演出・中原和樹 × 振付・飯塚朋子 対談をレポート!! | 渋川子ども若者未来創造プロジェクト(渋ミュ)

渋川子ども若者未来創造プロジェクト(渋ミュ)

群馬県渋川市を舞台とするオリジナルミュージカル(渋ミュ)の公演に至るまでを紹介するブログです

「もんもちプロジェクト」を主宰し、渋川市民ミュージカルの脚本・演出を担当する中原和樹氏と、

渋川市出身のミュージカル俳優で振付担当の飯塚朋子氏に、この事業への思いや渋川の魅力、今後について伺いました。

 

ずっと宝物になるような作品に

 

■人とちゃんと向き合う

―劇団「もんもちプロジェクト」は、渋川市民ミュージカルを全面的にサポートされています。この企画についてどう感じましたか。

 

中原 僕自身、ミュージカルや演劇の公演をやってきて、本番を見たお客さんが得る感動があると信じていますが、それと同じくらい、いやそれよりも濃いくらい、協働作業として舞台を創り上げていくプロセスの中に、人生のヒントになるものがいっぱいあると思っています。今、日本の社会が加速度的に進んでいく中、価値観も生き方も違うけれども、物語や役を通して考えたり、コミュニケーションを取ったり、ちゃんと人と人とが向き合えることが大事だと思っています。そうした中、渋川市がプロジェクトとして、人とのつながりや交流人口を増やすために市民ミュージカルという作品を創る。それはすごく効果的だと思うし、いい作品を創るという困難の中で、一生懸命やっていくことで結果としてコミュニケーションが生まれると思っています。

 

―これまでも福島や山梨、埼玉などで地元参加型のミュージカルを創ってこられました。

 

中原 すべてオリジナル、というのは初めてだと思います。しかも、打ち上げ花火的ではなく、5か月間、地域に密着して地域の方が炊き出しまでしてくれる。いろんな人が渦のように巻き込まれていく中で、長い間、作品を創ることができるのはすごく幸せですね。

 

―朋子さんは渋川市出身ですが、地元で市民ミュージカルが立ち上がり、どう感じていますか。

 

朋子 本当に感謝の気持ちでいっぱいです(涙)。ミュージカルがもともと好きで、2017年10月に初めて中原さんのワークショップに行きました。ミュージカルの創り方がすごくて…。それも、3時間で1曲創るという怒涛の作品でした。歌唱指導の山野(靖博)さんもいて、ミュージカルにおいての歌のこととか、すごく感動しました。そこからいろんな教えをもらいながら、山梨や福島のワークショップに参加してきました。今まで考えていたミュージカルとは違っていたのですが、それが私にはすごくしっくりきました。人と向き合い、人とつながる。相手を大切にする。そういうことを大切にして作品を創っていかれる。あるとき、私が群馬県出身といったら、「群馬でもやってみたらいいんじゃないの」と言ってくださって。父(飯塚欣彦=事務局長)に相談したら、父も星野(敬太郎)さんとずっと渋川でまちおこし的なことをやりたいと考えていたみたいで、そこにこのプロジェクトがうまく合致して。今回、こーんなにたくさんの人が関わるプロジェクトになって、びっくりです!もう感謝と驚きでいっぱいです!!

 

 

■参加者の人生が脚本に乗る

―オリジナル脚本ですね。

 

中原 「ヒメちゃん」という社(やしろ)の精霊というのかな―が出てくるんですけど。赤城山に赤城姫(あかぎひめ)と淵名姫(ふちなひめ)の伝説があって、この地には赤城姫と呼ばれるチョウ(ヒメギフチョウ)もいます。それをモチーフに話を書きました。

 

「ヒメちゃん」ですね。

 

中原 直接的には赤城山の伝説とはわからないようにしていますが、根っこの部分をこの土地のものにしたかった。そういう皮膚感覚的なものが一番大事だと思っています。実は(12月9日の時点で)、台本、まだ最後まで書き上げてないんです(笑)

 

朋子 これは…すごいことです(汗)。

 

