品の製造時期や市場シェアなどから、製品が建設現場で使用されたことが明らかだとして賠償責任を認定。原告三十九人への支払いを命じた。

 原告は六〇年ごろから建設作業に従事し、肺がんや中皮腫になった労働者と遺族。国とメーカーに、労働者一人当たり三千八百五十万円を求めて提訴。

 横浜地裁は一二年五月、医学的な見解について今回とほぼ同様の認定をしながら、「国の対策は著しく合理性を欠くとはいえない」として訴えをすべて退けた。

 原告弁護団の西村隆雄団長は「今回も企業の賠償義務を認めたことで、メーカーの対応も変わってくるだろう。早期解決を国に強く求めたい」と話した。

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 厚生労働省石綿対策室は「国の主張が認められなかった点もあり、厳しい判決と認識している」、ニチアス、エーアンドエーマテリアル、神島化学工業は「主張が認められず、遺憾だ」などとコメントした。

◆新たな救済制度必要

<解説> 東京高裁判決は、建設現場の石綿対策に消極的だった国を厳しく批判し、国の責任を認める司法の流れが定着したといえる。これを踏まえ、被害者への補償が不十分な現在の救済制度を早急に改善し、新たな補償の枠組みづくりに国が乗り出すことが望まれる。

 安価で保湿性と耐火性に優れた石綿は「奇跡の鉱物」といわれ、高度経済成長期の日本で住宅に広く使われた。国の対応が後手に回ったのは、当時の深刻な住宅供給不足も背景にあったとみられる。

 国内では二〇〇〇年以降も使われたが、一九七二年には世界保健機関(WHO)が発がん性があると発表し、欧州で段階的に使用が禁止していた。

 肺がんや中皮腫を発症した被害者の多くは高齢で、救済のために残された時間はわずか。現在の石綿健康被害救済制度では、医療費や月約十万円の療養手当が給付されるが、重い障害などに悩まされる被害者の要望とは程遠い。

 国と建材メーカーの責任を認めなかった一審判決ですら「石綿を含む建材で利益や恩恵を受けた国民全体が補償すべきものとも考えられる」と指摘した。国が中心となり、メーカーとともに新たな基金を創設するなど、被害者に寄り添う対応が急務だ。