ショスタコーヴィチの「交響曲第13番」は、”バビ・ヤール”の副題を持ちます。

 

「第11番」「第12番」に続く副題を持った交響曲ですが、全2曲が当局に迎合したような内容だったのに対し、この「第13番」は当局との対立を生みました。

 

バビ・ヤールとは、当時ソビエト連邦を構成する共和国の一つであったウクライナのキエフ地方にある峡谷の地名で、1941年にこの地に侵攻してきたナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺が行われた場所であす。第一楽章はこの虐殺事件とともに、帝政ロシア末期における極右民族主義団体によるユダヤ人弾圧にも触れ、その後のソ連においてもユダヤ人に対する迫害や反ユダヤ主義が存在することをほのめかし、告発するような内容の歌詞になっています。また、第二楽章以降も、ソ連における生活の不自由さや偽善性を揶揄、告発しているとも取れるような歌詞が用いられています。

 

この曲の初演には当局から色々な妨害があり、多くの警官隊が包囲する物々しい雰囲気で行われています。

 

初演は大好評で迎えられ、友人のピアニストが「交響曲第13番でショスタコーヴィチは再び我々の仲間に戻った」と語っています。

 

管弦楽にバスの独唱と男性合唱が加わります。

 

 第一楽章「バビ・ヤール」

       未だロシアや世界に蔓延る”反ユダヤ主義”を糾弾する内容

 

 第二楽章「ユーモア」

      この世のどんな権力者、支配者もユーモアを手なづけることはできなかった、

      と歌われます。

      ショスタコーヴィチの「第7番」に批判的だったバルトークが「管弦楽のため

      の協奏曲」でこの曲を皮肉的に引用していますが、ショスタコーヴィチはこの

      曲でそのお返しをしているようですが、引用された「2台のピアノと打楽器の

      ためのソナタ」を知らないのでどこが引用箇所なのか分かりません。

 

 第三楽章「恐怖」

      スターリン時代の密告や粛清による恐怖はロシアで「死のうとしている」が、

      偽善や虚偽がはびこるという新たな恐怖が存在していると歌われます。

 

 第四楽章「出世」

      地動説を主張し続け軟禁されたガリレオを例に、世俗出世を捨て、危険を顧み

      ず、人々に呪われてでも信念を貫き、後の世に認められる生き様こそが真の

      立身出世であると歌われます。

 

 

🔸交響曲第13番「バビ・ヤール」

 

 アシュケナージ/NHK交響楽団のCDで聴きました。

 

 

  ショスタコーヴィチ:交響曲第13番「バビ・ヤール」

 

   セルゲイ・コプチャク(バス)

   二期会合唱団(男声)

   ヴラディミール・アシュケナージ/NHK交響楽団

 

  2000年のライブ・レコーディング。

 

🔸感想

 

  ショスタコーヴィチの数々の交響曲に込められた思いは、私たち日本人には直接的な理

  解は難しく、どうしても外面的な聴き方になってしまうのは仕方がないと思います。

  

  そういう聴き方をした時、「第12番」がとても分かりやす音楽であったのに比べ、こ

  の「第13番」は難しく感じました。

 

  ”これ交響曲なの?”というのが正直な感想。

 

  これならマーラーの「子供の不思議な角笛」のような歌曲集の方が分かりやすかったん

  じゃないかとも。

 

  ショスタコーヴィチは「交響曲第10番」でそれまでの路線を離れ、純音楽的で聴かせ

  る名曲を書いた後、それを否定するかのようにソ連の歴史を辿るような曲を書いてきた

  訳ですが、これはやっぱり同国人でないと理解は難しいように感じました。