コメの価格高騰に多くの庶民や飲食店が苦しんでいる中、「備蓄米」が放出された とのことですが、私はまだ地元で一度もその「備蓄米」が並んでいるのを見たことがありません。
カリフォルニア産の「カルローズ米」ならばよく見るのですが、私のように、日本米の備蓄米を一度も見たことがない というのはどういうことなのでしょう。
また、備蓄米の放出後も「15週連続で値上がり」というニュースが見られますが、なぜ価格が下がらないのでしょう?
原因はいくつか挙げられると思います。
■ 備蓄米はあるのに、市場に出回らない理由
現在、政府は「備蓄米」を放出していますが、流通の現場ではその恩恵はあまり感じられていません。というのも、この備蓄米の多くをJA農協が買い取り、政府の買い取り保証もある中で、価格が下がらないように少量ずつしか流通させていないためです。
その結果、店頭に並ぶまでに時間がかかり、価格も新米と大差がない状態となっています。
下にNHKから参考になる記事がありますので、一部引用します。(青字の部分が引用)
店頭に並ぶまでに時間
先月、入札が行われた備蓄米は、まだ多くが流通の過程にあって、店頭に並ぶまで時間がかかっているという見方があります。
江藤農林水産大臣は、今月8日の記者会見で、備蓄米がスーパーなどの店頭に本格的に並ぶのは今月10日ごろになるという見通しを示した一方、翌週15日の会見では、中小のスーパーなどから「店頭に並ぶのは、早くても4月末から5月になる」といった声が出ていることも明らかにしています。
農林水産省によりますと、1回目の入札で落札された14万トンあまりのうち、先月30日までにJAグループなどの集荷業者が倉庫から引き取った量は4071トン、そのうち卸売業者まで引き渡されたのは、2761トンでした。さらに卸売業者から小売業者に渡ったのは426トン、外食業者などに渡ったのは35トンで、消費の現場に届いた量は、あわせても全体の0.3%にとどまりました。
これについて農林水産省は「通常のコメに加えて、備蓄米も流通することになるため、トラックの手配や精米の作業の調整などにはどうしても一定の時間がかかる」としています。
■ 減反政策が生んだ構造的な供給不足
コメの供給不足の根本には、長年続けられてきた減反政策(生産調整)があります。JAと農林水産省は、コメの需要が年々10万トンずつ減るという前提で、水田面積の約4割に相当する規模で減反を進めてきました。
その結果、2023年の作況指数は101とほぼ平年並みにもかかわらず、生産量は前年比で9万トンも減少。供給不足は政策的に仕組まれていたとも言える状況です。
また、全農と卸売業者の間での取引価格は、60キロあたり2021年産で12,804円だったのが、2023年産では15,306円(7月には15,626円)へと急上昇。わずか2年で20%も値上がりしました。
(出典:「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去り)
■ 海外輸出に注力する政府の矛盾
驚くべきことに、日本政府は国内の供給不足にもかかわらず、コメの輸出を積極的に推進してきました。
下のグラフはおもな輸出相手先国や地域です。(出典:日本の米は世界一?米の生産量などの世界ランキング2024【最新】)
2024年の輸出量は45,112トンで、前年比21%増、2020年比では倍増です。主な輸出先はアジアや欧米で、米国内でも日本のコメが日本よりも安く売られているケースもあります。
その結果、アメリカで日本のコメを買ったほうが安く買える という逆転現象が起きています。
たとえば、日本では本年2月10~16日に5キロあたり3892円の売値だった時、アメリカ・カリフォルニアでは5キロ25ドル(約3700円)で日本のコメが販売されていた という記事があります。↓
■ コメ農家への逆風と外圧の影
さらに問題なのは、国内価格が高騰する中で、最悪のタイミングでトランプ政権下のアメリカからの圧力で「米国産コメの輸入拡大」が交渉の俎上に載っていることです。
日本政府は 今までも 米国から貿易の黒字を指摘されるたびに、オレンジや牛肉の輸入を行ったり、農薬の規制を緩めて収穫後のポストハーベスト農薬(オレンジに使っている防カビ剤等)のOPP(オルトフェニルフェノール)を強引に「食品添加物」として認めるなどして、農家と農産品の安全性の両方を犠牲にしてきたのです。
→日本は1980年代後半、米国からの強い外圧(いわゆる「日米構造協議」や「スーパー301条」など)を受け、国内農業保護政策の見直しを迫られました。その結果、1991年に牛肉とオレンジの輸入自由化が正式に実施されました。
国産のコメの価格高騰が続く中で、米国産等の海外のコメの大幅輸入拡大を図ればどうなるか・・・ただでさえ国内農家の高齢化や減反政策による離農が進む中、コメ農家をやめる人がますます増えるでしょう。
政府は自らの農業政策失敗のツケを農家と消費者に押し付ける形となっています。これが農家の離農加速を招き、長期的には自給体制の崩壊を招きかねません。
■ 農協が価格を下げたくない理由は?
農協が価格を維持したがる背景には、農林中金の巨額損失もあるのでは という疑いもあります。
2024年5月、農林中金は米国債などの価格下落により、2025年3月期に5000億円の赤字を見込むと発表しました。
これに対処するため、JA農協から1兆2000億円の資本増強を受ける計画です。
ついに「農協崩壊」がはじまった…農林中金「1兆5000億円の巨大赤字」報道が示す"JAと農業"の歪んだ関係 農協マネーを外国債投資で溶かした根本原因
最後に、
※食料安全保障という観点から見たコメの重要性について
日本で唯一ほぼ完全に自給できる主食であるコメは、食料安全保障の要でもあります。世界の食料市場が不安定化する中、過去には ロシアが2010年の猛暑と干ばつにより穀物の輸出を停止し、小麦価格が世界的に高騰したことがあります。
また、オーストラリアも2018~2019年にかけて深刻な干ばつに見舞われ、東部地域では小麦生産が大幅に減少。国内では12年ぶりにカナダから小麦を輸入する事態となりました。
コメは日本にとって、全力で守らなけばいけない、唯一、自給自足できる主食なのです。
心配なことに、日本政府は愚かにも、自動車への関税を下げてもらう「取引材料」として、米農家を犠牲にしようとしています。
しかし、2024年の日本の対米貿易黒字は約8兆6,418億円で、これは 仮に米国産の穀物や肉類の輸入額を2倍にしても、貿易黒字を約1.1兆円削減することにしかならないのです。
トランプ大統領は 単純に輸出額と輸入額を比較して 貿易赤字を是正しろ というプレッシャーをかけてきているわけですが、安価な農産品の米国からの輸入を拡大したからと言って、対米貿易黒字を日本が是正などできるはずがないし、できないことを 約束する為に農産品を犠牲にすれば、日本の農業をさらに加速度的に衰退させることになるのです。
というわけで、国民はこの「令和のコメ騒動」に対して、もっと怒りの声を挙げるべきではないでしょうか。