「起業の醍醐味」というサイトで、トライコーン株式会社の波木井卓さんが「ビットバレー」について書いているコーナーがある。http://www.venturenow.tv/founder/5th/hakii/08.html

1995年を過ぎたころから、アメリカでのインターネット・ブームが日本に波及して、「IPOを目指すベンチャー企業の創業者が巨額の富を得る」ということがビジネスのモチベーションになる時代の到来である。

日本では、ネットエイジの西川潔くん、松山太河くんなどが中心となって「ビットバレー」というコミュニティ・ネットワークが形成されていく。(いまではもはや死語となっている「ビットバレー」だけれど、「ビットバレー・アソシエーション」はまだ機能している。http://www.bitvalley.org/)

ビットバレーのメーリング・リストははあっという間に参加者が増え、毎月大勢が集まるパーティーを実施。ときには東京都庁の石原慎太郎が参加したり、ソフトバンクの孫正義さんがアメリカから飛行機をチャーターして駆けつけるというパフォーマンスもあり、一躍日本中の話題となり、ここには多くのベンチャーキャピタルが集まった。
 
「トライコーンにも増資をしないかという話がひっきりなしに来るようになっていた。ひどいときには毎日数回ベンチャーキャピタルの方が来社し、僕がビジネスプランを話すことになっていたりした。トライコーンも周りのインターネットバブルの波に影響を受け、ベンチャーキャピタルから増資を受けることになる。 」と、波木井さんは書いている。

渋谷にいたら、ベンチャーキャピタルに増資してもらってIPOするのが当然である、という風潮はいまでもなくはない。

「オフィスの場所はどこでもよかった。仲間が多いので便利だろうということで渋谷を選んだ」というトライコーンは、ベンチャーキャピタルの増資を受けたが、それに売上がついていかなくなり、創業以来はじめての赤字を出す。
システム開発で儲かっていたものの、ECが流行ることを見越してバイヤーズという買い手主導型ショッピングサイトを立ち上げ、登録店舗を増やしたが、消費者を集めることができず、ある会社に売却。その後しばらくして、その会社も楽天に売却されていく。

渋谷のベンチャー企業で、メガベンチャーとして成功しているところはすべて、システム開発であり、ファイナンスのマネジメント力によるところであるといっても過言ではない。

「何をやりたいかではなくて、何が儲かるか、だ」と言った社長がいた。
「儲かるビジネスを立ち上げ、金を集め、売却するだけだ」

それは違うんじゃないの? 「自分のやりたいこと」をやるのがベンチャーじゃないの? と思いがちだけれど、どうやら渋谷の「成功モデル」は「何をやるか」ではなくて「どうやって儲けるか」ということに終始しているケースが目出つ。

創業者といっても「実業家」であり、自らがこだわって何かを創造しているわけではない人のほうが成功しているともいえる。