仏教が説く「Win-Winの関係」

 

 ビジネス界では近年、「Win-Winの関係を目指そう」ということが、すっかり定着してきた感があります。利益が相反する相手とでも、「お互いにメリットのあるやり方を模索していきましょう」という姿勢です。

 その一つの表れとして、企業間で盛んに「コラボレーション」が行われるようになってきました。たとえばお互いの得意とする技術を生かして新商品・新サービスを開発するとか、互いの顧客層を共有して新たな市場を開拓する、設備を共用して無駄を省く、自社製品にブランドのデザインを組み合わせるなど、様々な方向で協業が実現しています。

 これらは新しい考え方のようですが、仏教では実は古くからこの「Win-Winの関係」を築くことが、当たり前のように実践されてきました。

 そのキーワードが「利他」―。

 他人のためになることを優先させて行動する、それが自分を鍛え上げることにつながり、結局は自分自身のためになる。そういう考え方です。

 逆に言うと、「自分がよくなりたかったら、相手にもよくなってもらうことが必要だよ」とも読めます。

 

 このことは、上司と部下の関係にも当てはまります。部下が能力を発揮して実績を上げてくれれば、上司である自分もいい方向に向かいますよね?

 そうなるように、上司は部下が仕事をしやすい環境を整えたり、助言・助力を惜しまずに与えたりすることが大切なのです。これこそが「利他の心」です。

 一方で、部下の手柄を横取りしたり、自分の手柄のように触れ回ったりする上司が少なくないと聞きます。それはとんでもないこと。そんな上司に部下がついてくるわけはありません。やる気をなくして、士気が下がるだけです。

 いい上司は、いかに自分がいいアドバイスを与えたにせよ、部下の実績を「君が努力したからだよ」と褒めてやり、逆にうまくいかなかったときはすべての責任を引き受ける度量をもった人。部下は自然と「この人についていきたい」という気持ちになります。

「利他の心」が部下の背中を押し、会社全体の実績を上げることにつながるのです。

 実際に、「自分が、自分が」と前に出てアピールする人より、部下のために思って裏方のように立ち回る人のほうが、周囲からいつの間にか前に押し出されて出世していくケースは多いものです。

「利他の心」で相手のために動けるリーダーが、結果的に一番成功するのです。