中原 あらすじは、あるんですけどね(笑)。だんだん欲が出てしまって。もともと、事務局の飯塚さんに「参加者の顔ぶれが決まってから台本を書き始めたい」と、わがまま言わせてもらっていたんですが…。せっかく、地域オリジナルのものができるのに、よくあるような市民ミュージカルにしたくなかった。わかりやすさとか、だれもが「いいね」となるよりも、参加した人や関わっている人が「自分たちの作品」と自信をもって、ずっと宝物にできるような作品がいいなというのが根底にありました。実際に、顔ぶれを見て、「この人はどういう人なんだろう」「抱えているものはなんだろう」みたいなことをちょっとずつ知りながら(それを直接書くわけではないですが)書いていく。参加した人と僕の人生が交わり、影響を受けたものが台本に乗ると思っています。そうして出来上がったものが、このプロジェクトや人の血肉になっていく、という感覚をすごく大切にしています。

 

―大変な作業、ですよね。

 

中原 形ができているものに当てはめていくほうがずっと楽なんですが、それだとあんまりおもしろくないなと思って(笑)。昨日(12月8日)も(台本)書いていました。

 

―このミュージカルは、渋川市にとって宝物になりますね。

 

朋子 本当にそうだと思います!オリジナルの台本で、オリジナルの曲で。これからの渋川市にとって大切な宝物になると思います。

 

 

■人生の変遷をたどりながら

―始動して3カ月経ちました。参加者の様子はどうですか。

 

中原 「演劇が好き」「ミュージカルに挑戦したい」と集まってきた方が多かったですね。ただ、僕の創り方が、時間がじっくりかかるやり方なんで(笑)。やることを指定してやってもらえば早いし簡単で安心なんですけど、それでは自分たちの作品にならない。先ほどの話に戻りますが、自分たちで台本を読み解き、考える。自分が必要なコミュニケーションを人と取り合って、その上で、舞台で勇気を持てるか。戸惑いはいっぱいあると思うんですけど、人と向き合うことにどんどん向かっているので、本当の意味で仲間になってきていると思います。

 

―子どもよりも大人のほうが衝撃的というか、葛藤があるんじゃないですか。

 

朋子 そう、参加者のLINE (ライン)でも毎回みんな長文で。「私はこうだから」とか「自分の人生をもう一回考えた」とか、すごい熱いんですよ!

 

中原 役をやるときに、与えられたセリフを上手くやるほうが簡単なんです。練習すればいいわけですから。そうすると、その役がどうしてそれを言うに至ったのかとか、描かれていない気持ちの葛藤とか、いろんな人生の変遷みたいなものを取りこぼしちゃう。「セリフを上手くいうわけじゃなくて、人生の変遷、気持ちの変遷みたいなものをわかってほしい」という話をすると、どうしても自分を顧みるんですね。その役を知るために。そうすると、ちょっとずつ発見があったりする。苦しいこともあるんですけど。

 

―しんどい作業ですね。正解もないし。

 

朋子 本当に!もう、フル回転です。皆さん、熱心に頑張っていて、すばらしいですよ!

 

中原 極論ですけど、きれいにまとまらなくてもいいと思っていて。一生懸命、その人の人生と物語について考え続けることができれば、僕はそれでいいと思います。

 

―それは、観客にも伝わりますね。

 

中原 伝わります、絶対!僕は、上手いものは感心はするけれど、感動はしないと思っていて。もちろん、究極的に型として完璧に芸術性を高めたものは感動します。でも基本的には、目の前の舞台にいる人間の心が動いているから観客も心が動いて感動すると思う。自分が心を使うしかないんです。

 

―朋子さんは振付を担当されています。

 

朋子 きょう(12月9日)、1曲(振付が)完成しました。本当はあらかじめ考えてきたのですが、きのうの歌稽古でみんなが歌っているのを見たら、自然に違う振りが沸いてきて、昨日の夜、考え直しました。やっぱり、人を見て―というのは大事だなと思いました。

 

―脚本も演出も振付も、すべてがオリジナル。この地ならではのミュージカルが誕生しますね。

 

 

■「渋川って?」山と平地と空と

―渋川の印象はいかがですか?

 

中原 いいですね!

 

朋子 良かった!

