160605創作同人誌即売会MGM2.12で読んだ本 | しちにんブログのブログ

160605創作同人誌即売会MGM2.12で読んだ本


リイド社さまから6/20に発売された「鬼平犯科帳総集編vol.42 本所・桜屋敷」に拙作「瓦版屋佳織見聞帖」第三話が掲載されています。
「鬼平犯科帳総集編」はコミック乱の増刊で、入荷から数日で売切必至です! コンビニで入手しやすいです!
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参加記録1 
参加記録1 

160605創作同人誌即売会MGM2.12で読んだ本

{南無ずっきゅん}[うたかたのゆりかご]


http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=56222328
 寺の坊主がいわくつきの絵をあずかる。不注意で絵を割ってしまうと中から絵に封じ込まれていたサキュバスが飛び出す。男性の精を吸う淫魔サキュバスであるが、この坊主が色香にまったくまどわされない。坊主の理想の女は釈迦なので下世話なエロには全く反応しないのだ。自分に嘘をつきたくないという坊主の態度に、サキュバスがかつて愛した男に裏切られたトラウマが癒やされていく。坊主のキャラがいい。絵が割れるところが絵として少しわかりづらい。建物にもうすこし寺っぽさがほしい。耳にバナナを突っ込んだ悪霊はインパクトがある。男の欲望を感じ取って男の理想の姿に変身できるという能力を持つ淫魔サキュバスと、触れたものの心を読み通ることができ、色欲に溺れることのない坊主という組み合わせは、他のエピソードも描けそうな優れた設定である。

{漬物石の女}[ヘリング・ライプ]


 体重が10トンあるという葉子は、外に出ると体重で沈んでしまうので、床が鉄板で出来ている漬物屋の蔵で漬物石代わりに暮らすしかなかった。そこに漬物屋の従業員兼世話係として正太がやってくる。
 「特異な能力を持ってしまったがゆえに普通の生活ができない」というのは、作者さまの過去作である「オレはピッチングがしたい」にも通じる。同作は、音速の球しか投げられなくなってしまったため好きな野球ができなくなってしまった少年の話であった。
 はじめに葉子が「私は……」と始まっていて、途中で正太が「オレは……」と考えているので、どちらが主体か混乱してしまいます。話自体が短いのでどちらかの視点で統一するか、正太に主体を切り替えるならばその時に改めて正太ようの導入が必要でしょう。
「体重が10トンある」と台詞で言うのではなく、一度転んで何かを押しつぶしてしまうなどのアクションで読者にわからせたほうがいいと思います。同様に、土の上に立つと沈んでしまうというエピソードも実際に膝まで沈んでしまうところまでやってみせるなどしたほうがわかりやすいでしょう。
 正太のほうに、蔵からでられない葉子を慰めてあげたいという気持が出るエピソードが欲しいです。
 詳しくは書きませんがかつて子供を産めない女性のことを石に例えた時代がありました。こういう過去はもはや忌まわしい遺物ですが、そこまで知っておくと物語に深みが出ます。
 蔵の絵がいいです。表情が豊かでいいです。たまに入る抽象的な絵のシーンも個性的です。

{SAMPLE CASE CASE2:髪長姫}[茶野農園]


http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=57243770
 ラプンツェルの伝説のように高い塔の部屋に閉じこもっている髪の長い姫がいる。そこに王子ならぬ旅の本売り?が訪れる(高い塔のはずなのに)。
 雨やカーテンなどはすべて画面全体を埋め尽くす密度の線で表現されている。それらは姫の視界を覆い尽くす垂髪を暗示しているのだろう。部屋を覆うカーテンも壁も、実在のものではなく、社会から自己を守る防壁として伸ばし放題にしていた彼女自身の髪であった。いや、髪長姫の住んでいた塔も実は塔ですらなく普通の住宅であった。この世界はおとぎ話の中の世界ではなく普通の社会であった。姫は姫ではなくただの引きこもりの女性であった。
 それを自ら打ち破って外に駆け出すラストは清々しい。ただ、最後から2コマ目の風景が何を表すのかわかりづらい。遠くに山脈の見える花咲く入江かな? 現実の街は電線があってアスファルト道路を自動車が通る現代日本の社会に描いたほうが分かりやすかったとは思う。

{K君大全第2巻 夏はかなし}[青空みどり]


 ハーフリータという30年前に休刊になった雑誌に掲載されたが単行本化されることのなかった作品を今復刊。こういうのこそ電子書籍にしてほしいものだけど……自分に才能があると盲信しているアーティスト気取りのK君と売れないまんが家みどり君の異常な世界をさらっと日常の一コマとして描く。
 野外でヌードデッサンを始めK君がモデルと交わっているところを他の画家が描きその絵は評価を得た。なぜかK君は自分が描かれていることに得意顔だがK君自身の絵は落選。それでもk君は自分が芸術をなしたと疑わない。そのごKくんとモデルはよろしくやっているようで、モデルに惚れていたみどり君は失恋する。何が成功かとかうじうじなやんでいるより、軽薄に見えても行動して世を渡っていくもののほうがあるういは幸せなのかもしれない。みどり君は作者さまの名前と同じだし、K君は実在の人間がモデルだという。おそらく作者さまの身近で似たようなことが起きたのだろうと想像せざるを得ない。
 何気ない田舎の家の描写とかが画面の歪みによって異様な迫力を以って非日常っぷりを表現する。雑誌掲載当時のまま柱に煽りが入っているのもいい。当時は三畳の部屋で描いていたという巻末のインタビューもいい。あいかわらず裏表紙の曼荼羅のような高密度の落書きがすごい。

{フツパ61号}[燃え上がる静物]


 手書きでみっちり記事が載ってる怪しさ満点のミニコミ。今回はまんがも載っている。
 {ジョージの告白 女のコの一番大切なものとは?の巻}[ジョージサンダーボルト]
 なくなったおばあちゃんに夢枕で「おひなさまがないとおまえは一生結婚できない」と言われたジョージ先生。デパートに買いに行くが高い……自分で作ろう。10年かけて自作のひな飾りが完成した。再びおばあちゃんが現れていう。おひなさまに足りないパーツが有るのだという。どうする……どうするんだろうまた自作するのかジョージ先生!? 死してなお孫を思うおばあちゃんを安心させてあげてジョージ先生い!

