今までの創作同人電子書籍ご紹介まとめ3 | しちにんブログのブログ

今までの創作同人電子書籍ご紹介まとめ3

まとめ1→http://ameblo.jp/shichinin/entry-12209115120.html

まとめ2→http://ameblo.jp/shichinin/entry-12209116153.html

まとめ3→今ここ

 

まとめ4→http://ameblo.jp/shichinin/entry-12209118929.html

{未来さん}[新谷明弘]


 数百年後の未来社会の日常を描いたSF。一番面白かったのは未来では電気は年末に一回だけ屋台で買うものだというところ。未来では電気は電線で送られてくるのではなく、飴玉のような超高密度電池の形で売られているのである。未来なのにクラシカルな日本の風習的なアレンジで面白かった。バレンタインに謎機械を贈るという回もいい。この時代ではバレンタインデーにはチョコではなく、謎機械を贈るのだ。謎機械とは、チャップリンのモダン・タイムスに出てくる機械のように、水流が水車を回すというなんでもないことを水路を迂回させたりしてひたすら冗長にしたものである。謎機械の絵がいい。人間の脳も謎機械にほかならないというオチもいい。渡辺浩弐先生のSF{2999年のゲーム・キッズ}に、ドーム型都市の中では燃料を消費し機械を動かし雑多な経済活動が行われているが、大局的に見れば出力はドームの外についている風車の回転だけであった、という回があった。まんが描きは一日2000kcal(ガソリン180ccに相当)を消費して2ページの絵を出力する謎機械なのである。

 

{俺の電書ライブラリーがヤバい件} 新谷明弘

女の子が信じられないくらいかわいい(中身はおっさん)。

 

{うちの猫ず日記}[がぁさん]


 作者さまの飼った猫の実録まんがである。作者さまの家には猫屋敷である。猫が自由に入れるドアがあり、気が付くと野良猫が混じって入ってきたりする。新しい猫が来た時、今までいた猫たちとの猫関係が変化していくところが面白い。猫好きにおすすめ。

 

{桜戸町10秒戦争 第1話: 「檸檬(レモン)」 }[がぁさん]


 時間を止める機械を開発した男。機械から数メートルの球の中以外の時間を止める(正確には極端に遅くする)。はじめはつまらないいたずらにそれを使っていたが、爆破テロで高層ビルが横倒しに倒れる事件が起きる。このままでは商店街が全滅する。時間を止めてビルが倒れてくる10秒の間に全住民を移動させて救うのだ。時間が止まると、止まっている領域から空気が流れ込んでくることがなくなるので、移動を続けないと窒息する(眠って休むことができない)、というのは確かにそうだなと思った。柔らかい絵柄と裏腹に考証の利いたハードSFである。

 

{だいらんど}[がぁさん]


 冴えないヤクザの男が鉄砲玉として敵勢力に殴り込むが失敗、気がつくと謎のメルヘン世界だいらんどにいた……だいらんどの住民は人形のような見た目であり、人間のヤクザだけ浮いている。ここが人を選ぶかもしれない。童話から採った6種類の不思議な世界を冒険していくのは、次の世界はどうなる? とSF的な面白さがある。

 

{上京物語特別版}[田口始]


 カラオケバイト編:作者さまが深夜のカラオケボックスでバイトされた経験をまんがにしたものである。場末の深夜なので客の質がひどい。カラオケボックスで食い逃げが発生し、酔っ払いが立ち小便をし、ヤンキーが乱闘し、老夫婦が個室で●●●●する。ひ、ひどい……
 ゲームデバッグ編:発売前のゲームをひたすらプレイしてバグを探す仕事である。楽しいはずのゲームなのに苦行である。同僚はバタバタバックレていく。実は自分もテストプレイヤーはやったことがある。デバッガーではなくテストプレイヤーだったのでプレイするのはほぼ完成版でありバグ探しというよりは難易度調整の参考のような感じだったが。「みんなのGOLF」「ハームフルパーク」「アランドラ」をやった。
 その他、ぶんか社さまから発売された「東京23区内に月1万5千円以下で住んでみた」ではカットされた部分が、161007に更新されて増補されたということである。今まで持っていた人もダウンロードし直すことで追加ぶんを読める。ここが電子書籍の利点の一つでもある。「東京23区内に月1万5千円以下で住んでみた」と合わせて読みたい。実体験というのが凄い。

