先日からNATOの主要国のほとんどが自国が提供した兵器でロシア本土を打撃する許可をウクライナに与えたことに対し、ロシアは「GPS機能を使った長距離兵器(例えばATACMS、ストームシャドウ、スカルプ)が使われた場合、それを提供した国(米英仏)が事実上攻撃ターゲットの入力等の操作を行わないとウクライナ人はそれができないので、事実上、米英仏からのロシアへの攻撃だとみなす」とはっきり言っています。

 

そして、最近 盛んにロシア国内で議論されていることは 今までロシアが言ってきた「レッドライン」をNATOが何度も越えてきたにも関わらず、プーチン大統領の「西側反ロシア連合」への態度は あまりにも「我慢強すぎる」「甘すぎる」のではないか。ロシアはもっと強い態度でNATOからの挑発に応答する必要がある・・・という意見です。

これはテレビ番組などで政治家や専門家が出演してそのような議論がなされているようです。

 

日本も含めた西側メディアでは プーチン大統領のイメージを「元KGBの冷徹な殺し屋」とか、ヒトラーに例えるなど、全く頓珍漢で的外れなことを言っています。

しかし、国際政治アナリストの伊藤貫氏がよくおっしゃっている通り、プーチン大統領は ロシアで1,2を争う一流大学だったレニングラード大学(今のサンクトペテルブルク大学)の法学部を首席で卒業して、ソ連崩壊とともにKGBでの仕事がなくなって東ドイツからロシアに帰国した後は法学部の大学院で、将来教授になることを期待されて論文を書いていたところを大学の恩師がレニングラード市長になったのをきっかけに副市長になってくれと言われて政界に転身した という経歴を持つ、本来学者肌の政治家なのです。

 

もちろん、元KGB(FSB)長官とか、柔道やアイスホッケー等のスポーツが好きというそういうところも本当の姿ではありますが、私が言いたいのは プーチン大統領はロシア国内の政治家の中ではけっして「強硬派」ではなく、「常に理性的で突発的や情緒的な行動はけっしてしない」、ロシアが過去何十年間も受けてきた挑発を考えれば、「我慢強い」タイプのリーダーだと思います。これは実際にプーチン大統領に接したことのある多くの政治家や学者がそう言っています。

 

その我慢強いプーチン大統領が 今現在行われているサンクトペテルブルク経済フォーラムに当たっての記者会見で、NATOへの挑発に対し、”「非対称的」に仕返しをする”と言ったことが話題になっています。

 

この「非対称」戦 というのは 米のネオコンの元国務次官、ビクトリア・ヌーランドが辞任をする前、2/22に最後にキエフを訪れた際に スピーチをして「600億ドルの予算を早く通してウクライナ”非対称戦”を行うのを手助けしなければならない」というようなことを言いました。(注:この時点では610億ドルのウクライナ支援が通っていなかったのでそう言った)

 

以下はその時の ビクトリア・ヌーランドの発言(スピーチの一部)です。

 

 

(ヌーランド氏のスピーチ全文はこちらで読めます)

 

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政権が議会に要求した600億ドルの補正により、我々はウクライナの存続だけでなく繁栄を確実にすることができます。

この支援により、2024年にウクライナが戦い、建設、復興、改革を継続できるよう支援できるでしょう。

この資金があれば、ウクライナは東部で反撃し、戦場で最も効果を発揮した非対称戦争を加速させることができるでしょう。そして、私が3週間前にキエフで述べたように、この追加資金により、プーチンは今年戦場で汚いサプライズ(nasty surprises)に直面することになるだろう。

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ビクトリア・ヌーランドが言った”asymmetric warfare”(非対称戦争)と

nasty surprises の この2つの言葉がこの時に話題になって、nasty は 「汚い」 とか、「厄介な、下品な、酷い、意地悪な」 等という意味ですが、非対称戦争はいわゆる「ゲリラ戦」のことを指します。通常の戦闘方法では勝つことができない相手に対し、「ゲリラ戦」などの方法で相手を疲弊させることを「非対称戦」というのですが、まさにヌーランドはこの演説で、「テロのような汚いやり方も使ったゲリラ戦をウクライナにやらせる」ということを示唆していて、このヌーランドの発言は まるで予言でもしていたかのように、その1か月後の3/22金曜日にモスクワのクロッカス市庁舎ホールでの過去最大規模のテロ事件が起こったわけです。

