八風吹不動(はつぷうふけどもどうぜず)

 

 私たちが歩む人生には、順風あり、逆風あり。ほかにも、温風、寒風、暴風雨、強風、乾風、熱風・・・様々な風が吹きます。

 仏教では「心を動揺させる状況」を風にたとえて、「八風」といいます。具体的には、「利(得する状況)」「衰(うまくいかない状況)」「毀(悪口を言われる状況)」「譽(名誉を与えられる状況)」「稱(称えられる状況)」「譏(そしりを受ける状況)」「苦(苦しい状況)」「楽(楽しい状況)」の八つです。

 

 誰もが常にこういった風のどれか氏らに吹かれていますが、惑わされてはいけません。ただ風に流されるように行動していると、自分自身を見失ってしまうからです。

 大事なのは、どんな風が吹いていようとも、言い換えればどんな状況にあろうとも、いちいち反応してオロオロせずに、真正面からその風―状況を受け止めること。

 そのうえで、状況をよく見極めて最善を尽くすのみ、です。この禅語の「不動」の文字は、「心を動揺させずに、どっしりと構える」ことを意味します。そういう「不動の心」を持って、自分の信じるところに従って行動しなさい、ということです。

 例えば苦境に立たされたら、「ここは何とか踏ん張って、時期を見て巻き返しをはかろう」などと考え、事態を好転させるように行動しましょう。

 逆に、大きな成果を上げるなど、非常にいい風が吹いているときには、喜びは「とりあえず部内でささやかに祝杯を上げる」程度にとどめることが肝心。

 いい気になって自慢して回ったり、「向かうところ、敵なし」とばかりにぐいぐい行ったりするのは禁物です。周囲から敵意の視線を向けられるかもしれません。そうゆう時こそ「不動の心」で、より謙虚に慎重に物事を進める必要があります。

 とりわけリーダーは組織を動かす要ですから、「不動の心」をもって行動することが求められます。どんなときも「八風吹不動」と自らに言い聞かせ、状況に流されないように努めてください。

 と同時に、部下が八風に流されないよう指導してあげることも、リーダーとして大切な務めです。

 

 例えば部下が実績を上げられずに悩んでいたとします。そういうときは、「辛いかもしれないけれど、今はそういう風が吹いているだけのこと。その風をしっかりと受け止めなさい。その中で、今後どうすればいいかを沈思熟考しなさい」などといってあげればいい。逆に、追い風が吹いて、いい気になっている部下がいたとしたら、こんなふうにいってあげる。

「追い風はいいものだけれど、いつ逆風に転じるかわからないよ。まんまと風に乗せられて自分を見失ってしまうことなく、幸福を喜びながらも冷静に状況を直視し、その先に待ち構えているかもしれない困難に備えよう」

 どんな風が吹いているにせよ、そこから逃げようとあたふたしたり、吹き飛ばされたりしないよう用心しなければなりません。風に翻弄されると、ろくなことにはならないのです。

 ともすれば風に流されそうになっている部下には「八風吹けども動ぜず、だよ」とおしえてあげましょう。