 

{Alive}[田口始]


 以前コミティア113のときご紹介した{上京物語}の田口始先生のまんが作品集である。アメリカのインディーズコミック社「GEN MANGA」が出版している。自分は電子書籍版のほうを見た。短編集だ。台詞は英語だが難解なスラングなどはない。

 主として男女のすれ違い、青春の日の過ちを描く。多くの作品において、「dirty」がキーワードだ。大人に成ることが汚い、というのが大きなテーマとなっている。前述の{上京物語}では先生が少年と大人との間の期間を東京の日陰の部分で過ごされたことが描かれている。様々な大人たちの間で揉まれる間に見た人間の闇……それらが{Alive}にも影響を及ぼしているのだろう。

 男女間の話が多くセックスシーンがたびたび描かれるが、それらはdirtyなものとして描写されているかのようである。「DOLL」の、命のないラブドールとのセックスに代表されるように、描かれるセックスシーンは生気がなく愛とは程遠いものである。「THUS, WE ARE DIRTIED(こうして俺らは汚れちまう)」においては、拾った財布の金でストリップ小屋に入ろうか迷う男子高生が出てくる。彼らはセックスを夢のようなものと夢想している。ストリップ小屋の名前が「竜宮城」であることは象徴的である。だがその反面、それを実際に経験したら自分たちはdirtyになってしまうのではないかと恐れている。彼らは竜宮城へ行くのをやめ、そのお金でバットを買い、夜の校舎窓ガラス壊して回ろうと提案するが、結局はそれすらもせずに交番に届けることになる。青春とは、不発で終わった夢の澱、dirtyな泥の塊のことかもしれない。

 田舎の風景がいい。「RED RICE(お赤飯)」の、民家のひび割れた塀の間を抜けていく細路地のような、なんでもない通学路の絵はとてもいい。日暮れの中あぜ道を行くようなカットも白黒のコントラストが効いていていい。逆に、都会の風景は素材集を多く使っているせいもあるがどこか生気がない。都会の部屋の中もただ生活だけに追われ、必要な物しか置いていない殺風景である。ただしノアの方舟を題材にした無題の一遍のホームレス手作り小屋は、床面にすのこが敷いてあり湿気がこもらない工夫がされているなど、無機質なアパートの一室よりずっと人間味がある。これは先生ご自身の実体験が反映されているのであろう。

 {69 STREET MARY(69番街のマリー)}という作品は、同じ背景を19回繰り返すという実験作だ。マリーという年老いた場末の風俗嬢が身の上話を語るのを小説で言う「私」が口を挟まずただひたすら聞いているという作品である。「私」の視点で描かれるので「私」自身は描写されない。マリーは娘と息子のことを語るが、マリーが去った後飲み屋の他の客がいうには実はマリーはオカマだった、つまり娘や息子はいるはずがない、という落ちが付く。これも惜しい。「私」が物語に絡んでこないからである。マリーは実は生物学的には男であった、というオチの先にさらに実はマリーの娘と息子は血がつながっていないが養子であり実在はしていて、それが「私」であった、「私」はマリーと同じようにオカマになっていたのでマリーは自分の養子に気づかなかった、などのさらに深いオチが欲しかった。手法は面白いだけに残念。

 前半は現代劇であるが、後半になるとSFや不条理劇も描かれるようになる。壁で閉じられた世界の外に出ようともがくSF作品(題名不明)はとてもいい。世界の果ての壁を登る男が、かつて同じように壁に挑んで帰ってこなかった父が壁に打ち込んだアンカーに助けられるところはいい。命綱をへその緒に例えそれを切断するラストもいい。ここでもまた「大人に成るということ」というテーマが表れる。しかしそこに、大人に成ることがdirtyであるという不快感はない。

