言葉を整えるとは、どういうことでしょうか。それは、単に意味や文法の正しい言葉遣いをすることではありません。人と会話をするとき、相手のことを思いつつ、どういう言葉を遣うべきなのかを頭の中に巡らせて、言葉を発することです。言い換えれば、自分の言葉に責任をもつ、ということです。

 禅では「不立文字 教外別伝」と言います。これは、真の教えは言葉や文字では表現できないところにある、という意味です。

 つまり、人が本当に伝えたいことや伝えるべきことは言葉や文字にならない、ということ。ですから、禅では沈黙を選びます。

 しかし、「言葉は役に立たない」と言っているわけではありません。大切なことは言葉ではなかなか伝わらないからこそ、言葉を整えることによって「心を伝える」必要があるのです。

大事なのは、自分の言葉を相手がどう受け止めるかということに、まず思いを巡らすことです。何気ない言葉が、時には相手を傷つけたり、不快な思いをさせてしまったりするもの。ですから、言いたいことを思いついたままに話すのではなく、一度相手の立場になって、自分ならその言葉をどう受け止めるだろうか、と考えてみることが大切になります。

自分が触れ合うすべての人に対して思いやりの心をもち、つねに相手の気持ちを察して優しい言葉をかける。禅で言う「愛語」です。一番いいのは、その言葉に穏やかな笑顔を添えること。これを「和顔愛語」と言います。

愛想のない顔で話をされるのと、やわらかな微笑みを浮かべながら話をされるのでは、その言葉を受け取るときに印象はまったく違ってくるでしょう。笑顔はただそれだけで、相手の心を明るくし、心の壁を取り払ってくれます。「和顔愛語」で人と接していると、自分の気持ちも落ち着き、穏やかになる。心が整ってくるのです。

とはいえ、相手に不満をもったとき、思わず棘のある言葉を発してしまうこともあるでしょう。カチンとくるようなことを言われたとき、怒りに任せてすぐに言葉を返してしまうと、お互いにエスカレートしてしまうもの。その結果、人間関係を台無しにしてしまうこともあります。

何かいやなことを言われたときは、その言葉をすぐに頭に入れないことが大切です。怒りの種を頭に取り込むから、カッとなるのです。

その言葉をお腹にとどめ、三回深呼吸をする。すると「間」が空くことによって、相手の言葉を冷静に受け止めることができます。この人は本心で言ったのではない、虫の居所が悪いだけだ、と。

一度口にした言葉は、決して元には戻りません。ですから、腹が立ったときには、言葉を発する前に、ひと呼吸置くことを心がけてください。それだけで、次に出てくる言葉は大きく違ってくるはずです。

 

・和顔愛語

―穏やかな微笑みと温かい言葉で常に人と接する。

発言する前に、自分の言葉を相手がどう受け取るか、思いを巡らせてください。思わず棘のある言葉を発しそうになったら、深呼吸をして間を取りましょう。