軽症うつ病患者への抗うつ薬の効果、偽薬との差はわずか JAMA誌 2010. 1. 21 | 渋谷区精神保健福祉オンブズパーソン

渋谷区精神保健福祉オンブズパーソン

ブログの説明を入力します。

※これは、日経メディカルオンラインの記事の一部です。全文は読者登録すると読めます。登録は無料です


軽症うつ病患者への抗うつ薬の効果、偽薬との差はわずか

近年、より軽症の患者が受診するようになり、それらの患者にも抗うつ薬が有効なのかどうかを確認する必要が高まっていた。



日経メディカルオンライン 大西 淳子(医学ジャーナリスト) 2010. 1. 21
JAMA誌「Antidepressant Drug Effects and Depression Severity」  2010年1月6日号





うつ病患者に対する抗うつ薬の有効性を示した無作為化試験は数多く行われている。しかし、うつ病患者は偽薬に反応するケースも少なくない。そこで米Pennsylvania大学のJay C. Fournier氏らは、実薬と偽薬の症状軽減に対する影響を厳密に比較するメタ分析を行った。この結果、実薬群と偽薬群の間に臨床的に意義のある差が認められたのは、ベースラインで重症度の高い患者だけだった。論文は、JAMA誌2010年1月6日号に掲載された。

 うつ病患者を対象に偽薬と抗うつ薬の有効性を評価する無作為化比較試験では、ほとんどの場合、偽薬群にもうつ症状の改善を経験する患者が出てくる。いく つかのメタ分析で、偽薬群におけるそうした患者の割合は、ベースラインの重症度が低い患者を集めた試験ほど大きいことが示唆されていた。

 しかし、対象に軽症や中等症の患者が含まれている試験はわずかしかない。また、多くの試験が偽薬を用いたウォッシュアウト期間を設けて、偽薬に反応しや すい患者をあらかじめ登録から除外していた。したがって、臨床試験の結果を日常診療に広く適用できるかどうかは明らかではない。また、近年、より軽症の患 者が受診するようになり、それらの患者にも抗うつ薬が有効なのかどうかを確認する必要が高まっていた。

 そこで著者らは、ベースラインの重症度が様々な幅広いうつ病患者を登録し、ウォッシュアウトを行わずに抗うつ薬と偽薬の効果を比較した臨床試験を対象に、当初の重症度と治療(実薬または偽薬)の関係を調べるメタ分析を行うことにした。

 PubMed、PsycINFO、コクランライブラリに1980年1月から2009年3月に登録された研究の中から、FDAの承認を得ている抗うつ薬に 関する大規模な無作為化試験で、大うつ病または小うつ病の患者を登録している研究を選出した。この中から、必要なオリジナルデータが提供されている、成人 の外来患者を対象としている、抗うつ薬と偽薬を6週間以上比較している、偽薬によるウォッシュアウトを行っていない、評価にHDRS(ハミルトンうつ病評 価尺度)を用いている、個々の患者に関するデータを研究者から直接入手できる――といった条件を満たす研究を選んだ。

条件を満たした6件の研究(登録患者数は718人、実薬群が434人、偽薬群が284人)について分析した。大うつ病患者を対象とする研究が5件、小うつ病が対象の研究は1件で、3件が三環系抗うつ薬のイミプラミンを、3件がSSRIのパロキセチンを用いていた。ベースラインのHDRSスコアは10~39だった。

 抗うつ薬群、偽薬群の両方について、当初の重症度と治療による症状改善レベルの間に有意な正の相関(当初より重症だった患者の方が、実薬群、偽薬群とも にHDRSスコアの低下が大きい)が見られた。偽薬群と実薬群の間で治療後の症状の差がより大きかったのは、ベースラインの重症度がより高かったグループ だった。

 米精神医学会の分類に基づいて、ベースラインでHDRSスコアが18以下だった軽症~中等症の患者180人、19~22だった重症患者255人、スコア が23以上で極めて重症と判定された283人について、コーエンのエフェクトサイズ(偽薬と実薬の効果の差を標準化したもの)dを求めた。

 軽症~中等症の患者のd=0.11 (95%信頼区間-0.18から0.41)、重症患者でもd=0.17(-0.08から0.43)で、いずれも偽薬と比べた実薬の効果は「小」と判定され た。一方、極めて重症の患者ではd=0.47(0.22から0.71)になったが、効果は「中」程度と判定される0.50以上には届かなかった。

 治療必要数(NNT)は、軽症~中等症が16、重症が11、極めて重症が4だった。

 英国立クリニカルエクセレンス研究所(NICR)は、うつ病治療において、実薬と偽薬を比較した場合に臨床的に意義のある差が存在すると判断する閾値を、エフェクトサイズが0.50、またはHDRSスコアの差が3に設定している。

 今回のデータに基づいて分析したところ、この閾値を超えるのは、ベースラインのHDRSスコアが25以上(スコアの差が3以上)、または27以上(エフェクトサイズが0.50以上)の患者となった。

 今回のメタ分析の結果は、日常診療において、抗うつ薬が偽薬に比べ臨床的に意義のある効果を示すのは極めて重症の患者であること、軽症から中等症の患者では偽薬と実薬の有効性にほとんど差はないことを示した。