 惜しいところは、画面に対し一種病的な執着が感じられないところだ。手塚先生ならケモ少女に、大友克洋先生なら壊れかけの建造物に、秋本治先生なら拳銃と子供のおもちゃに、宮﨑駿先生ならメカとそれを扱うメカニックや工房(あとおとなしそうに見えて銃を振り回すような戦闘美少女)に、異様な、変態的なまでの執着を感じる。しかし本作の背景は背景であり舞台を提示するためだけに使われているただのセットのように見える。それはキャラクターにも言える。何も持たない生活を一時期されてきたせいもあるかもしれないが(ものに囲まれてぬるま湯のような生活に浸っていた私がこんなことを申し上げるのは恐縮だが)、先生の執着が見えてこない。料理などもただカロリーを摂取するためだけのもので美味しそうには見えない。その点、先生が不遇の時代を過ごされた都会ではなく、先生が幼いころを過ごされていたであろう田舎の風景は美しい。また、菜園のある狭い屋上のダンボールハウスは狭い中にごちゃごちゃと拾ったものがつめ込まれまるで舟の内部のようで楽しい。定住するのはご免だが一日くらいなら過ごしてもいいとさえ思える。本作よりずっとあとの、150830コミティア113新作の{新刊を落としたのでお茶濁しまんが}は、男の汚い部屋や駄菓子屋からキャラクターの生活が読み取れてとても楽しい。貧乏料理もうまそうであり、キャラクターの表情も豊かだ。まさにそういう要素が欲しかったのだ。

 本の構成的な面について。これは作者さまの田口先生には関係のない、出版社側の問題であるが、本書はアメリカの本と同じく左綴、つまりページは左から右に進む。なのにもかかわらず1頁の中では日本式に右から左に進むのではじめはかなり戸惑った。慣れるとどうにかなるが……よくわからないのだが絵を反転せず日本式で通すなら、なぜ頁進行も右から左へとしないのか。むしろアメリカ人は困るだろうなまじいつも見ているように頁は左から右へと進むのに、齣は右から左へと進むので1齣目と2齣目の順番を逆に読んでしまって意味がわからなくなっているアメリカ人は多いのではないか。これはepubのスクリプトをいじればすぐにでも解決できる問題なので改善して欲しい。

 また、本作の画像はちょっと荒い気がする。もしかしたら容量の小さいモノクロ二値になっているのかもしれない。電子書籍向けの低い解像度ならグレースケールのほうが綺麗だと思うのだが←よく見るとグレースケールのようだがなぜか線が荒い気がする……アメリカではインターネット接続の速度が遅く、通信料も高いと聞く。国土が広いのだから光ケーブルを張り巡らせるのは困難なのだろう。そのためなるべく容量を節約しなければならないのはわかるが……ページ数をなるべく節約するためか片起こしの短編作品が遊び頁を挟まず連続するのも、作品が替ったことがわかりづらい。もちらんこれらは出版社の都合であり田口先生にまったく責任はないが、惜しいところだ。

{多摩モノレール 堰場幻影}[あびゅうきょ]


堰場という多摩にある土地に大学生の頃通っていた作者さま。25年経ってから再び訪れたそこは、多摩モノレールの開通によって都市開発が進み、まったく違う景色になっていた……。絵と文章で思い出をつづる作品である。視界をそのまま表現したような、端が丸く歪んでいる都市の絵がいい。25年を経て全く変わってしまった思い出の土地を歩いているうちに、まんが家になるのではなく就職して結婚して娘を持っていたという、あり得たかもしれない別の道を選んだ別の自分、それがいるパラレルワールドへの妄想が現実を侵食してくる。ここがいい。たしかに自分も全く知らない街を歩いていて、ひょっとしてここは中性子爆弾で人類が絶滅したパラレルワールドに迷い込んでいるのでは……という精神状態になったことがある。都市には人を惑わすなにかがあるのだ。
 

{SOERA}[杉山 敏]


524頁ある長編。天画師という、イメージを形にして人に見せることのできる力を持った少女が、父と母のことを知るため都会に向かう。天画で巨大な目を描き怪鳥を撃退するところは良かった。冗長な部分を省けば頁数は圧縮できたとは思う。絵は荒いがこの頁数を最後まで描ききるのにスピードが必要だったのだろう。

{ゲームと人々}[イツキ]


 ゲーム大会で優勝するような有名なゲーマーにインタビューした記事をまとめたものである。ゲーセンで配布しているフリーペーパーをまとめたものらしい。ゲーマーがどう生きているのかがインタビューの端々に見えて楽しい。ただ、特定のゲームタイトルを知っている人が読むことが前提のようで、「フォルキャンダッシュ」などの用語に註はない。ここは惜しい。

