第96回アカデミー賞に日本映画が3点ノミネートされました。

3点とも観たのですが、国際長編映画賞にノミネートされた『PERFECT DAYS』をお薦めしたい。

この映画の始まりからしばらくは、主人公《平山》の日常生活が繰り返し映される。

道路を清掃する箒の音で眼ざめ、起きて蒲団をたたみ・顔を洗って・歯を磨き・部屋に置いた植物に水を霧吹きし・服装を整え・入り口のガラス戸を開け・朝の空を見上げる。外に出るとすぐ側にある自動販売機で缶コーヒーを買って・ワゴン車を運転し職場に向かう。彼の仕事は公衆トイレの数個を担当する清掃員。丁寧な仕事で数か所のトイレをきれいにし・すぐそばの公園で軽く昼食・木漏れ日を浴びながらしばしの休息。これを使い捨てのフィルムカメラで写す。残りの担当トイレの清掃を済ませ、仕事を終えると近所の銭湯に行き・自転車で浅草の地下街にある定食屋で一杯やりながら夕食。古いアパートの2階の四畳半の一室で蒲団に入り、眠くなるまで本を読む。

この一日を繰り返し見せてくれる。淡々と同じことを繰り返す禅僧みたいで、この単調さを「パーフェクトデイ」だと伝えているのかなあ?といぶかって観てしまいました。ストーリーが進むと 家出してきた姪・行きつけの小料理屋のママとその元夫などが登場して 平山の過去や生き様を類推させる場面に次々光が当たった。カセットテープで聞き続けている古い音楽や、休日に買う古本が部屋に沢山あることからも彼の深みが感じられた。

最後のシーンは平山が車を運転する顔のアップが長く続き この間 役所広司の顔だけで映画を終わらせた。素晴らしく印象深いシーンだった。

帰宅後YouTubeでヴィム・ヴェンダース監督へのインタビューを見つけた。1~6弾まであって通して見聞きすると1時間以上たっぷりの時間がかかるが、この映画の価値がさらに感じられた。こちらも中身が濃く是非ご覧いただきたく推薦する。監督が小津安二郎を敬愛していることや、主人公平山の名前が「東京物語」で笠智衆が演じた主人公からとったものだと知れて嬉しかった。

役所広司へのインタビュー、田中泯へのインタビュー、脚本の高崎卓馬へのインタビューもあって、この映画が作られた経緯や日本側とヴィム・ヴェンダース監督とのやり取りも知れて興味深かかった。

映画を観終わった時に、関係している方々の声をこんなに多く聴いたのは初めてだった。

 

映画に仕合わせたというより、ヴィム・ヴェンダース監督と仕合わせた、役所広司が演じた平山さんに仕合わせたと言った方が適切だと思った。

(ライター:山口一郎