掌編 夏の記憶 その二 「忍ばせた想い」 | 信の虹 ー신의 nijiー

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ここは韓国ドラマ「信義」の登場人物をお借りして楽しんでいる個人の趣味の場です。
主に二次小説がメインです。ちま(画像)の世界も大好きです。
もしも私個人の空想の産物に共感してくださる方がいらっしゃったら、
どうぞお付き合いください^ ^


~お礼と今後の予定です~

いつの間にか、夏の暑さよりも台風が心配な季節になりました。
りえさん主催の夏祭り、幾日かかけて楽しませていただきました^ ^
読んでいただいた方、読ませていただいた方、全ての方に感謝です。

今回のお祭りにどんなネタを出品(?)しようか考えながら、
思いつくままに書き散らかしてあったお話しが二つ三つありまして。
せっかくなので、今日から不定期で載せていこうと思います。
内容がかなり単純明快というかシンプルというか…。
お時間がある方だけ、暇つぶしに読んでいただけたら嬉しいです。
あと、できたら加えて夏祭りのリクエストのお話しも一つ…と思っています。

そしてその後はいつもより少し長めのお話しを、時間をかけて書いていけたらいいなと思っております。
内容としては
「紅巾に都を追われ、長期戦に挑むヨンと避難先で過ごすウンスの、二人のそれぞれの日々」
を考えてます。
↑最後まで書けるのかイマイチ不安ですが、、。合間にリクエストなぞ挟んでみようかと無謀な事も考えてますσ^_^;
無理そうだったら早めに撤収するかもしれません。苦笑

ではでは、前置きが長くなってすみません。以上です^ ^

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夏の記憶 その二「忍ばせた想い」




「あー、暑い。あっついな。もう死にそう…」

雪崩を起こした綿の山のように、夏雲が青空に膨れ上がっている。
気怠そうに卓に突っ伏すウンスを見て、

「夏とは、暑いものにございます」

漢方医の先生はいつもの涼しげな声でそう答えた。
が、首を傾げると
「もしや天界に夏というものはございませんか?」
と真面目な顔で付け足した。

「いえ、あるけど…」
高麗の夏は暑い。暑すぎる。
いや、温暖化が進んだソウルよりは涼しいのかもしれない。

「しっかしどっちにしても、エアコンがないんじゃねー。せめて扇風機…」

今神様に一つお願いが出来るなら、ソウルへ帰らせてくださいというより、
今すぐ涼しくしてくださいと願ってしまうかも知れない…。
などと、くだらぬ事を考えていると何やら急ぎこちらへ向かう足音が聞こえる。

「如何しました」

頭の上で突然あの低い声が聞こえ、ウンスは少し驚いて顔を上げた。

「え、なにが?」

「いえ、イムジャが死にそうに具合が悪いと聞いたもので」
眉を寄せて言うその人は、珍しく息を弾ませ呼吸が荒い。

「え、元気だけど?」
ほらこの通り。と肩をすくめてみせると、
目の前の武士(ムサ)は安堵したように息を吐き出し、肩を落とした。


「もしかして、心配で来てくれたの?」
と、ふざけて聞くと

「いえ」
と、避けるように目を伏せて口ごもる。

そんなに無愛想に否定しなくてもいいじゃない。ちょっと聞いてみただけなのに。
ムサは社交辞令ってもんを知らないのかしら。
そう思いながらも、外で水を撒く薬員に目をとめると

「あ、いいこと考えた」
チェ・ヨンを気にせず目の前を通り過ぎ、外に出る。
井戸水をふうふう言いながら汲むウンスを見て、無愛想なムサが後ろから来て手伝ってくる。
あ、どうも。と小さく礼を言うと、ウンスはバケツ程の大きさの手桶にたっぷりと水を入れた。
それをよいしょ、と近くの石段へ運び木陰を選んで腰掛ける。
ちゃぷんと音を立てて、揃えた両足をつま先から突っ込んだ。

「は~、少しはマシだわ」
ぱたぱたと胸元の衣をつまんで風を送り込み微笑むウンスの耳に、再び低い声が聞こえる。

「医仙」
しかめっ面でこちらを見ている。

「何よ」
知らない振りで涼しげに言ってやる。

「……」

チェ・ヨンが少し離れたところから、"何が言いたいのかわかっているはずだ。"という雰囲気を一層強く発し
衣が捲れ上がったウンスの足元を見ぬように、もう一度
「ですから」
と、促すように声をかけた。

ウンスは諦めたように大きく溜息をつくと、
「はいはい、分かったわよ。女人は足を見せちゃあいけないのよね」
だって暑すぎるんだもの。ぶつぶつ言いながら立ち上がり、桶から足を引き抜く。その途端、

ーやはりと言うか、案の定と言うかー

足元をつるりと滑らせ、ウンスの体は傾いた。

「わわわ」

ばっしゃん。

桶ごと一緒に尻もちをつくかと思いきや、大きな腕に抱きかかえられて宙に浮く。

「…あ、ありがとう」

「…いえ」

ヨンは努めてぶっきらぼうに答えると、ほんのり赤らむウンスの頬から目を逸らせた。
見てはいけない気がして視線を下へずらすと、先程緩んだ胸の合わせが目にとまる。
息を飲んで今度は顔ごと横へ逸らせると、ぽたりぽたりと雫が落ちる白い足先が目に入る。

チェ・ヨンは頭をぶるりと振るわせると、早々にウンスを下ろし
「某はこれで」
と、言い終わらぬうちに背を向けその場を後にした。

「ちょっと、なんで急に地面に下ろすのよ。
足が汚れちゃったじゃない…」

聞こえぬように言ったつもりだったが、すぐさま青藍の衣の大きな影が肩をいからせてウンスのもとへ戻ってくる。
何故か眉を寄せてウンスの方を見ぬまま、懐から出した手拭いを押し付けるように手渡すと
「これで拭きなさい」
と、それだけ言って去っていった。

「なんなのよ…」

優しいんだか、冷たいんだか分からない。
無理に攫ってきたくせに、命をかけて守ってくれる。
鼻が触れるほど近くに寄ったかと思えば、戸惑うように離れていく。

「…ま、いっか」

ウンスは自分に言い聞かせるように呟くと、
今度は大きな声で

「すみませーん、誰かいます?拭くものを持ってきて欲しいんだけど…」

トギが扉から顔を出し、不機嫌そうに「手間のかかる奴だ」と言いたげにこちらへ来る。

「えへへ。ごめんね」

ウンスはごまかすように笑いながら、先程渡された男物の大きな布を
自分の胸元へ大事そうに、そうっとしまった。