 

{もろもろの}[ハチマキくろだ]


 3本の話を収録した短編集。
{隣のキミ}女子高生、他人に無関心な隣の席の男子。ただ無愛想な男子なのかと思っていたら、ある理由のせいで他人と関われなかったのだ。女子の髪飾りを用いてそれを克服するところが面白い。
 他の短編も絵は未熟だが完全ではない人間というものを見る温かいものが感じられる。

 

{Eva,Kopi and Matcha}[Evangeline Neo]


 創作同人というべきかオルタナティブコミックスと言うべきかわからないが、シンガポール人の作者さまによるまんがである。紙本版も出ている。作者さまが日本に来て、シンガポールと日本の文化の違いから気づいたことをまんがに描く。熱帯のシンガポールでは建物の中は寒いくらいエアコンをガンガンかけるが、日本は節電だので冷房の効きが弱くてむしろ日本のほうが暑いなど、シンガポール人ならではの視点で日本を見ていく。キャラが弱いのが惜しい。

{Captain China Volume 1}[Chi Wang]



 おそらくアメリカ在住の中国系アメリカ人?の方が描かれたコミックスである。中国の超人計画で誕生したキャプテンチャイナ。キャプテンアメリカを意識したデザインであろう。得物はシールドではなく中国版モーゼルである。中国に訪問しに来たアメリカの大統領をテロリストが襲う。キャプテンチャイナがテロリストを退治しアメリカの大統領を守り、米中友好、というストーリーである。米中バイリンガル版であり中国語版も収められているが中国で買えるのかなこれ……

 

{ELF QUEST}[Wendy and Richard Pini]

 ここでも何回か紹介しているミニコミ{フツパ}の発行者、燃え上がる静物さま戴いた古いアメリカのまんが。戴いたものは表紙はボロボロで本体から外れていて、紙もいい感じに焼けている。1982年刊とある。本編はモノクロで32頁だ。今見たらkindleで電子書籍復刻版が出ているらしい。


2848円て高いように見えますが720ページで200MB近くあるからねこれ。ふつうのまんが4巻分と考えれば安い。32頁読むのに1時間かかったんでこれ全部読むには不眠で一日かかるぞ。しかもvolume1だし……昔の熱狂的なファンが今になって電子書籍版で買い直して篤いコメントを書き込んでいるようだ。台詞が英語なのに加え、異世界ということで奇妙な固有名詞や、妖精語のような、文法を逸脱した英語も出てくるので読むのが難しかった。

 物語は、途中の巻なので前後はちょっとわからないのだが、いわゆる剣と魔法の、トールキン的ファンタジー世界が舞台だ。主人公はエルフの部族長?で、妻と子供が行方不明になったので「永遠の眠りの谷」にある「帰らずの森」に探しに来た。その森では、静かにしていないといけないというルールが有り、騒ぐものは森の妖精に糸で包まれて繭にされてしまうのだ。主人公たちはそれを知らなかったので音を立て、ちょっと一休みしている間に妖精に囲まれ相棒が繭にされかけてしまう。これは怖い。妖精を追い払い、繭を切り裂いて妻と子供を助けだす。他の繭の中にはなぜか人間(エルフから見ると異種族)がいた。なぜ人間が……「人間なんて見たことなかった」と言われているが、人間がこの世界でどういうポジションにいるのかはちょっとこの巻からだけではわからない。妻と子供は、巨大な怪鳥に村が襲われた時、暴走した馬に乗っていたため森まで行ってしまったということらしい。そして、どうもその怪鳥をわざと差し向けた黒幕がいるのではないか……というようなところで次回に続く。

 絵は白黒で、日本のGペンと同じものなのかはわからないがおそらくは金属の弾力を利用した抑揚のあるつけペンで描かれている。ベタの黒さがいい。主人公たちはエルフなので目が大きく等身が低い、まんがっぽい絵だ。なんとなく東南アジア人っぽい。まあ、日本人が異世界人描くとなんとなく西洋人になるからなあ。ただ、途中に出てくる人間は8頭身で目が小さいリアルな人体である。

