性風俗業に狙われる 知的障害者の女性たち | 渋谷区精神保健福祉オンブズパーソン

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NHK Eテレ ハートネットTV

シリーズ貧困拡大社会 第19回
見えない世界に生きる 知的障害の女性たち

2013年12月10日(火曜)午後8時

再放送12月17日(火曜)午後1時5分



全国に200万人いるといわれる知的障害者のうち、何らかの福祉サービスにつながっているのは、わずか4分の1あまりの55万人。

「一見わかりづらい」軽度知的障害者の多くは、適切な支援もなく見過ごされていると考えられています。このため、就職や社会に出る場面で挫折し、そこに貧困や家族関係の問題などが加わって、孤立してしまう人も少なくありません。ときには住む場所さえ失われる中、女性は生きていくためのギリギリの選択として、性産業に身を置いたり、男性宅を転々としたりする人も多いことが取材を通してわかってきました。男性より、路上生活などに伴う危険性が高いため、誰かに関わって生きているのです。しかし、障害ゆえにお金を騙し取られたり、暴力の被害に遭うことも多いのです。

「普通に働きたかったけど、仕事がわからず失敗ばかりだった。助けてくれる人もいなかった」。そう話す彼女たちを、どのように見つけ、サポートしていけばいいのでしょうか。実態を見つめ、支援のあり方を考えます。





性風俗業に狙われる 知的障害者の女性たち

今回、私たちが取材で出会った、アミさん。
知的障害がある、20代の女性です。
2年前から、東京郊外の風俗店で働いてきました。




アミさん(仮名)
「あれ。
あそこ、あっち側。
奥の看板、ピンサロ。」

「どういう仕事をするの?」

アミさん(仮名)
「ぬきの仕事だよ。」

アミさん(仮名)
「療育手帳と、前の携帯。」

アミさんの知的障害は、4段階のうち、最も軽度です。
日常会話はできますが、複雑な話を理解することが難しく、お金の計算や管理もうまくできません。

アミさん(仮名)
「短い、短い、ほんと短い。」

これまで胸を触られるキャバクラや、デリバリーヘルスなど、風俗店を転々としてきました。

アミさん(仮名)
「普通に胸を出したり、触ったり。
そういう店だから、しょうがない。
お金がなかったら生活もできないし、食べていけないから、そうするしかない。」

アミさんは、貧困家庭で育ちました。
幼いころは、酔った両親から毎日のように虐待を受けたといいます。
学校では授業がほとんど理解できず、高校から、障害者のための特別支援学校に通いました。
卒業後は自立しようと、障害者雇用枠で地元企業に就職。
しかし障害が軽かったため、一般の社員と同じ仕事をこなすよう求められました。
3年間無理したものの、限界を超え、とうとう出社できなくなりました。

アミさん(仮名)
「高校卒業して、新しく仕事します。
ここから再スタートだと思っていて、頑張って、夢とかもあったのに、夢が崩れたみたいな。
何かも人生終わったんだな、みたいな。
夢から絶望に変わっちゃった。」

仕事も住まいも失ったアミさん。
1か月ほど、公園で野宿する生活が続きました。
そんな彼女に声をかけてきたのが、風俗店のスカウトマンでした。

アミさん(仮名)
「スカウトの人に、家も、住むところもないと言ったら、住む場所を確保というか、仕事を紹介してあげるねと言われて、そこから(風俗店の)寮生活が始まった。
最初はうれしかったけど、あとあとになってくると、だんだん、だんだん優しさが一転して変わった。」

スカウトマンは、アミさんを店に紹介したあとも、部屋の仲介手数料として、毎月5万円を要求しました。
全く払う必要のないお金でしたが、だまされていることに気付きませんでした。

要求は、次第にエスカレート。
障害基礎年金まで奪われましたが、逃げることはできませんでした。




アミさん(仮名)
「断ったら断ったで、何をされるか分からないし…。
大阪とかに行かせて、帰れなくするぞとか、脅しみたいなことをされたから。」



現在、知的障害者は全国に200万人以上いると考えられていますが、その大半は、見た目には分かりにくい軽度の障害です。
こうした女性たちが、アミさんのように、性風俗産業に狙われるケースは多いのではないか。
私たちは、東京で20年間、風俗店のスカウトマンをしている男性に接触しました。
これまで、数多くの知的障害の女性に住む場所の提供を持ちかけ、スカウトしてきたといいます。

風俗店スカウトマン
「人なつっこいというか、知的障害者の子は。
使いやすいというか、悪いことを言えば、だましやすい。
50万円ぐらい入ってきて、3万円くらいで(危険な)仕事とかやらせたこともあるし、そしたら、こっちは47万円のもうけ。
あとはごはんを食べに連れて行ったり、買い物とかフォローするし。
でも結局はその子のギャラで払っているから、別に痛くもかゆくもない、こっちは。
普通の女の子だったらいろいろ質問してきたりするけど、障害のある女の子たちは、文句を一切言わないから。
それが、いちばんの魅力ですね。」

