中村誠さんは、
「はい大丈夫です。ごめんなさい」と言い続けた。
「今晩は外、で寝るのですか?」
「はい。申し訳ありません。大丈夫です。」中村さんは目線を合わせることなく、大丈夫ですと言い続けた。
「そうでしたか。もしよろしければ、今晩、泊まるところがあるのですが、行きますか?」と聞いてみた。
大丈夫という言葉を信じないことにしている。『大丈夫』とは、本当に大丈夫だから言うのではない。どうにもならないと思っているから 『このままで大丈夫』 と言うのか、相手との関わりを持ちたくないから大丈夫と言うのかだ。私たちはどちらも解いていく。
「あ、無料です。みなさん、こういう境遇のときに、泊まれる場所です」。
野宿人の中には、ご飯が食べられないほどに困っていても、助けてもらえるとは思っていない人もいる。野宿になるまで苦しんだというのに、実際に助けてもら えなかったかもしれない。それどころか失業したことを他人から批判されてきた人もいた。 『自己責任だ』 『自分で選んだんだ』 と。アパートを追い出された程ギリギリまでがんばって、野宿になって福祉事務所に相談に行ったら、
「なんで、アパートに居るときに相談に来なかったのですか?」と怒られて、
「住所がない人は、生活保護は受けられないです」(※違法:最近は減った)と言われた人にも会う。
努力をしても収入が最低生活費以下ならば生活保護を利用できるのだが、あらゆる努力をし過ぎたことで、生活保護を利用できなくなったという体験をする。こ の境遇となったその人は、誰も、国も、助けてはくれないのだと絶望するしかない。これは、少数例なのかもしれないが、こんなことを、よく聞くのが、ホーム レス支援の現場である。
『現代思想2012年9月号 特集 ―障害を持ったホームレス者がいる町で』
森川すいめい
森川すいめい
1973年、池袋生まれ。精神科医。鍼灸師。立教大学精神医学講座非常勤講師。陽和病院地域支援室精神科医。2003 年、ホームレス支援のNGO 団体「TENOHASI(てのはし)」を立ち上げ事務局長就任。08 年、NPO 法人化、代表理事に就任。東京・池袋で炊き出しや医療相談などを実施。同年、ホームレス状態の人の精神疾患有病率調査を日本で初めて行う。09 年、認定NPO法人「世界の医療団」東京プロジェクト代表医師に就任。11年、同法人東日本大震災ニココロプロジェクト代表医師に。現在も毎週東北支援活 動を続ける。アジアアフリカを中心に、世界40か国以上を旅した。
現代思想2012年9月号 特集=生活保護のリアル
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