{comicメイキスone}[落書館]


 1997年刊の同人まんが雑誌である。
{おじさんたちの公園}[ホナミン]
ネコが公園に散歩に行く。公園にはいつも複数のおじさんがいる。(ネコには知ったことではないが)何も仕事はしていないらしい。また、公園にはしゃべる木がある。木のおじさんが言うには、木のおじさんはもともと公園のおじさんだったらしい。この公園は普通のおじさんが木のおじさんに変わっていく場所なのである。
 ぐるぐるとペン(ボールペン?)をかき回したような描線で描かれる絵もすごい。
{月夜の導火線}[山川直人]
 山川直人先生の20年前の作品である。近眼で乱視の男。どうやらメガネを買う金もないらしい。通称かぐや姫という女に惚れる。彼女は噂ではどうやらいろんな男と寝ているらしい。成り行きで自分もその女と寝ることになるが、近眼なので女の体がよく見えない。男はメガネを買うと決心する。
 だが男がメガネを買い、近眼乱視が克服され女のことがよく見えるようになったとしたら、女の見たくない部分まで見えてしまうのではないだろうか? 乱視だと月が何十個にも分裂して見える。それはむしろ綺麗とも言える。遠い月の光のように、乱れて曖昧に光るようすをぼんやりながめているだけのほうが幸せではないのか……執拗なまでのハッチングで描かれた、夜の静謐さに満ちた作品。

{六花繚乱ヘキサムライ巻ノ4}[えむ'sパレット]


 普通の大学生が実は500年前から妖怪を退治してきた一族の末裔だった。6人揃って妖怪と戦うのだ、というヘキサムライシリーズの最終巻である。現代の街で侍が戦うというところは良かった。次回作はキャラを少なくページ数も少なくした方が負担が少なくなるとは思う。

{さくらんぼう}[BUG]


 少年が森のなかで頭を怪我した子供を見つける。実はその子は芽を出す直前の殻の割れた種子だった、という結末は面白い。はじめに桜の木や種について主人公が何かを思うなどの前振りがほしい。
 

{夏草の家}[ひつじ座 えなまなえ]


 児童養護施設で暮らす両親のない少女。施設の職員から自分が生まれた家が近々取り壊されると聞かされる。そこに行ってみると、自分の生まれる前、知っているはずのない時期の両親と兄の幻を見る。自分が生まれる前、母のお腹の中にいたので知るはずのない思い出、それは家そのもの、それが取り壊される直前に見た走馬灯なのかもしれない。母が再婚して新しい家に行くべきか迷う養護施設の友人を少女が後押しする所がいい。「あとには巣箱を連ねたような家(マンション)が建った あの巣箱の中それぞれに ひとつひとつ家族がある」というラストの台詞がいい。

{蘇芳の年}[ひつじ座 えなまなえ]


 文学少年坂木が気になる女子高生古川。蘇芳とはどんな色かと尋ねられ坂木が古川の髪をまとめるリボンを指したという些細なことから、古川は坂木を意識していくことになる。きっちりまとめた髪をいつか古川の前で解く時が来るのだろうか。しかしある日、古川がたまたま髪が解けた状態で他の男子高生と喋っているところを坂木に見られた、たったそれだけのことで二人の微妙な関係は崩れてしまう。そして古川は髪を切る――思春期の少年少女のあまりにも繊細な関係を見事に描いている。

{The ring ring story 4.真紅の書}[MANOKO]


2006年に3巻が出て以来10年ぶりに4巻が出た。本作は前世紀から続いているシリーズであり、1巻の前のいわば0話「ふろうの夢」が世に出たのが1991年である。書き始めから数えると27年経っている……
 1巻から名前だけ出ていたトルス中央図書館がついに描かれる。1巻から4巻までは物語の中では数ヶ月なのだが、基底現実では23年経っている……23年かかった伏線が今解かれているわけで、その間ブレずに一作を創作し続ける作者さまの意思に驚嘆するしかない。
 ベーダという超常的な力を持つ種族が統治するこの世界は一見牧歌的で平和なユートピアのように見えた。しかし実はベーダは住民全員に思考をコントロールする角を取り付けたり、異世界人を弾圧したりするディストピアだったということがわかる。扶朗は角の取り付けを拒否し反社会分子としてベーダから逃げる旅に出ている。
 トルス中央図書館で借りた本によるとこの世界は1000年毎に歴史がリセットされる世界だったのだという。この星の出産が迫っている。出産時の病で星には天変地異が続発する。この星は文明が崩壊しては勃興するというサイクルを何度も繰り返していたというのだ。ベーダはこの星の抗体のような存在であり一部のベーダたちは異世界人に宇宙船をつくらせこの宇宙を脱出しようと画策する。扶朗は母の命を救うために地球での平穏な生活を捨ててこの世界にやってきたわけだが、やってきた先の世界で母なるこの星が死のうとしている。宇宙船で星を脱出するのか、それとも別の解決を探るのか、この先が気になる展開であるが……5巻が出るのはまた10年後くらいになるのだろうか……