ずいぶん前に、母校青学の図書館報から原稿を依頼された。

テーマは、「私の進路を決めた本」。

夏休みの読書感想文の宿題のようでめんどくさいと
思っていたけど、もう締め切り。

仕方なく書きはじめたら、すんなり書けた。

青学図書館に置かれるので、あまり多くの方の目に
触れる訳ではないだろう。

せっかく書いたので、全文ここに掲載することにしました。




「ビジョナリー・カンパニー」

大学3年生のとき読んだ本である。この本は
私のその後の人生に大きな影響を及ぼして
いる。
当時私は、青山学院大学のすぐ正面にあった
広告代理店でアルバイトをしていた。学業の
傍ら、社会人のようにスーツを着て営業の仕
事に精を出す毎日だった。その頃の私のスケ
ジュール帳には授業の予定とお客様とのア
ポイントが交互に並び、ぎっしりと埋まって
いる。
そんなある日、勤めていた会社の社長と偶然
帰りの電車で一緒になった。私は将来社長に
なりたいと思っていたので、社長が手に持っ
ていた本が気になった。
「社長、その本最近いつも読んでますけど、
面白いんですか?」
「これか?この本は凄いよ。でもお前はまだ
読むな。頭でっかちになったらいけないから
な」
その本がビジョナリー・カンパニー。
読むなと言われればどうしても読みたくな
るのが人の心情。私は次の日には国連ビルの
裏手にあった青山ブックセンターに行って
購入してきた。
読んで衝撃を受けた。私も将来、ビジョナリ
ーカンパニーを創ろうと考えた。
この本には、時を超えて生存し続ける企業と
は何か?経営者のカリスマが重要なのでは
なく、企業そのものが究極の作品であること
が書かれている。

私は青山学院大学に入学し、福井県の田舎か
ら東京に上京してきた頃から漠然と将来経
営者になりたいと思っていた。でもそれは
あくまでイメージ。実際には何をやったらいい
のか、何のためにやるのか、目標すらはっき
りと決められないでいた。
プロ野球選手やミュージシャンには憧れる。
自分たちと年も変わらず輝いて見える。スポ
ーツや音楽など好きなことを仕事にしてい
る彼らは羨ましい。
しかし経営者と言えば、ビジネス雑誌に載っ
ている社長の写真はスーツを着たおじさん
ばかり。それが社長のイメージだ。20歳前半
の私が憧れるような対象ではない。どのおじ
さんがどの社長なのか、見分けすらつかなか
った。青年実業家という言葉にも胡散くささ
が付きまとう。そうなりたいとは思わなかっ
た。金持ちになりたいという強い欲望があっ
た訳でもない。
じゃあ、なぜ?何を目指して会社をやろうと
考えているのか。
私はこの本を読んで霧が晴れるような想い
がした。自分もビジョナリーカンパニーを築
き上げたい。
ビジョナリーカンパニーとはこう定義され
ている。
・業界で卓越した企業である。
・見識のある経営者や企業幹部の間で広く
 尊敬されている。
・私たちが暮らす社会に消えることのない
 足跡を残している。
・最高経営者(CEO)が世代交代している。
・当初の主力商品(またはサービス)のラ
イフサイクルを超えて繁栄している。
重要な点は、ビジョナリーカンパニーが個人
ではなく、組織であるという点だ。
組織を作ろう。強く、時を超えて繁栄し続け
られる組織を作りたい。私はそう考えた。
当時の私はまだ大学生。消化不良のところは
たくさんあったかも知れない。ところが時折
この本を読み返してみると、驚くほど私の経
営観はこの本の影響を受けていることに気
付く。もちろん本に書いてあることを全部鵜
呑みにしている訳ではない。しかし、私にと
っては聖書のような存在となった。

私の会社サイバーエージェントのビジョン
は「21世紀の日本を代表する会社を創る」
だ。戦後のごたごたの時代に誕生して20世
紀の日本を代表する会社に成長したソニー
やホンダのような会社を創ろうと考えてい
る。
ビジネスやコミュニケーションのルールを
がらりと変えてしまう力を持つインターネ
ットの誕生、日本経済バブル崩壊、高度成長
期の終焉などの世相は、私たちのような新し
い会社にとっては、またとないチャンスだ。
戦後のごたごた同様、新しい時代を担う会社
が生まれるチャンスだと考えている。
「21世紀の日本を代表する会社を創る」
事業内容や製品ではなく、当社がこの言葉を
ビジョンに掲げているのは、会社そのものが
究極の作品であり、ビジョナリーカンパニー
を作り上げようと考えているからだ。
サイバーエージェントは2004年9月期、
売上高○○○億円、計上利益○○億円、最終
利益では○○億円を計上した。従業員数は約8
00名だ。ゼロから会社を創って6年半だと
考えればよく健闘しているかも知れない。
しかし会社が目指す、21世紀を代表する会
社の規模は売上高で何兆円、従業員数も何十
万人という規模だ。その数字には遠く及ばな
い。
しかし、当社は私だけでなく、社員皆に「2
1世紀を代表する会社を創る」というビジョ
ンが浸透している。だから現状に満足せず、
規模的な拡大に取り組んでいる。
長い年月がかかるかも知れないが、真のビジ
ョナリーカンパニーを築き上げるため、これ
からも頑張っていきたい。