 ページ数が少ない中に物語を詰め込むためセリフが多い。というか現代の日本まんがが薄まり過ぎなんだけど……齣割りはいろんな工夫が凝らされていて、かなり斬新なものもある。集中線やスピード線はない。アメコミに一般的なように背景はそのときキャラの後ろにあるオブジェクトを描いたものが多いが、精神的ショックを受けた時のベタフラのような抽象的な効果もすこしある。暗いジャングルの中に立つキャラを白抜きシルエットで表現するなどの絵画的表現はすごい。

 どうもこれはアメリカではその筋の人なら知らない人はいないマニアックな名作らしい。そのころのアメリカにはカルトヒットコミックスというジャンルがあったらしい。今の日本で言うとひぐらしがなく頃にとか東方プロジェクトとかその辺だろうか。アメリカらしくあとがきの頁で作者が堂々と著作権についての意見を主張する。最近エルフクエストのキャラを勝手に使いまんがとかTシャツとかをつくっている人がいるが、それらは我々の権利を侵害している、などとストレートな物言いだ。日本の二次創作見たら嘆くだろうなあ……ハードなファンタジーまんがの作風と、終わった2頁後で現実的な問題の主張というこのギャップが凄い。巻末には読者の感想が載っている。皆ガッツリ長文で思いの丈を書いてくる。篤いファンが多かったようだ。

 「定期購読者募集」の広告を見ると、どうもこのまんがは年に6ドル払うと年4回郵便されてくるものだったらしい。ただし海外は10ドル。1982年は1ドル250円くらいだったので2500円。まあ、海外から取り寄せるなら妥当だろう。むしろ安すぎるか。円が安かったということもあるが。あ、でも本屋がどうとか書いてあるので書店で販売もされていたのかな。32頁×年4回か……日本の月刊まんがから比べてもちょっとじれったいな……また、公式ファンクラブのようなものもあり、それに入ると他の作家が参加した公式アンソロのようなものが手に入るらしい。もちろん会費は別払いである。また、作中女性キャラの気合はいった複製原画直接販売の広告頁もある。いや、作家に直接お金が渡る素晴らしいシステムですよ。この作者さまは作者であると同時にWaRP社という出版社の経営者でもある。現在も存続しているようだ。新作はここ20年出ていないようだが……自分のまんがを流通させるシステムを自分で構築し、会社を経営していく……かっこいい……日本のまんが家も本来そうあるべきはずなのだ。あ、日本には手塚藤子石ノ森さくらももこさいとうたかをプロがあるか。あと、コンベンション(同人誌即売会)参加予定という欄があって、アメリカの地名と、なぜかモスクワと書いてある。冷戦まっただ中でソ連に行ったのか……いや、創作に西も東もない。うちだって北海道とかで頒布して頂いてるけど自ら地球の反対側まで行くてすごいな……

 

{怪奇探偵シリーズ}[根本尚 札幌の六畳一間]


 根本尚先生が描き続けていらっしゃるまんがシリーズ。女子中学生探偵が毎回怪事件に挑むミステリだ。ミステリ風冒険まんがでもなく紛れもなく本格ミステリなのだ。ミステリの紹介はネタバレに気をつけないといけないので難しい……

 中学生女子の写楽炎(しゃらくほむら)が、好奇心から怪事件に首を突っ込み探偵役として事件を解決していく。かわいい。炎は確かに普通の大人より鋭いところはあるが、どんな謎でもたちどころに解決! という天才少女なわけでもない。女子中学生なので開き直った犯人の暴力に対しては全くの無力だ。炎は何度も危険な目に遭ってハラハラさせられる。彼女を守る存在として空手部の空手くんがいる。空手くんも中学生にしては強いという程度で、刃物などを持ちだされると危ない。警察も協力はしてくれるが、絶対的な力を持つ万能な名探偵は出てこず、まだ未熟な写楽炎が地道に事件の証拠を集め謎を解いていくところがこのシリーズの肝である。

 凄いのは作中に出てくるすべての謎に対して病的なまでに厳密な回答が用意されているところである。ネタバレになるので例を挙げられないが背景に描かかれたちょっとしたものが後の謎を解く伏線だったりする。往年の傑作ミステリの趣き。まあ、拳銃や煙幕などの定番アイテムを悪党どもはどこで手に入れているのかという疑問は残るがそれは重箱の隅をつつく些細なことである。