 

中原 ごはん、めっちゃおいしいし。温泉もいいし。それと…、なんていうんですかね…。

 

朋子 私は景色が好きなんですよね。空がすごいきれいなんですよ、渋川って。夕日もきれいだし、星空もきれいだし、晴れている空もきれいだし、山並みがすごいきれいに見えるし。

 

中原 僕の感覚では、渋川って、山と平地と空と、混ざり合いがとてもいい感じがするんですよね。日本全国いろいろな地方に行っていますが、「山がきれい」「海がいいね」というまちはあっても、「混ざり合っているのがいい」っていう感覚は意外と少ない。山と平地と空とを含めて、ひとまとまりでこの場所である、みたいな感覚がありますね。

 

―それは滞在して感じたことですか。

 

中原 良い意味で、にじんでいるみたいな感覚は最初からありました。それがあるから、ぼんやりというところで、「ぼんやしろしろ」というのが出てきたのは、実はちょっとあります。

 

―そうでしたか!滞在して、変わってきたことは。

 

中原 人と触れ合うことが増えました。人が優しいんですね。俗にいう人に優しくの優しさではなく、押し付けない優しさっていうか。食べ物がいいからかな。やっぱり、食べ物が人をつくると思う。

 

―渋川の食で何が好きですか。うどんとか?

 

中原 うどん、おいしい!!

 

朋子 うどん、おいしいよ!

 

中原 野菜!

 

朋子 野菜、おいしいね!お肉もおいしいし…。お腹すいてきた…。

 

―(笑)劇団の皆さんは、いかがですか。

 

中原 めっちゃ楽しんでいますよ!滞在すること自体も含めてプロジェクト、というのはないですからね。

 

―うれしいですね、朋子さん!お父さんたちが考えたプロジェクトを喜んでもらえて。

 

朋子 本当に!本当にそうです!

 

―市民の方がいろんな形で関わっていますね。

 

朋子 一人の力では絶対になし得ない、人とのつながりを感じます。私もこれまで人と一緒にこれだけ大きなプロジェクトをやることはなかったので、すっごいことだなと思います。たぶん、100人ぐらい関わっているのではないでしょうか。父と仕事を一緒にしたことが初めてで(中原:普通ないよね)、「お父さんって、すごいんだな」と思いました。

 

―飯塚さんのパワーと企画力、それから星野さんの地盤。最強のタッグだと思います。

 

中原・朋子 うんうん!最強タッグです。

 

―そして、劇団の皆さんの力があって、このプロジェクトが成り立っています。多くの方が賛同してくださっています。

 

■本番に向けてひとこと

―本番まで2カ月です。

 

中原 そうですね。すごくいいものになると思うんです。一般的にいう完成したミュージカルではないと思うんですけど…、すごく素朴で、人としてすごく大事な心があるミュージカルになると思うんです。普段、しんどいこととか、いろんなことがあるかもしれませんが、このときだけは自分の心を子どもみたいに素直にしていい時間になると思うので、そうやって楽しんでほしいですね。

 

朋子 こういうふうに、一つの作品に向かって同じ方向を向きながら、ちゃんと人と触れ合い、人とやっていく場所がずっとあれば、すごく幸せだなと思います。ミュージカルには、そういう力があると思います。

 

―本当にそうですね。貴重なお話をありがとうございました。

 

 

■プロフィール

○中原和樹(なかはらかずき)

劇団もんもちプロジェクト主宰・演出。日本演出者協会会員。山梨県立県民文化ホールアーティスティックアドバイザー。

演出家、劇作家、舞台監督、アクティングコーチとしての顔を持ち、多種多様な活動を同時に進め、色々な角度と深度で舞台芸術に向き合いながら、生演奏の音楽と芝居との融合、現代美術・舞踊・舞踏・他ジャンルとクロスオーバーするような舞台作品製作を続け、既存の枠組みに囚われない表現を創作している。

・主な活動実績

大地の芸術祭2018 あざみひら演劇祭にて、 音楽舞踊朗読劇 脚本、演出

山梨県立県民文化ホール主催 2日間で創るミュージカルWS 講師

田村っ子の生きる力を育む会主催 福島県田村市で、子供たちと二日間で創るミュージカルWS 講師

中之条ビエンナーレ2019 出展予定

 

○飯塚朋子(いいづかともこ)

群馬県渋川市出身

2歳よりダンスとピアノを習い始め、ダンス、音楽が大好きになる。北中時代には吹奏楽部に所属していた。前橋女子高校の音楽部に所属し、ミュージカルに出会う。歌う舞台女優を志し、国立音楽大学で声楽を学ぶ。2017年10月に早稲田大学で行われたミュージカルワークショップに参加し、中原氏、山野氏に出会う。

これまで声楽を鷹野恵氏、小川哲生氏、品田昭子氏に師事。

ミュージカルや音楽劇、コンサート、ストレートプレイの舞台などに出演している。