私は、2001年に、山形県白鷹町のIT情報化委員になり、
毎月のように山形で会議をしたときに、
豊富な農作物がたくさんあるのに、東京では手に入らないことに驚きました。
そこで、2002年にふるさと財団の「eふるさと事業」で、
インターネットで農作物を販売するという実証実験を行いました。
当時は、インターネットで農家さんが農作物を販売するということは類がありませんでした。
そこで、「こだわりがある生産者と、こだわりがある消費者を、インターネットでつなげよう」と、
「おすそわけ.com」というサイトを立ち上げました。
2002年(平成14年)は、無登録の農薬の販売や使用が社会問題になり、
山形県でもこの農薬を使用したため、りんごやラフランスを廃棄しなくてはならないという
大きな事件となりました。
そのとき、無農薬や低農薬栽培の農家さんや、該当する農薬を使用しない農家さんも
風評被害によって売り先がなくなってしまいました。
そのとき「おすそわけ.com」によって、
鎌倉ニュージャーマンという鎌倉のケーキ屋さんと、農薬を使っていなかった白鷹町のくまさかフルーツガーデンがつながり、
生産者さんの名前が入ったアップルパイが作られました。
いまでは、産地や生産者さんの名前が入ったお菓子などはたくさんありますが、
そのころは、農家さんの名前が入ったお菓子や料理はなかったと思います。
そのアップルパイはインターネットのホームページでも紹介されましたが、
「インターネットに掲載される」ということが非常に珍しく、メディアで話題になりました。
また、「おすそわけ.com」は、都内で白鷹町のお蕎麦や地酒、山菜料理などの試食会を行い、
その後バスツアーで、東京から山形に行き、
りんご農家さんのリンゴ山で会食をしたりしました。
りんごはたわわに実っているだけではなく、たくさん地面に落ちていました。
熊坂さんが「好きなだけ持っていっていいよ」というので、
地面に落ちているりんごを拾っていたら、
「何をしているんだ?」と聞かれ、
「好きなだけ持っていっていいというから、拾っていた」と答えると、
「なにやってるんだ。せっかく来たんだから、一番美味しいのを取っていけ!」と言われて驚きました。
「だって、売り物じゃないですか」と言うと、
「わざわざ来てくれた人に、一番美味しいのを食べてもらいたいって思うのは当たり前だべ」と。
そのとき、私は、農家ってすごいなあと思いました。
「一番上で、一番太陽にあたっている、一番美味しいりんご」をもいでもらったことは忘れられません。
この実証実験(モデル事業)は総務省でも大変話題になり、
官僚のみなさんも視察に来てくださったりしました。
そのときの担当だった方は、おひとりはいま、某県知事になっていらっしゃいます。
私とりんごの関わりはもうひとつあり、
そのちょっとあとに、総務省で自治体の電子会議室というのができて、
私は4人いるファシリテーターのひとりとなりました。
そのころに、青森県板柳町のロイ(ニックネームです)という役所の担当者が非常にがんばって、
総務省のeまちづくり事業で、りんごのトレーサビリティ・システムに取り組みました。
これは当時珍しかったQRコードをシールにしてりんごに貼り付け、
QRコードを読み込むと生産者の生産履歴がわかるというものです。
2002年の無登録農薬事件は青森県でも大きなダメージとなったので、
板柳町はこのあと「りんごまるかじり条例」というものができました。
余談ではありますが、板柳町の仕事に関わっているときに、
ねぶたに参加させていただく機会があり、これも大変貴重な体験となりました。
そして、さらにつながっていくこととしては、
私が住む桜新町(実は母の実家があります)が青森県とつながりがありました。
桜新町商店街は、1952年(昭和27年)に「金のたまご」と言われる集団就職の受け入れを始めて行ったのだそうで、
非常に小規模ながら「桜新町ねぶた祭り」も行っています。
山形県白鷹町は、その後、「農家が運営する地域SNS」として
「どりいむSNS」を2008年にプロデュース。
翌年には CSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー<農家支援のデポジット入金システム)を導入。
(農研機構がCSAについてのガイドブックを出していますが、2016年!なんと8年後!)
おかげさまで、「どりいむSNS」もどりいむCSAも、13年たった今も継続しています。(すごい!!)
お役所の補助事業の大半は、金の切れ目が縁の切れ目、とばかりに継続しないものが多いのですが、
おかげさまで、白鷹町の事業も、板柳町の事業も継続しています。
その後、東京で一番地価の高い松濤で「松濤日曜市」というマルシェの原型を始め、
農水省の農業女子プロジェクトや、
二子玉川のマルシェ「ふたこ座」の立ち上げにも関わりました。
松濤では、ミニトマトをひとつ50円で販売したり、
珍しい野菜や、旬の果物などを販売しながら、
高級住宅地に住む方たちのリアルマーケティングを行いました。
そこで、無農薬や有機栽培に関心が高い「意識高い系」のお客様もたくさんいるとわかりました。
しかし「無農薬」「有機栽培」についての消費者知識はかなりいいかげんであるということも
マルシェをやっているとわかることでもありました。
最初のころは、福島が311のあとの風評被害があったりもしましたが、
だんだん「食べて応援」という農水省のキャンペーンが伝わっていきました。
(農水省「特別栽培農作物に関する表示ガイドライン」)
私は農業の専門家ではありませんが、GAPやHACCPなどの勉強もしました。
今年は、鎌倉の東端エリアで、高齢者支援のためのミニマルシェを始めたものの、
コロナ禍で中断しています。
ここでは、鎌倉と他地域をつなげてできることや、コミュニティづくりにも取り組んでいきたいと考えています。
インターネットを使うことができないとか、
少しだけ、美味しいものを食べたいという高齢者に
旬の美味しいものを食べてもらう仕組みをどうやって作ったらいいかと考え、
キッチンカーに来てもらったり、路上ライブをやったり。
農家さん支援というよりは、地域のお年寄り支援にシフトチェンジしています。
そうはいってもコロナ禍でもあり。
年内はあまり人が集まることはできないなかで、
美味しいものを、お年寄りに食べてもらいたい。
地域のなかの共同購入なども、改めてこれからは考えていくべきことかもしれません。
とりあえず、いまここ、です。