 第一作{一つ目ピエロ}では学校の近くに出没する謎の一つ目ピエロを炎と空手くんが追う。江戸川乱歩の少年向け探偵小説のような往年の少年向けミステリの雰囲気だ。空手くんがミニスカの炎を肩車して高いところを調べるシーンが萌えポイントだ。いつもなら筋を書くんだけどミステリでネタバレを書くわけに行かないな……

 {血吸い村}では、隠れキリシタンが暮らしたという村が舞台だ。こんどは横溝正史っぽい雰囲気。宣教師が治水の技術を伝え治水工事をしたから治水村なのであるが治水と血吸いを掛けた語呂合わせだ。キリスト教と同時に吸血鬼など西洋の伝説や魔女裁判用の拷問用具も伝来し、今も残るそれが物語の鍵となる。閉鎖的な村の昭和的おどろおどろしさがいい。犯人が報いを受けるラストもいい。

 {踊る亡者}は短編。炎と空手くんが海にヒトデの調査にきてたらエビスの仮面を付けた怪人に出くわす。エビスは豊漁の神であると同時に漂着物の神でもあり、水死体をえびす様と呼ぶ地域もあると何かで読んだ。水の中で踊る亡者の画は怖い。寺沢武一先生のCOBRAの、水中の宝を求めて死んでいった死体(全員ボンデージアメリカン美女)が溜まっている水域の話を思い起こさせる。炎の水中パンチラナイス。

 {妖姫の国}不思議の国のアリスをもとにした謎が展開される回だ。炎が不思議の国のアリスのような体験をして犯罪に巻き込まれる。アリスかわいい。エピローグで犯人の生い立ちが解説されるのだが、これは本編中で犯人が炎に直接語って聞かせるところじゃなかったかな? エピローグにするのはもったいない気もする。哀しい生い立ちを背負い犯罪に走った犯人のことを炎が知り、比較的裕福な家庭に生まれた、まだ未熟な中学生である炎はそれについてどう思ったのかを炎の口から聞きたかった。犯罪を追うということがどういうことか中学生ではまだ確固とした考えを持つのは難しいだろう。人はほんの些細なことで人を殺すほど憎んだり、人のものを盗りたくなったり、暴力を振るいたくなるのが――特に子供には厳重に隠蔽されている事実だが――普通なのである。炎にしても、炎が捜査を進めることは犯人が破滅するということである。ひょっとして炎は正義の名のもとに合法的に人を破滅させるのが好きなだけなのではないか? もしも炎の能力を犯罪方向に使ったならば犯人よりもっとうまく、誰にも発覚せず犯罪を行えるのではないか? これはこの作品に限らずすべての名探偵ものに言えることではあるが。炎と犯人が考えをぶつけ合わせていたならば、炎のキャラクタがもっと明確に表れてきたはずだと思う。ただまあこれは現代のキャラクター偏重まんがの視点からの意見で、往年のミステリだとキャラクタ性は必要ないのかな……下着を含む炎のいろんな衣装が見られる回。

{クイズマスター}炎が拉致されて、3回不正解すると死ぬクイズに参加させられる。今度は福本先生のカイジっぽい。

{蠍の暗号}強盗団スコーピオンのボスが引退する際、暗号を残した。これを解いたものに二代目ボスの地位と財産をやるという。暗号解読回だ。ややバレになるが炎は暗号を解く。つまり炎は二代目ボスになる資格を得たということになる。もちろん炎はそんなものは返上しボスの財産も警察に提出するのだが、ボスが書き残した犯罪テクニックメモだけは提出しないで手に入れた。ここがシリーズ全体の肝である。「犯行の手順 警察の追及のかわし方…… 犯罪者の心理が彼女をひきつけるのであった」上にも書いたが、名探偵と犯罪者は表裏一体である。ホームズはコカイン中毒で暇になると拳銃をぶっ放すような狂気の天才で、一歩間違えば自分が犯罪者になってたかもって自分で言ってたし……で、これは一種のパワーアップイベントである。つまり炎はこれ以降、犯罪者直伝の非合法的手段に依って犯罪の証拠を集めることが可能になったわけだ。例えば犯罪を暴くために死体を勝手に切り刻むのは悪だろうか? 法医学者でない限り法律的には犯罪であるのだから社会的には悪である。犯罪者と探偵のどこが違うのか。悪を暴きながら、一方で悪に惹かれる女子中学生というキャラクターには魅力がある。実際にはボスのメモが以降の話数で使われることはないが……

