8/7、過去に何度もナゴルノ・カラバフを巡って戦争、紛争をしてきたアルメニアとアゼルバイジャンが和平条約を結びました。

 

これがアルメニア国民にとってはびっくりするくらいの売国条約で、国の一部を切り売りするようなものとなっていて、この条約で儲けるのは アゼルバイジャン、トルコ、米国で、損をするのが 国土の一部を格安で売却したのと同様のアルメニア国民、地政学的な脅威が増すロシアとイランで、特にイランについては安全保障上、受け入れがたい内容となっていますので、今回ブログ記事で取り上げたいと思います。

 

まず、アルメニア、ロシア、アゼルバイジャン、カスピ海、トルコ等の位置関係が分からない方もいらっしゃると思うので、それらが分かりやすく表示されている地図を下に貼り付けておきます。

 

 

上の地図の中のNKRと表示されている部分が かつてのアルメニア人の独立地域だった”アルツァフ共和国”があったナゴルノ・カラバフ自治州の場所です。。ここはロシアも含めた世界のほとんどの国がアゼルバイジャン領土だとしている場所ですが、アルメニアとアゼルバイジャンはソビエト連邦から独立する前から、この場所の領有権を巡って争ってきました。

 

そして、    1988年2月20日 - 1994年5月12日の第一次ナゴルノ・カラバフ戦争ではロシアの支援を得たアルメニア側が勝利するも、    2020年9月27日 - 2020年11月10日の第二次ナゴルノ・カラバフ戦争ではトルコ、イスラエルの支援を得たアゼルバイジャンが勝利してナゴルノ・カラバフの大部分を取り返し、そして2023年になってさらに残りの部分を取り返す為に停戦合意を破ってアゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフにいるアルメニア人部隊を攻撃、アルメニア人を事実上このエリアから追い出して「民族浄化」を行いました。

 

この時にナゴルノ・カラバフにいる同胞のアルメニア人を見捨てておきながら、ただロシアを非難していたのがアルメニアの現首相ニコル・パシニャン氏です。

 

 

パシニャン氏がなぜロシアを非難していたか というと、アルメニアとロシアの間には同盟関係があり、アルメニアにロシア軍基地もあるのに、ナゴルノ・カラバフのアルメニア人を軍事支援しなかったから ということなのですが、パシニャン自身が何も動かず、放置してナゴルノ・カラバフの同胞を見捨てるようなことをしておきながら、ロシアを非難する というのは全く持って理不尽なものでした。

 

なぜなら、ロシアとアルメニアの間の軍事同盟は「アルメニア本土が攻撃されたらロシアが参戦する」というものですので、そのロシアがナゴルノ・カラバフをアルメニア領と認めておらず、アゼルバイジャンが攻撃したのもアルメニア本国ではなかったので、ロシアがこれでナゴルノ・カラバフに軍隊を派遣してナゴルノ・カラバフにいるアルメニア人部隊を軍事支援 など、ありえないことなのです。

 

それに、ロシアは2020年の第二次ナゴルノ・カラバフ戦争において、フランスやアメリカも仲介しようとして失敗したところを ロシアだけが仲介で停戦させることに成功し、それ以来、停戦監視としてロシア軍の軽武装した部隊が送られ、アルメニア本土とアルツァフ共和国を結ぶラチン回廊の監視などを行っていたのです。

 

そして、ウクライナ戦争でロシア軍が余裕がなくなっているのを絶好のタイミングと見たのか、2023年にアゼルバイジャンは停戦合意を破ってラチン回廊を封鎖して物資がアルメニアからナゴルノ・カラバフに入れないように封鎖したり、いきなり攻撃を仕掛けてきた時には「間違えて撃った」と言い訳しましたが、停戦監視任務にあたっていたロシア軍兵士をアゼルバイジャン軍が13人殺害する ということまで起きています。

そして、トルコ製のバイラクタル・ドローンを駆使したアゼルバイジャン軍の猛攻で、カラバフに取り残された民間人がアルメニア本国に避難するしかない状態になった時、アルメニア人の民間人の避難を手伝ったのもロシア軍兵士たちでした。