今回の取材中、アミさんは幸運にも、性風俗産業から抜け出すことができました。
福祉関係者に相談し、スカウトマンに法的手段をとる可能性まで、ほのめかした結果でした。
その後、たまたま空きがあった福祉施設などに仮住まいさせてもらっています。
しかし、今後の仕事や住まいのあてはありません。

アミさん(仮名)
「仕事は今、不景気だから、見つかる、見つからないは分からないけれど、仕事をしてみないと分からないし、不安だらけだし…。」



「また同じことにならないか、(不安が)浮かばない?」

アミさん(仮名)
「浮かんだりはするけど、前の自分には戻りたくないから。
いい方向に、ポンポンポンっていければいいなと思っている。」











婦人保護施設など、支援機関とつながるためには

婦人保護施設は全国49か所に設置されており、生活に困窮している女性を危険から保護することを主な目的に運営されています。直接の入所申し込みはできませんので、まずは各自治体の相談窓口や福祉事務所・女性相談センターなどへお問い合わせいただき、「現在の困窮状況」「支援が受けられない状況」などをお伝えください。(婦人保護施設の場所や連絡先などの情報は、安全面への配慮から公開されていません)
 


相談機関・通報先の連絡先一覧


渋谷区役所 女性相談  

【問い合わせ】電話:3463-2544


子ども青少年対策課子ども女性相談主査

 

  • 女性が抱えている対人関係や異性の問題、配偶者などからの暴力の相談
  • 保護や援助を必要とする女性の相談・助言・自立への支援
  • 女性福祉資金 貸付に関する相談

http://www.city.shibuya.tokyo.jp/fukushi/general/seikatsu.html

 





ポルノ被害と性暴力を考える会

(People Against Pornography and Sexual violence)


強制的に売春をさせられたりAVに出演させられたりしている女性や子どものための相談窓口


http://paps-jp.org/aboutus/list/








★出演者からのメッセージ





・山本 譲司さん(作家)
「性風俗産業で働かざるをえない女性の背景を考えていただきたい」



――知的障害の女性と性風俗産業の問題をメディアに出して考えることの意義についてどう感じられましたか?

これはこれまでタブー視されていた問題ですよね。
そこを浮き彫りにすることによって、
今の福祉の足りないところが見えてきて、
結果的に福祉全体の裾野を広げることになればいいと思います。
この問題に限らず、まだまだ福祉とつながらない、
あるいはつながることを避けていて、
大変な状況に置かれている人がいるわけですから、
視聴者のみなさんもこれで終わりにするのではなく、
今後も追っていっていただきたいと思いますね。

 


 

――この問題を根深くしている要因のひとつに、
「性産業で働くのは自己責任」という考え方もあると思います。
それが公的支援を受ける際の「バッシング」につながるとしたらどう向き合えばいいでしょうか。

「自己責任」という言葉に象徴されるように、
自助努力を求められる社会になってきています。
その対極として生活保護などの公助がある。
バッシングをする人は、生産活動に従事していないことを
どこかで軽蔑しながら、「生活保護」という枠組みの中に
その人を閉じ込めてしまっているのではないかと思うんです。

でも、やっぱり人間はお互い様だと思うんですよね。
だから、「共助」という、共に助け合うような発想をすればいいのではないでしょうか。
番組の中でも申し上げましたように、必ずしも喜び勇んで性風俗の現場で働く人はひとりもいません。
なぜそういうことになってしまったのか、あるいは、そうやって軽蔑される側にいなくてはならない女性の立場をどう思うのかということを、まずはバッシングする側が考えてみて欲しいですね。

 

――今回は知的障害のある女性と性産業の関係を見ていきましたが、男性の場合は、犯罪組織とのつながりも浮き上がってきます。
なぜ福祉ではなくそちら側につながっていくのでしょうか。

そうですね。もしかしたら福祉よりやくざ社会のほうが
拘束度はゆるやかなのかもしれません。
自分が自由にしたことに対して批判されないし、ものによっては褒められるわけですからね。
ただし、それは決してセーフティーネットとは言えませんよ。
死ぬまでやくざでいる人は健常者でもそういない。
要は留まることができないんです。
最後は麻薬の密売人にされたり、鉄砲玉に利用されたり、そういう悲惨な末路をたどるわけです。
そうなると、結局は社会にリスクを与えることになるし、刑務所に入ればコストもかかるわけですから、勝手にやってくれという話ではなくなりますよね。
中期的に見ても、そういう人たちを国や地域社会がきちんと包み込んだほうがどれだけ国民全体にとってプラスになるのか。
そういう尺度で考えていけば、より生きやすい社会になると思います。
変わりましょうよ。この問題はそのきっかけにしたいですね。










・宮本 節子さん(大妻女子大非常勤講師)
「誤解されてもいいので、まずは知って欲しい」
 
 

