昨年から、私は「老子」の翻訳に取り組んでいる。

それがもうすぐ、本になる。

担当者のIさんは、年のわりに老成していることと、字があまりうまくないことを除けば、

(別に除かなくてもいいのだけれど)

私がこれまで会った編集者のなかで、

もっとも優れた編集者といってもいいのではないかと思うくらい、

感性も知性もすばらしい人なのである。

原稿にさりげなくチェックとともにコメントが添えられていて、

「ここがとてもいいですね」とか、

「これはとてもよくなりましたね」とか、

なんてことなく書いてあるのだけれど、

それがまた、なんとも絶妙な褒め方なのだ。


世の中には、人のことや、なんやかやを、けなしたり、ケチをつける人が少なくない。

褒めるよりはケチをつけるほうが簡単だし、

文句を言うのは誰にでもできることだ。


でも、的確に褒めるというのは、なかなかに難しい。

センスの問題か。

いや、やはり才能か。

まあ、Iさんのおかげで、私はすっかりいい気分で仕事を進めているのである。


ネガティブなメッセージを周囲に振りまいて、

イヤな思いをさせたところで、

それがいったい何になるのだろうと思うが、

とにかく、撒き散らさないことには気がすまない人も少なくない。


しかし、やはり、撒き散らすのであれば、

ネガティブなパワーじゃなくて、

ハッピーなパワーを撒き散らしたいものだ。


そういえば、よく、年寄りが口癖で「ありがたい、ありがたい」と言うけれど、

最近の私は、

気がつくと「ありがたいなあ」と口走っているのである。

なんとなく、そんな自分に、エライね、という気持ちではない複雑な気持ちも感じなくはないが、

まあ、日々、感謝することは悪いことじゃないと思うことにしている。