そして恋が降ってきた【後編】
<第三十九章>ささやかだけど特別な幸せ
9月中旬、健太は転入してきた学校での
初めての参観日を迎えていた。
今までは、忙しい母親に来てほしいと言えず、
彼はいつも案内のプリントを、そっとゴミ箱に捨てては
その日が過ぎた後に、トモコに叱られていた。
けっして来て欲しくなかったわけじゃない。
ただ、朝も夜も仕事で疲れている
トモコの手を煩わせたくなかっただけだ。
授業参観に来る時間があるなら、
その間の何時間かでも、彼女に休んで欲しかったのだ。
それは本当だった。
算数の授業で、桁の大きな数字を数えながら
教室の後ろに居る、博之とトモコの姿を探す。
二人と目が合うと、
照れくさくてそっと、前を向いた。
“こんな日が来るなんて。”
東京に来た最初の日には
思ってもみなかった。
『健太は、お父さん探したい?』
そう聞いてくれた、翔のおかげだった。
家に帰ったら、彼に手紙を書こう。
健太はそう思いながら、授業を聞いていた。