プレーバック劇団芝居屋第42回公演「通る道」7 | 序破急

序破急

劇団芝居屋を主宰しています。50年以上携わって来た芝居のあれやこれや、また雑感などを書き散らしたいと思っています。

ようやく坊守文子の身の上話が終わり二人きりになった妙子と奈美恵には足のしびれを隠す余裕はありませんでした。この騒ぎが久しぶりに会った二人の距離を縮めます。

会うのは法事などの特別な日以外にない親戚同士、会話は近状報告的なものになりますが、日ごろ会わないという気安さが本音の話を引き出します。

妙子には夫の正二の健康状態が気がかりでした。

妙子 「実はね・・・いや、いい。なんでもない」

奈美恵 「いやね、なによ言いかけて。溜まったものがあるんだったら、吐き出した方がいいわよ。お互い忙しくしてるんだから、何か聞いてもすぐ忘れちゃうわ」

妙子 「そうか、会うのは法事ぐらいなもんだものね、お互いに」

奈美恵 「そうよ。ここで吐いたものはお祖父ちゃんが全部持って行ってくれるわ」

妙子 「そうか、そうだね」 

妙子 「実は・・・先生の事なの」

奈美恵 「やっぱりね。ねえ、結局叔父さんの病気は何だったの?」

妙子 「まだはっきりした事はわからないの」

奈美恵 「はっきりした事が分からない?」

妙子 「健康診断の検便で引っかかってね、大腸ポリープが見つかったの。それで内視鏡検査してポリープ切除することにしたんだけど、結構数も多くて大きかったらしくて入院して経過観察してるの」

奈美恵 「それで?」

妙子 「わたしの知ってるのはそこまで。先生の説明聞いてこっちに来ちゃったから」

奈美恵 「じゃ、検査結果はまだわからないんだ。心配だね」

妙子 「先生、わたしには言わなかったけど前から時々血便があったらしいの。でも気の弱い人だから言い出せなくって一人で気に病んでいたらしいのよ、大腸ガンかもって」

 

奈美恵は夫太一に対して鬱積した不満を持っていました。

それは・・・

妙子 「ねえ、太一さんは身体の悪いところはないんでしょう」

奈美恵 「ええ、いたって健康。毎日仕事で飛び回ってるわ」

妙子 「いいじゃない。健康で元気が一番ね」

奈美恵 「そうなんだけどね・・・よくある話だけど仕事オンリーで全然家庭を顧みてくれないの」

妙子 「でも、旦那元気で留守がいいって言うじゃないの、そうじゃないの」

奈美恵 「それも程度問題よ。冠婚葬祭はもちろん子供の入試の事とか家庭の事は全部パスなんだから」

妙子 「でも仕事じゃねえ・・」

奈美恵 「(カチン)・・・わたしだって仕事やってます。お客様の為に駆けずり回っているのよ。忙しい時間をやりくりして何とかこなしてるけど、もう限界よ」

妙子 「大変ね・・・」

奈美恵 「あいつは何にも分かっちゃいないのよ、今日という日がどれだけ大事な日か。本当は今日の法事に出る筈だったのよ、それなのに来る間際になって、ごめん、急に出張になっちゃっただもの」

妙子 「それはないわね」

奈美恵 「先に会社に言っとかないからでしょう。仕事だって言えば何でも通ると思っているのよ。こういうのって本当は家の当主が出るもんじゃないの。わたしは赤坂家に嫁いだんだから、わたしを貰った赤坂家を代表する者として来なきゃいけない筈だよね。それなのに東京での法事は出るくせに、遠いって理由だけで二十三回忌からずっと来てないんだから。わたし伯父さんに顔向けができないわ」

妙子 「まあ、それはね・・・」

奈美恵 「忙しい忙しいって外で何やってんだか分かりゃしないんだから」

妙子 「そうなの、傍目じゃ分からない事があるのね」

奈美恵 「本当にあいつは・・・ああ、だんだん腹立ってきた」

 

奈美恵あわや大爆発となるところ坊守の文子が来て・・

妙子 「ハイ、何でしょう」

文子 「(奈美恵を気にして)いやいや妙子さん有難う。宮元町のタザキヨシヒコさん、連絡取れた。あんたの名前出したらどうぞどうぞって」

妙子 「ああ、そうですか。お役に立って良かったです」

文子 「それで来週から行くことにしたの」

妙子 「そうですか。頑張ってください」

文子 「ああ、頑張る頑張る。へへ・・ちょっとご報告。お邪魔様でした」

妙子 「ああ、どうも・・・」

落ち着きを取り戻した二人。

そこへ妙子に正二から検査結果の報告の電話が来ます。

 

妙子 「・・・ああ、先生。検査結果はどうだったの?血便の事、お医者さんに言ったの?それでお医者さん何だって?」

 

     奈美恵も携帯に耳をそばだてる。

 

妙子 「・・・ああ、ごめんなさい。で、どうだったの・・・あら、じゃ原因はなんだったの?・・・エッ、何?・・・イボジ?・・・ああ、イボ痔!・・・それで出血してたの」

 

     顔を見合わせる妙子と奈美恵。

     吹き出す奈美恵。

 

妙子 「それでポリープはどうなの・・・・ああ、良性。そう良かった。じゃ,ポリープは・・・ああ、切除したのね。・・・・退院は・・・明日には帰っているのね。ハイ、分かりました。・・痔の手術?・・・そうね、それは早くって事じゃないんでしょう。・・・帰ってからでいいじゃないんですか。・・・・ええ、そうしましょう。・・・お義兄さん・・・いいえ、まだ来てないの。・・・今の所、三人。・・・そうね、後は分からないわ。・・・ええ、お義兄さんが来たら電話します。それじゃ」

その電話は妙子にとって朗報でしたが、奈美恵にはお笑いのネタ話でした。

奈美恵 「ポリープ良性だったんだね」

妙子 「ええ、検査結果は良性で特段の異常はなしだって」

 

     座り込む妙子。

 

妙子 「ああ、よかった」

奈美恵 「ひと安心ね」

妙子 「イボ痔か・・」

 

     笑い出す二人。

 

妙子 「ああ、まったく人騒がせな話ね」

奈美恵 「でも大ごとじゃなくて良かったじゃない。

 

ホッと安堵の妙子でした。

 

8に続く。

撮影鏡田伸幸