 

パシニャンはカラバフにいる同胞を見捨て、何も助けなかったにも関わらず、カラバフにいる民間人の避難を助け、アルメニアの為に13人の犠牲者まで出したロシアを非難したのです。

 

そのような経緯でナゴルノ・カラバフではアゼルバイジャンが領土を取り戻した というだけではなく、事実上の民族浄化が起こり、ほとんどのアルメニア人が追い出されたわけですが、何もせずにロシアだけを非難したアルメニア首相パシニャンの売国ぶりはこれに留まりませんでした。

 

今度は アゼルバイジャンの飛び地であるナヒチェヴァン共和国に通じる回廊(アルメニア領にある回廊)まで、米国に売り渡したのです。

 

下がナヒチェバン共和国の位置、ならびに アゼルバイジャンとトルコとを結ぶ、アルメニア領のザンゲズール回廊です。

 

 

今回、トランプ大統領の仲介でアルメニアとアゼルバイジャンが結んだ和平というのは このザンゲズール回廊を米国に対して100年間リースする というものなのです。(しかも、終了後も交渉により期間の再延長も可能)

この回廊には 米国の契約者の民間軍事企業の軍人が配備されて、「物資の安全な通行」を監視する ということになっています。

 

上の地図で分かる通り、イランの国境線沿いをこの回廊が通っていることに着目して下さい。

この回廊への米国民間軍事企業の配備に対し、最も神経を尖らせているのがイランです。

 

イランは 今回の和平合意に関し、下のようなコメントを出しています。

 

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イラン・イスラム共和国は 南コーカサス地域における進行中の情勢を注視しており、これらの出来事に対して、隣国であるアゼルバイジャン共和国とアルメニア共和国の両方と連絡を取り合っています。

コーカサス地域の平和と安定は地域の全ての国の関心事です。イラン・イスラム共和国は 両国間の和平協定の締結を歓迎し、これをこの地域における永続的な平和を達成するための重要な一歩と考えています。

 

同時に、イラン・イスラム共和国は 特に国境付近におけるあらゆる形態の外国の介入が地域の安全と永続的な安定を損なう可能性があることへの懸念を表明します。

 

イラン・イスラム共和国は 国家の権利と利益を守るために必要な全ての政治的、法的、経済的措置を講じるというコミットメントを再確認し、通信ルートの確立と輸送網の閉鎖の解消は相互利益、国家主権の尊重、領土安全の枠組みの中で、外国の介入なしに実施される場合にのみ、地域の人々の安定、安全、経済発展に貢献すると考えています。

 

イラン、イスラム共和国は 3+3メカニズムを含む二国間及び地域的なイニシアチブを通じて、地域の平和、安定、経済発展を維持するために、アゼルバイジャン共和国及びアルメニア共和国との相互利益に基づく建設的な努力を継続する用意があります。

 

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上のコメントを読めば分かる通り、イランとの国境線沿いに 米国の民間軍事企業の兵士が配属され、イランに睨みを利かせることになるのです。アルメニアとアゼルバイジャンの和平そのものには反対はしないし、歓迎されることだけれども、「外国の介入」という言葉を二度使って、米国への懸念を表明しているのがイランの立場です。

 

そして、ロシア側の反応はどうか というと、やはりイランと同様に、表向きはアルメニアとアゼルバイジャンの和平は良いことだ とは言っていますが、2020年の第二次ナゴルノ・カラバフ戦争で仲介に成功し、2023年の紛争では ロシア軍の犠牲者まで出した、ロシアの「和平への貢献」を忘れてもらっては困る というコメントをロシア外務省の報道官、マリア・ザハロワ氏がが出しています。

 

(上の写真はアルメニアの通信社の記事を日本語化したもの:バクーはアゼルバイジャンの首都でエレバンはアルメニアの首都)

 

