一緒に何かをすることでもなく、しょっちゅう会うことでもなく、お互いのすべてを分かち合うことでもありません。

 何があろうと、ずっと友達でい続けること。

 これが最高の友情だと僕は思います。仲の良さとは、距離を縮めることではないと考えているのです。

 つかず離れず、相手に侵入していかない。親しいからこそ、礼儀を忘れず、相手を尊重する。こうした距離をいつも意識していなければ、友情なんて長続きしないのではないでしょうか。

 年月とともに、人も環境も変わっていきます。お互いにいろいろなことが起きるから、お互いの距離も伸びたり縮んだりします。

 学生のときは双子のようにぴったりとくっついていた二人が、仕事や結婚を経て少し遠のき、やがて何かのきっかけでまた近くなるといったことは、多くの人が経験しているでしょう。

 いさかいや考え方の違いでも距離は変わりますに、とりたてて理由もなく、距離ができることもあります。ずっと大切にしたいつながりであれば、意識的に、遠ざかれば近づき、近づきすぎたらちょっと退くことも必要です。

 「自分とこの人との距離感は、どのくらいがちょうどいいのだろう?」

 僕は常にそのバランスを、考えるようにしています。当然ですが、「相手にとっての心地いい距離」についても、思いを巡らせるようにしています。

 

 ある仕事で二週間ほど、海外取材に出たことがあります。クライアントと二人きり、朝から晩までずっと一緒の旅です。彼はごく感じがいい人で、仕事もうまくいき、僕は快適に帰国しました。

 ところがある時、別の人から、彼がこう言っていたと聞きました。

「彼は二週間も一緒にいたのに一度も心を開いてくれなくて。僕は一生懸命、個人的な話をしたり、内面的なことも打ち明けたけれど、彼はそんなことがまったくなかった」

 僕は、なるほどと思いました。彼を今でも友達だと思っているし、付き合いも続いていますが、僕と彼とは求めているものが違うということが分かったのです。

 僕は彼に心を開いています。しかし、個人的なことを告白しようとは思いません。

 秘密を共有したり、打ち明け話をして親しくなる人は多いようですが、「自分の心のうちは、自分の中にしまっておけばよい」というのが僕の性分なのです。

 自分がどういう人間で、相手とどのくらいの距離を取って付き合うのがちょうどよいのかをお互いに表明しておくこと。その大切さを改めて感じた出来事でした。