静かな朝だった

静かすぎて、わからなかった

庭に面した窓のむこう、何かがいつもと違っていた

雪、だった

大阪での降雪は、珍しい

窓に張り付いて、落ちてくる雪をじっと見つめていた

雪は、軽い
それゆえ、雨のように、一斉にまっすぐ落ちてくるわけではない

風を受け、ひとひら、ふたひら
少しずつ、異なる方へ、流れ舞う

それでいて、その流れは、調和がとれている

JAZZみたいだな」
呟く自分の声に驚く

その声にせかされるように
厚手のジーンズ、セーター、ダッフルコートをクロゼットから取り出し
素早く身につける
手袋、ニットの帽子も必要だ

JR、地下鉄、阪急と乗り継ぎ、神戸のとある駅へ着いた

駅から歩いて10分

雪はまだ降り続いている
コートのフードを立てる

小さなカレーショップ
オーナーは古い友人だ

ドアを開くと、JAZZの空気に変わる

客は、いない

この店には、いつもJAZZが流されている

オーナーが、笑顔で言う

「雪の中、遠いところありがとうございます」

「雪を見ていたら、どうしても来たくなったんです」

オーナー特注の木のハンガーに
雪に濡れたダッフルコートを架ける

オーナーがカレーコースの用意をしている間
僕は窓の外を見ていた

いつしか風が強くなっているようだ
雪が縦横に、時に上下に舞う

見事としか言いようがない自然の、アート

そして
マッキントッシュのスピーカーから流れる
アップテンポの
JAZZ

雪と共演している

今日、雪が降って、よかった

JAZZが聞けて、よかった

今日、生きていて、よかった

とりとめもない想いを
香ばしいカレーの匂いが打ち消した

コースを片づけている間も

雪とJAZZ

声なき歌を僕に運び続けてくれていた