――知的障害のある女性と性産業の問題を見ていきましたが、
どのような感想を持ちましたか。

知的障害を持つ女性と性風俗産業がリンクされて
社会問題化されたことはこれまで一度もありませんので、
取り上げてくださったことを非常に感謝したいと思います。

番組としては、性風俗産業という
巨大な“社会的装置”に切り込むわけですから、
ともすると誤解を招く可能性はあると思いますけど、
でも、誤解は誤解として次につなげていただけたら、
それはすごく嬉しいことです。
その誤解の裏側には何があるのかということを
考えるだけでも問題ははっきりしますからね。

やはり今の福祉は、
その巨大な“社会的装置”に取り込まれる女性に対して、
対抗手段を持っていないんです。
どういうことかと言うと、
知的障害者福祉の現場も、婦人保護施設の現場も、
彼女たちには魅力的に映らないんです。
そのことは福祉の側がもっと誠実に見直す必要があるというふうに思いますね。

 


 

――性産業で働く女性の中には、
セックスワーカーとして
プライドを持っている方もいるので、
社会的な課題としてなかなか見つけてもらえなかったところも
あるのでしょうか。

そうですね。プライドを持ってらっしゃる方ももちろんいますし、その存在を否定することはできませんが、
ただ、性風俗産業は女性の搾取を前提として成り立っていることは認識しておくべきだと思います。
セックスワーカーと自認している女性たちは、それを逆手にとって生き抜いているわけですからね。

 

――番組の中で伝えられなかったことはありますか。

やはり社会のシステムは男性のライフスタイルを中心に
まわっているんですよ。
福祉もそのご多分に漏れず、自覚はないかもしれないけれど、
男性のライフスタイルが基準なんです。
そういう意味でも、「女性であるがゆえの傷つきやすさ」を
抱える人たちの支援をどうするかというのは、
とても弱いところで、逃げていたところなんです。

 

――「女性であるがゆえの傷つきやすさ」とはどのようなことでしょうか。

女性の性が商品になるということです。
そのなり方たるや、福祉施設などに行く場合の給料と比べると、
とんでもない差があるわけです。
それなら、当面の生活を考えた場合、そっちに行きますよ。
そういうお金の問題もあって、
これまでは支援の対象にしなくてもいいだろうと
目をつぶってきたのです。
でも、そのなかでどういうことが起きているかというのは、
回りまわって婦人保護施設へたどり着いた
女性の姿を見ればわかります。
人格が崩壊していたり、身体や精神が傷つけられていたり、
あるいは子どもまで生まれている実態があるわけです。
その傷を癒やすのは生半可なことではないのに、
これまで見ようとしてこなかったんですね。

 

――それを未然に防ぐためにはどのようなことが必要になるのでしょうか。

性風俗産業は巨大な“社会的装置”だと言いましたが、
そのなかには4つの層があるんです。
ひとつは、そういう社会的装置を許容している日本の社会。
次に、それらを利用している顧客。
それから、それを供給している業者。
そして、その底辺にいるのが、商品になっている女性たちです。
その4つの層について、
売春防止法では「女性」と「業者」は対象にしていますが、
「社会」と「顧客」は対象としていないんですね。
これだけ巨大な社会的装置なのに。

 

――この問題とどう向き合っていくことが大切だと思いますか。

一般論としては、こういう実態があるというネットワークを
広げていくことだと思いますが、
じゃあ具体的な対策としてどうするのかというのは、
地域や利用者の特質を考えながら構築していくものなので、
こういう制度をつくればいいという万能薬はないんですね。

 

――では、地域に合ったネットワークを広げていくことが大事になる。

そうですね。そういう意味で言うと、
私は行政の現場を担当している人たちに、
その責務をもっと自覚して欲しいと思うんです。
山本譲司さんの著書を例にすれば、
刑務所の職員は知的障害を抱える犯罪者が多いという実態を
知っていたわけですよね。
でも、それは山本さんが本を書いたことで
初めて表に出てきた。
じゃあその実態を知っていた職員たちは何をしていたの?
という話になるし、同じように、
知的障害者の福祉でも婦人保護施設でも、
現場ではこういう問題があることを知っていたけれども、
これまで表に出てこなかったわけですよ。
今回の放送があって初めて表に出てくる。
そういう外圧がなければ動けないのかと。
自分たちの担っている責務というのを
より自覚すべきだと思いますね。

 







★番組スタッフの取材日記
居場所作りの大切さを―「見えない世界に生きる 知的障害の女性たち」に寄せ


 




関連情報


婦人保護施設など、支援機関とつながるためには
婦人保護施設は全国49か所に設置されており、生活に困窮している女性を危険から保護することを主な目的に運営されています。直接の入所申し込みはできませんので、まずは各自治体の相談窓口や福祉事務所・女性相談センターなどへお問い合わせいただき、「現在の困窮状況」「支援が受けられない状況」などをお伝えください。(婦人保護施設の場所や連絡先などの情報は、安全面への配慮から公開されていません)
ヤマケンボイス
軽度知的障害や精神障害があり、犯罪を繰り返してしまう「累犯障害者」。
山田キャスターがブログに記事を寄せています。
「刑務所に戻りたかった・・・累犯障害者の現状」



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