破鏡重円〜再婚 2.蝶を追う | 信の虹 ー신의 nijiー

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ここは韓国ドラマ「信義」の登場人物をお借りして楽しんでいる個人の趣味の場です。
主に二次小説がメインです。ちま(画像)の世界も大好きです。
もしも私個人の空想の産物に共感してくださる方がいらっしゃったら、
どうぞお付き合いください^ ^


王様が一番の信頼を置かれているという、大護軍チェ・ヨンの屋敷。
敷地こそ広いが、上官が住まう屋敷にしては素朴な佇まいだ。
入母屋造りのその屋敷は、母屋の他に客殿、蔵や納屋、庭を眺める東屋もある。

近頃その客殿が、何やら造り変えられたのち、その裏口に「柳医院」という看板が立てられた。
墨黒に書かれた威厳の漂う看板のその字体とは裏腹に、拙い文字で「化粧品もあります!」と書かれた紙が、無造作にペタリと貼ってある。

はじめこそ、パラパラと顔見知りしか訪れぬ静かな医院だったが、そのうち次第に評判になり、沢山の患者が集まるようになっていた。
評判が広まったのは、手裏房の協力のせいもあったのだろうか。
ヨンは「余計なことを。」と、苦い顔をした。


午後の短い一時、珍しく昼間に屋敷に居るヨンと、庭の東屋に並んで腰をかける。
「敷地はいっぱいあるから、そのうちここで薬草を育ててもいいかな。王宮から分けてもらってるけど、、公私混同しちゃ悪いし。っていうか、トギがやな顔するし。」
そう言いながらもウンスは嬉しそうに話した。
毎回嫌味を言われているのは、手の動きで何となく分かる。
しかし何故か薬草を摘み終わるといつも、「寄って行け。」と言わんばかりにお茶が卓に置いてあるのだ。

ヨンは仕事の話しをする時の、活き活きとしたウンスの顔に微笑みながらも、念の為もう一度釘を刺した。
「いいですか、今後も医院を開くのは七日のうち三日。一日は王妃様への往診、あとの三日は家でおとなしくしている事。」
「分かってるわよ、、。でもさ、家の事はソリョンとチョソンさんがしてくれるから、やること無いし、、」
「俺と離れていた時代にも、医員としてたいそう評判になったというではないですか。おかげで役人が検めに来て危ない目にあったと。」
「でも、今はあなたも居るし。第一、高麗の英雄と言われる大護軍様のお屋敷なのよ?お役人が来るわけも無いし。なんなら「王家のお墨付き」って噂も手裏房のみんなに流して貰えば、、」
「駄目です。」間髪入れずに返答が飛ぶ。

「ちぇっ。大体あなた、口を開けば「家に居るのも妻の役目」とか言うけど、家でボンヤリしてるのが妻の役目な訳?変なのっ。」
「ボンヤリしているのならまだ良い。薬や化粧品の研究などして、結局医院に篭りっきりでは無いですか。」
「そうだけど…」と、ウンスが口をすぼめるのを見ながら、ヨンは呆れた顔で優しく言った。

「あなたを見ているとまるで、捕まえられぬ蝶を追いかけている心地になる。」
隣りに座るウンスの膝にそっと手を置き、顔を寄せる。
すっと近づいてきた黒い瞳に思わず吸い込まれそうになるが、"昼間に外で"は照れ臭い。
ウンスは避けるようにさっと立ち上がり、
「あらあら旦那様、私が蝶々だなんて。嬉しいわ。」
そう言って、赤らんだ頬を隠すように両手の袖をヒラヒラ揺らし、ふわりと飛ぶように歩き出した。


「あ、妻の役目と言えば。」
そろそろ屋敷に入ろうと並んで歩いていると、思い出したようにウンスが言った。

「前にテマンが話していたソウンさん、一度家に呼んでゆっくり話しを聞いてあげたら?」
「何故です?」
「その人、最近あなたの軍の副将を勤めてるんでしょう?武閣氏の子達が言ってたわよ。チュンソクさんがあなたの右腕なら、ソウンさんは左腕ですって。お酒でも飲みながら、部下の悩み事を聞いてあげるのも上司の務めってもんでしょ?そして、そんな夫を支えるのが、妻の役目。」
自分の胸にポンと手を当ててウンスは続けた。
「それとね、一度やってみたかったの。『いつもうちの主人がお世話になっておりますぅ』って。」
ウンスはわざとらしくペコリと頭を下げて、お辞儀をしてみせた。
「…必要ありません。テマンも言っていたではないですか。ただの色惚けだと。」
「そうだけど…」

ヨンの事を尊敬して、深く慕っているというチョン・ソウン。
王宮で一、二を争うイケメンだという評判を聞き、実物を見てみたくなったのだ。
王宮へはお忍びで通っているため、ヘタにうろつくことはできない。
もしも坤成殿以外の場所をほっつき歩いてヨンに見つかったら、それこそ大目玉だ。

と、考えを巡らせていると、不意にヨンの顔が近づき、温かいものが口に触れた。
「ちょっとっ。」
叩こうとしたが、ヨンは既に三歩先を歩きながら振り向いて言った。
「先程、避けたからです。」
子供のような笑みを浮かべた後、ウンスが何か言うのを遮るように、
「では、そろそろ予定の軍議の刻ですので、俺はこのまま王宮へ行きます。今日は遅くなるので先に休んでください。」

文句を言うべきか、いってらっしゃいと言うべきか。と、ウンスがまごつく間に、ヨンは背中を向けて後ろ手に手を振り、行ってしまった。

その横で、垂れ枝いっぱいに咲いたレンギョウの小花達が、
ヨンの手振りを真似るように、幸せそうに小さく揺れた。