私は、十年ほど前に、Hiroshimaという詩を書いた。顔見知りに戯れに見せたら、題字をちらりと見ただけで、あんた、どう個人的にかかわりがあるの、と訊かれた。どういう意味かと問うと、そこにいたはずないよなあ? と言う。ご覧の通り生まれていなかった。親戚に被爆者がいるの? いない。広島に住んだことあるの? いや。それじゃ、話にならないよ。そんな他者があれこれ言っても無意味だね。ほんと、いやったらしいんだよねえ、関係ないくせに原爆のこと、いかにも、もったいぶって、知ったようなこと、言うやつ。
ははあ、当事者以外は、黙っていろ、ということか。だが、その理屈の本質は何か。被爆して死んだ人たち以外は黙っていろということだ。死んだ人たちは当然無言だ。つまり、残された人間は当事者ではないから発言する資格がない。発言する資格がある真の当事者は、死んだ者だけだから、発言できない。結局、いかなる発言もありえないことになる。
こういうことをやっているから、また、原爆が落ちてくるのだよ。


Hiroshima


白日晴天 夏盛り
天空はるか 一万メートル
朝 陽光の真ん中に
銀無垢機体は エノラ・ゲイ

操縦席の後ろには 
ティベッツ大佐が仁王立ち
厳粛 朗々 唱えあげる


May God save America
(神よ アメリカを救いたまえ)
十一人の部下 唱和
May God save America


Under the  name of God
(神の御名において)
Under the  name of God


Let down the eternal punishment
(劫罰よ 下れ)
Let down the eternal punishment


Amen! 
(アーメン!)
Amen!


震える指でボタンを押すと
ティベッツ大佐は大音声


Dash out!
(全速脱出!)


街の西北 鏡山
ふもとの農家の屋根裏部屋
三脚の上に望遠鏡
のぞいているのは保君
中三 天文部 部長
夜 寝るまえに
朝 野良のあと
必ず見るのが空の星

今 
望遠鏡にうつるのは
薄れて白いあけの明星

あれあれ 視野がまばたいた
鳥? 隕石? 戦闘機?
焦点合わせに大わらわ


錐もみ状態 でっかい図体
はちきれそうな紡錘形 
黒光りする物体は
朝日を浴びて
青を貫く


突然黒の塊は
ゆらりとそこに踏みとどまった
安定尾翼が空をつかんだ

姿勢正した猛禽は
はっしと獲物を睨みつけた


獲物はまったく気づいてない 
逃げることなどできはしない
獲物はいたちやウサギじゃない
朝の活気がうなりをあげて
眼下に広がる広島市街


保君
猛禽の腹に見たものは
太字で書かれた
LITTLE BOY


炸裂までにあと五秒