目覚まし時計をかけずに寝る週末に至福を感じ、

昼過ぎに起きたら、家の掃除をする。

ほとんど使われていない部屋の床を掃除するのが僕の役目。

掃除機の轟音が鳴り響く。

掃除がおわると、遅めの昼食を済ませ、

近所のショッピングモールに1週間分の日用品を仕入れに出かける。

まわりを見渡すと、疲れた顔でショッピングカートを押している人がいる。

ああ、僕もこんな風に見えてるのかな。

 

大きすぎるダイニングテーブルの隅っこに僕と妻の2人分の食事が並べられる。

テレビを見ながら、食べる食卓には笑いが耐えない。

 

ショッピングモールにあるペットショップのケージの中で

窮屈そうにしている子犬がこっちを見ている。

すまないが、見ないでくれと目をそらす。

僕達には君を迎え入れる資格なんてないんだよ。

子どもたちが無邪気にショーウインドウのガラスをコンコンと叩いている。

あんまり叩かないでやってくれと心の中で他人の子どもを叱ってみた。

 

「まるに会いたい」

その日の夜に妻が僕にこういった。

「まるって誰?」

「ショッピングモールで見かけたあの柴犬」

驚いた。すでに妻は名前をつけていた。

「ああ、あの子か。じゃあ来週末また見に行こう」

どうせ、来週にはいないだろう。

 

“無限ループに楔がうちこまれる”

そんな気がした。

永遠に繰り返される平凡な毎日

君が打ち込んだ楔は意外にも妻の心に深く突き刺さってしまった。

 

週末が待ちきれない。

こんな感覚は久しくなかったであろう。

でも、きっと君はいないよね。

いつもよりも少し足早にショッピングカートを押す僕達。

あ、君がいた。

 

「あれ?先週よりも大きくなってない?」

そりゃそうだよ。犬って成長が速いんだから。

そういえば、先週まで君の周りにいた子犬の数が減ったね。

 

もう少し待っててね。

君の事を迎えに来てくれる人がかならずいるから。

無責任な約束をして帰宅する。

 

僕達に資格はあるのか?

犬どころか自分たちの生活すらまともに出来ていない。

何度も何度も自分に問いただす。

 

「もしも来週あの子がいたら連れて帰ろう」

僕が妻にこういった。

妻は少し考え、嬉しそうに頷いた。

その日はクリスマス・イブ。

僕達はいつもより足早にショッピングモールを駆け抜ける

「まだいるかな?」

息切れしながら妻が僕に話しかける。

僕らはさらに足取りを速める。

「いた!」

クリスマスセールで半額の値札のついたケージの奥で、

君は待っていた。

「この子を抱っこさせてください」

店員さんにお願いしてる姿を君はわかっているかのように

くるくると回り出す。

君を抱っこした妻の目には涙が溢れている。

「待たせてごめんな。さぁ、お家に帰ろう」

 

生まれて初めてフカフカの絨毯の上ではしゃぐ君。

生まれで初めて迎え入れる君を必死で観察する僕。

「寂しかったよね」

本来であれば、お母さんに甘えている時期に

人間がむりやり引き離しちゃったんだよね。

二度とそんな思いはさせないから、

人間を嫌いにならないでおくれ。

 

 

 

もっと声を聞かせてよ

http://amzn.to/2DHc16p