~文化財散歩(23)~
滋賀県東近江市八日市にある「招福楼」は、
明治元年(1868年)創業の日本を代表する茶懐石の名店です。
父から、こちらのお店は老舗のトップクラスの名店であることを以前から聞いていて、
一度は行ってみたいお店の一つでした。
「招福楼」の門を入ってからお店までは長い砂利道が続きます。
神社の参道の玉砂利は、境内の清らかさを保つために敷かれています。
それは、玉砂利の音で、邪を離し(邪離)、お祓いをするためです。
砂利道を歩き、砂利の音を聞きながら、
清らかな聖域に一歩一歩進んでいくような、とても不思議な感覚を覚えます。
玄関では中居さんが2人、左右両サイドに分かれて、両膝と頭を床に付けて、
私たちを迎えてくれました。
【写真:招福楼】
「招福楼」で修行した料理人から、数々の名料理人を排出し、日本料理界の総本山とも言われるお店です。
平成29年(2017年)、「招福楼」前主人の中村秀太良さんが、第2回の「和食文化京都大賞」に選ばれました。
かつて、このエリアには「沖野ケ原飛行場」がありました。
そのため、戦時中は、空・陸軍の人達で賑わっていて、繁華街として栄えたエリアでした。
今でも、その名残がのれん街として、残っています。
1300坪という広大な土地に部屋は6室、全て個室です。
部屋からは四季折々の庭の風情を楽しむことができ、
また、庭に建てられた茶室「不識庵」と「半庵」でも、お食事をすることができます。
【写真:招福楼】
建物、庭園、室内装飾、茶室のしつらい、食器、料理、そして中居さんのおもてなし。
「招福楼」では、日本文化の総合芸術を味わうことができます。
何ものにもとらわれることなく五感を研ぎ澄ませて、自分の内側を静かに感じたいとき、
京都では味わえない、滋賀ならではの広大な空間と、ゆったり過ごす時間は格別です。
こちらも文化財としては登録されていませんが、この空間で味わうからこそのお料理の数々・・・。
「招福楼」の全体が、アート、芸術作品なのではないでしょうか?
「招福楼」の名前の通り、ここでは、まさに至福の時間を体験することができるのです。
(写真・文 若林三都子)