麻紀のその声にハッとなりシゲは駅の公衆電話の受話器をおいた。
「ほらね、やっぱりダメだわ俺。麻紀の事忘れようと思ってるのに、、、」
シゲが本当に電話をかけたかったのは麻紀の自宅ではなく自分の自宅だった。
この数ヶ月、公衆電話から麻紀へ電話する事が多かったので無意識にダイヤルしていたのだ。
シゲは気を取り直して今度は番号をゆっくりゆっくりプッシュしていく。
「もしもし。」
今度は間違える事無くシゲの母親が出た。
「今日今から麻紀と長い映画見て帰るから帰り遅くなるから心配しないで。」
レイトショーな訳ではない17時スタートの映画だった。
タイトルは
『シンドラーのリスト』
ナチスドイツ軍のユダヤ人虐殺がらみの映画だ。
映像がグロテスクなのでほとんど全編モノクロの4時間弱の映画。
文芸好きの麻紀らしい選択でもあるが正直16歳体育会系のシゲには拷問に近い内容、、、
麻紀がこの映画を選んだ時点で麻紀のその後の言葉が決まっていたのかもしれない。
何度も何度も睡魔と戦い、なんとか内容は理解出来たシゲだったが麻紀の深い話には相槌を打つことしか出来なかった。
映画館を出た二人はいつものように手をつなぎ駅へ向かった。
駅構内に入った途端、麻紀はシゲの手を振り払った。
「私たち友達に戻ってもう三ヶ月だよね?
友達は手をつながないでしょ。
もう二人で会うのはよそう、、、シゲの為にだよ。私も辛いけど、、、」
そう言うと彼女は一人、改札へ走り去った。
その後ろ姿を見ながらシゲは冷たい冬の壁にもたれかかり涙を流した。
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back to be 1992.4. 桜