北極星を神とする星田妙見宮

金澤成保 

 

 大阪府交野の磐船神社をお参りしたあと、「府民の森・ほしだ園地」を歩いて北方に抜け、妙見山にある星田妙見宮(小松神社)を200段を超える階段を登って参拝した。星田妙見宮は、北極星を神格化してお祀りしたお宮で、仏教の妙見菩薩、その同体とされる神道の天之御中主大神、道教の鎮宅霊符神として祀っている。神社としての御祭神は、天之御中主大神、高皇産霊大神、神皇産霊大神の「造化三神」。

 

 七夕祭星降り祭がおこなわれるが、巨石を御神体とする「磐座」が祀られており、龍神が信仰の対象ともなっている。自分の「守護星」をお参りする習俗もあり、密教の護摩焚きもおこなわれる。古来の神道・仏教に加え道教・陰陽道の信仰が習合したユニークな神社である。

 

 

(星田妙見宮、享和元年(1801)『河内名所図絵』)

北極星の発見と信仰

 太陽と月の運行は、往古より人々の関心の対象となり、中東やアジアで神の力によるものとして尊びあがめられ、やがて観察・研究が進んで天文術として体系化されていった。季節の循環や天候の変動を予想することが農耕をはじめとして日々の生存に欠かせず、海原の航行においても方角の定位が、死活に関わることであったためである。

 

 北極星(北辰星)が、天体の中で唯一不動の中心にあり、その周りをすべての星が循環し続けることを発見すると、北極星を宇宙万物の根源をなし自然界と生命をつかさどる大霊として崇め、それを補佐し万物に恵みを与える北斗七星を神格化した「北辰北斗信仰」が、中国では後漢(1〜3世紀)ごろから広まり、古代日本にも伝来した。高松塚古墳やキトラ古墳の石槨の天井には、北極星を中心に28宿の星座が描かれ、天空を東西南北4象限に分けてそれぞれの星座のまとまりを神獣にたとえ、その方位の守護神「四神」として尊び壁画に描いている。

 

 「北辰北斗信仰」では、北極星を天帝太一神の居所とし、北斗七星など周囲の星々を宮廷と見立てて紫宮、紫微宮と名づけられたが、天命を受けて地上世界を統治する天皇天帝の権威と尊厳が重ねられ、もともと天帝の尊称であった「天皇」が大和王権の大王の称号とされ、その宮廷はやがて紫宸殿と呼ばれるようになっている。また古代宮都の都市計画を見ると、「王」は地上世界の中心にいるとの考えから藤原京都城の中央に「宮城」を配しているのに対し、その後の平城京平安京では、「王」は北極星に重ねられ「天子は北を背にして南面す」との思想から「宮城」は、都城中軸上の北辺に南に向け配置されている。

 

星田妙見宮の由来と境内

 伝承によれば、平安時代、嵯峨天皇の弘仁年間(810 – 823)に、弘法大師が交野に来たおり、獅子窟寺吉祥院の獅子の窟に入り、秘法を唱えられると、天上より七曜の星(北斗七星)が降り、3ヶ所に分かれて落ちた。このうちのひとつがこの地と言う。後に弘法大師が赴かれ、大師自ら「三光清岩正身の妙見」と称され、「北辰妙見大悲菩薩独秀の霊岳」、「神仏の宝宅諸天善神影向来会の名山」として祀られたと伝わる。

 

 一方で、拝殿の背後には七夕の織姫を祀るとされる「織女石」の岩が御神体とされており、享和元年(1801)に刊行された『河内名所図絵』には、「妙見祠 妙見山にあり。神躰巨石三箇、鼎の如く岐ちて、丘の如し」とされ、貝原益軒の紀行文『南遊紀行』にも「此谷のおくに、星の森有。星の社あり。其神は牽牛織女也。」とあるように、交野山や磐船神社の巨石信仰と同じく、弘法大師による当社建立の以前から、岩石に神が宿るとして「磐座」崇拝がおこなわれていたのではないか。

 

 平安時代には、当社は「神禅寺」と称されており、河内長野の天野山金剛寺の古文書には嘉承元年(1106)の年号で「星田神禅寺」と見え、延宝6年(1678)の『東和久田系図』には、応永9年(1402)生まれの和田出雲安直・将藍安道・采女安国の三代にわたり、当寺の別当職であった。天文4年(1535)の神明帳には、小松大明神と記され、当社は小松神社とも呼ばれている。

 

 明治の「神仏分離」の影響もあってか、その後当社は荒廃するに任せられたが、現在の佐々木宮司が脱サラし、困窮をおして当社の再興に尽くし現在に至っている。

 

 

 境内は、17000坪の急峻な樹林地で、拝殿に至る参道沿いには、末社や滝行の滝や泉がある。道教の北極星の神を祀る「鎮宅社」、

 

 荒神を祀る三宝荒神社、稲荷信仰の豊臣稲荷社下社稲荷社、歴代の宮司・社守を祀る祖霊社であり、

 

 龍神を祀る社もあり、竜王社、青龍社、竜神社が祀られている。

 

 登龍の滝は、弘仁7年(816)7月23日に隕石が落ちたとされる場所といわれている。落差5mの滝で滝口は人工化された修行の滝となっており、不動明王の像が祀られている。毎年7月23日には、星降り祭がおこなわれる。