また、ロシアの通信社は これは「アルメニアの完全降伏」として、パシニャンを非難しています。

非常に納得できる内容ですので、今回はそのロシアの通信社のスプートニクの一連のTweetをご紹介します。

 

 

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①密室での取引
裏では、パシニャン首相が米国に対し、ザンゲズール回廊—カスピ海への重要な地政学的ルート—の100年間のリースを提案したと報じられている。
アメリカの民間企業がそれを「管理」するための交渉が進行中である。
これは和平プロセスではない。地政学的な譲歩である。

 

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②主権? そうでもない
🇺🇸 米国が支配するザンゲズールは、アルメニア内部での域外統治を意味
します。
パシニャンにとって、これはトルコ/アゼルバイジャンに対する安全保障の保証です。
しかし、米国は一貫して小さな「同盟国」を保護しないことを示してきました。

 

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③なぜ米国が関心を持つのか
ザンゲズールは、米国にとってカスピ海のエネルギー資源と中央アジアへの近道
です。
それだけではありません:

🔹 ヨーロッパのエネルギー多様化
🔹 イランへの圧力
🔹 南コーカサスからロシアを切り離す


これはアルメニアの安全保障に関するものではありません。

 

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④ロシアとイランはどうなる?

🇮🇷 北–南輸送回廊はアルメニアを通ってイランとロシアに繋がっている。
🇷🇺 ロシアはすでに西側の干渉に対して警告を発している。


これはアルメニアの問題ではない。米国がザンゲズールへの進出を推し進めることは、この戦略的ルートに直接的な挑戦を意味する。

 

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⑤パシニャンは何を望んでいるのか?

パシニャンはアルメニアをロシアの影響圏から引き離し、西側に固定したいと考えている。

しかし、彼はアルメニアが以下のようなリスクを冒すことを気にしていない:

🔹経済崩壊
🔹戦略的孤立
🔹領土の分断

 

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 ⑥NATOの夢:現実チェック
パシニャン氏は明らかにアルメニアを西側ブロックに統合しようとしています。
しかし、ジョージアを見てください:数十年にわたる忠誠の後、何も得られませんでした。

 

 ↓

⑦アルメニアを本当に守るのは誰?
 

パシニャン首相は、CSTOとの関係を解消し、カラバフに関するプーチン大統領の合理的な提案を無視することで重大な過ちを犯した。
ロシアだけが現地に実戦部隊を持っている——ギュムリに軍事基地がある。それを撤去したら、誰がアルメニアを守るのか?

 

 ↓

⑧長期的な権力ゲーム

 

 米国は1990年代からコーカサス地域に注目してきました。 ウクライナ戦争後にエネルギー価格が高騰し、代替ルートの必要性がさらに明確になりました。 ザンゲズールは、はるかに大きな戦略的ゲームの一部であり、アルメニアはその主権を犠牲にしてその代償を支払うことになるでしょう。

 

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このように、ロシアの通信社は パシニャンの売国的行為を非難し、自国の安全保障の脅威にもなる米国の民間軍事会社の兵士の配備や米国が介入してアゼルバイジャンの石油やガスがEUに輸出されることでロシアにとってのライバルになることや、このザンゲズール回廊が 物流分野でロシア→アゼルバイジャン→イラン→インドと結ぶ南北輸送回廊のライバルになるとも見ているわけです。

 

トランプ大統領はノーベル平和賞を取りたくて仕方がないようで、このザンゲズール回廊は「トランプルート」と呼ばれる とか、アルメニアとアゼルバイジャンがトランプをノーベル平和賞に推薦した 等とアピールしています。

 

そんなにノーベル平和賞が取りたいのなら、トランプ氏がまずやるべきことは 米国からイスラエルへの兵器の流れをストップしてイスラエルに虐殺をやめろ と言うことがまず第一でしょう。

 

それをやらずに、このような米国の利益になることだけ、介入してきて「和平を仲介した」と世界にアピールしても ガザでの惨状、非人道性をリアルタイムで見ている世界中の人は トランプがノーベル平和賞にふさわしくない と思っているはずです。