思い通りにするために、他者を引きずり込んではいけません。

思いは人に押し付けるものではなく、伝えるものです。

 

 

 人はみんな、自分自身の思いがあります。そしてその思いを大切にするあまり、自分の思い通りにことが運ぶことが最善だと考えます。そして自分が描いた通りの人生を送りたいと誰もが願うのです。

 では、思い通りの人生とは何なのでしょうか。女性の場合、30歳までには結婚して、キャリアを十分に積んでから出産して、40歳で自分の家をもち、子供はそこそこの学校に通わせて、将来は大企業に就職支えたい。そして定年後には自然豊かな土地に移り住んで、のんびりと生涯を終えたい…。こんな小説のようなストーリーを作り、その通りになることを願っている。もしも本当にこの青写真の通りに人生が決まっているのであれば、もう人生を楽しむことはできないのではないでしょうか。結果は見えているのですから。

 しかし、どんなに思い描いたところで、その通りに実現することはありません。なぜならば、その「思い通り」の中には、あなた以外の、あなたの力が及ばない他者の人生が関わっているからです。

 いくらあなたが強い意志で抱いていたとしても、それがそのまま他者に受け入れられるはずがありません。子供は思い通りには育ちませんし、伴侶を思い通りにすることなどできるはずもないからです。

 そのことを忘れて、自分の思いの中に、他者を引きずり込もうとしてしまう。そして思い通りにならないときには落ち込んだり、誰かに当たったりする。このようなことは、まったく無意味で滑稽なことだと私は思います。

 

 人生はけっして思い通りに運ぶものではない、ということをしっかりと心に留めておくことです。

 思い通りにならないからこそ、そこに面白さがあるのです。思い通りに運ばないことで悩むからこそ、生きる力も知恵もついていくのです。

 そしてもう一つ大事なことは、自分の「思い通り」を他人に押し付けてはいけないということです。たとえそれが家族や子供であったとしてもです。

 親はつい、子供に対して自分の思いを押しつけようとしてしまいます。「自分はこの道で幸せだったのだから、あなたもこの道で歩きなさい」と。

 しかし、その幸福とはあなただけのものにすぎないのです。あなたの幸福と子供の幸福は別のものです。あなたの知っている幸福とは、あなたが歩いてきたたった一つの道にあったものにすぎません。

 人生の道は、数え切れないほどあるものです。人の数だけそれはあるものなのです。

 一方で、思い通りに生きる素晴らしさもあります。しかしそれは、周りの人に自分の思いを押し通してなし遂げることではありません。言ってみれば、それぞれの人が心の奥に持っている志を伝えることです。

 自分は人生をどう生きようとしているのか。どのような心をもって生きているか。その志こそ伝えることです。

 「思い」とは押しつけるものではなく、伝えるものなのです。