{蛇人間}蛇を信仰する地元の名家の周辺で現れるという蛇人間の謎を追う。田舎の沼を埋めてショッピングセンターを造る……田舎のどろどろした利害関係、いいぞ。結末の犯人の破滅っぷりがいい。

{歪んだ顔}歪んだ顔の霊?の謎を追う。ぐ、グロい……脳みそでてるし……付近でかつて、男がショベルカーで圧殺された事件があったという。空手くんが見る歪んだ顔の夢がいい。今まではストーリーに必要な説明が全コマの100%を占めていたが、この空手くんが見た、たくさんの歪んだ顔がショベルカーに潰されていく悪夢はストーリー進行に直接は関わらない。この作品は基本的にやや俯瞰でキャラ全身を入れる説明的構図が用いられるが、歪んだ顔に炎が捕らわれているコマは説明台詞もない、大胆にモンタージュされた映画的カットである。このシーンが異様に際立って物語に不気味さを醸しだす。エクソシストのキャラがいい。祈りのカットを入れるところがいい。

{骸絵}少女の死体を掘り出して描かれた絵の中の少女が腐っていく! 怖い。独特な美学を持った変態が犯人のパターンは{踊る亡者}の系列か。犯人が発狂するカットがいい。なぜ犯人が歪んでしまったのかについてのエピローグは大変にいいがやはり犯人自身が主人公に語って聞かせるところではないか。中学生でこんな異常な経験を積み重ねている炎は危険なエッジにいるだろうな……

{蝋太郎}150頁を超す大作であるが謎が謎を呼び150頁をぐいぐい読ませる。溶けた蝋で出来ているかのような怪人蝋太郎の謎を追う。犯罪者の金を求める動機が極めて現実的であり、得た金で何をしたいかも合理的で明確なのがすごい。多少気になるのは回想シーンの中に、実際には行われていないフェイクが混じっている点。例えばCSIというアメリカの犯罪捜査もののドラマ(数話見ただけだが)では、実際に行われた犯罪シーンだけが回想の映像で出てきて、外れた予想の映像は出てこない。ただまんがだと問題はない気もする……外れた予想も絵で説明しないといけないし……炎のシャワーシーンあり。いや謎解きに必要なんです!

{冥婚鬼}炎が服を切り裂かれ白無垢を着せられて死体と結婚させられるという猟奇イベントから始まる。ベストセラー作家のゴリラ先生の死体とだ。これにかぎらずこのシリーズではキャラ造形と奇抜な名前が憶えやすい。ミステリでは誰がやったのかが重要だからキャラが見分けられないと話にならない。生前ゴリラ先生を批判していたが香典はたんまり弾む評論家のキャラがいい。エピローグで今までなかった見開きが使われる。インパクトがある。本編で特に重要でないと思われた意外なキャラが結末を持って行く所がいい。

 空手くんが炎を守る動機はごくシンプルなものだろうが、炎が何度も死ぬ目に遭いながらもなぜ犯罪を追うのをやめないのかが知りたい。大人の探偵や警察官なら仕事をこなさないと暮らしていけないから捜査しなくてはいけないのだが、炎はまだ女子中学生なのである。捜査をしなくてもペナルティは何もないし、捜査をしてもお金は貰えないのである。なにか生い立ちにまつわるよほどの決意か、あるいは怖さに勝る好奇心があるのか。ボスの犯罪メモは以降の回でキーアイテムとして使われると思ったのだが……ミニスカの炎を空手くんが肩車する所がいい。このように捜査のために炎と空手くんが仕方なく恥ずかしい行動をしなければならないパターンが見たいぞ。変装するとか。あと、悪党が誰も追い詰められると暴力に訴える下衆と化すところが惜しい。別のタイプの犯人も見てみたい。

 本シリーズは全部電子書籍で出ている。{No.12 死人塔}は無料なのでとりあえずダウンロードして損なし!

 

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クロ僕屋は161023有明ビッグサイトにて開催される創作同人誌即売会コミティア118に参加します。スペースは【く81a】です。

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