 

そして、プーチン大統領が今回 ロシア語での表現で、”asymmetric response”(非対称な応答)と言ったのは おそらく 国務省を辞めた後も 未だにTV等に出演して先日も「ロシア領土奥深くへの長距離兵器での打撃」を主張していたビクトリア・ヌーランドへの 同じ言葉を敢えて使ったプーチン氏からの「返答」だと私は解釈しました。

 

    ↓(日本語に変換したもの)

 

 

しかし、プーチン氏は ヌーランドとは違い、どのようなやり方で「非対称戦」を行うか ということにも言及しています。

米英仏等が自らの兵器でロシア領土奥深くを攻撃するのならば、ロシアもロシア製の兵器を”米国等の敵”に対して与えることができる」と言ったのです。

 

これは 具体的には下のような選択肢が考えられるかと思います。

 

1.シリアを不法占拠している米軍基地をロシアがシリア軍に与えた兵器で打撃

シリアでは 米国はたびたび空爆をしてシリア軍や民間人を殺していますが、ロシアと米国の間には”暗黙の了解”みたいなものがあったのか、お互いに攻撃をしていませんでした。(シリア内のロシア軍基地や不法に基地を作っているアメリカ軍基地への米露の直接攻撃はなかった)

米国がレッドラインを超えたのだから、ロシアがそれに対して仕返しをする場合の選択肢の1つとして、シリア内を不法占拠している米軍基地をシリア軍がロシアが与えた兵器で攻撃する というのがあると思われます。

 

2. 米英イスラエルの船を攻撃しているイエメンのフーシ派にロシア軍がミサイル等を与える

これはイスラエルからの強い反発が考えられるでしょうが、ロシアがイラン製のドローンを大量に買ったりロシアが戦闘機をイランに売ったりしているので、イスラエルとロシアの関係は今とても冷え込んでいて、ウクライナでの戦争で当初ロシアに経済制裁をしない と言っていたイスラエルは 今では「自分たちの戦争が終われば、ウクライナを全面的に支援する」と言っているのです。

ですから、イスラエルとの関係がもっと冷え込んでも問題ない とロシアが考えるのであれば、この選択肢もあるかもしれません。

 

3. キューバや中南米の反米政権に対して武器支援する

これは 実際にキューバに今、ロシアの軍艦が向かっている との情報もあります。

ケネディ大統領とフルシチョフ書記長の時代に米がトルコに核兵器を配備した仕返しとしてソ連が核ミサイルをキューバに配備しようとした「キューバ危機」が起こりましたが それと似たようなことになる可能性があります。

そしてロシアが武器支援するかもしれない中南米の反米政権はキューバ、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグア等が考えられるかと思います。

 

 

以上、「米英仏の敵国」に対してロシアが兵器支援する可能性ということで 私がすぐに思いつくのは上の3つですが、これに北朝鮮や中国が加わる可能性が大いにあります。

 

それは米国だけではなく、日本や韓国の出方次第でそうなるのであって、日本や韓国が 米隷属をますます強めてウクライナに兵器支援するような動きに出れば、ロシアも北朝鮮や中国を支援する ということになるのです。すでに韓国は米を通じてウクライナに砲弾を出荷していますし、日本もTNT火薬やパトリオットシステムへのミサイルを米国経由でウクライナに輸出しているので「ウクライナを事実上、軍事支援している国」の中に入っているのですが、これ以上のウクライナへの軍事支援は 結局、ロシアによる北朝鮮、中国への直接支援につながる と思っておいたほうが良いと思います。

 

日本がこのウクライナ問題で 絶対にやってはならないミスを犯した と私が思うのは 日本政府が はっきり言って何の得にもならないウクライナ支援、ロシア敵視政策を行った結果、「ロシアと中国、北朝鮮の3か国を密接な関係にした」ということです。

 

日本は核保有国3か国に囲まれているにもかかわらず、「米国の”核の傘”に守られている」と思っている能天気な政治家のおかげで、ロシアを必要以上に敵視して、本来同盟国にさせてはならなかった3か国を接近させ、事実上の同盟国にさせたのです。

 

これでもし将来、日本が戦争に巻き込まれたり、日本がミサイルで攻撃されるようなことになれば、岸田文雄氏は「万死に値するほどの愚か者」だと私は思います。