G7各国等がロシアへの経済制裁としてやっていたロシア産石油への「プライスキャップ」政策ですが、完全に失敗に終わっています。
当初の予定では EUやアメリカが設定していたロシア産石油へのプライスキャップの価格は「1バレル当り60ドル」で、それを超えると保険がかけられなくなる というこの制裁を実行すれば、海上輸送の保険会社のほとんどは EU内にある保険会社なので、ロシア産オイルには保険がかけられなくなって、したがって買い手も無保険では購入しないし、海上輸送もできなくなるだろう・・・との甘い見通しでした。
しかし、下はロシアが石油をプライスキャップの上限を超える1バレル75ドル付近で売っている というニュースです。
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その国(ロシア)の主力のウラル級はバルト海と黒海を出港する時点で1バレルあたり75ドルで取引されている。アーガスメディアのデータによると、同国の価格査定は上限に関与する一部のG7諸国が観察している。
インドは 一時は アメリカからの圧力でロシア産原油を購入するのを中止していた時期がありました。しかし、また最近は再びロシア産原油を買い始めたようです。
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インドの石油精製のトップ企業はロシアのソフコムフロット船での貿易を再開
下はインドが購入しているロシア産原油の量が今年に入ってからまた、かなり増えているというグラフです。米国からの制裁が厳しくなって、昨年秋に一時期ロシアからの購入量が減ったものの、今年になってからはまた増えています。↓
(上のグラフ:黒い線がロシアから、ピンク色の線がイラクから、黄色がサウジからの石油です。)
下のニュースはインドがロシアの原油をかなりのディスカウント価格で購入しているので、それがコスト削減に役立っている との報道です。
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ニューデリー:インドは大量のロシア産原油を大幅割引で購入することで2023-2024会計年度の3/31終了の11か月間、推定79億ドルの石油購入費を節約したと、ICRAリサーチは火曜日(4/30)に発表した。
もしインドがロシア産原油を大量に購入しなかったならば、インドもインフレの影響を受けていたし、経済成長にも影響が出たと言われています。
下は中国が21%のGDPの伸びを記録した という記事。中国以外ではインド、米国、インドネシアが大きく成長している との分析です。
下は保険会社がロシア産石油へのプライスキャップは「不可能だ」といっているという記事です。
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主要保険会社、ロシア産石油へのプライスキャップはますます実行不可能になっている と発言。
■4月の時点で、IGがカバーしていたロシア産石油流出量はわずか16%だった。
■モスクワ(ロシア)は艦隊を西側の監視から遠ざけている。
下はInternational Group member (GI)でカバーできるロシア産石油のタンカーのシェアです。
今年になってからは特に下がっていて、今は20%を切って16%ほどになっています。それだけ、ロシア産石油は 西側の海上保険会社が関与しないところでトレードが行われている ということです。
下はタンカーの名前と国籍が変更されている という事例です。
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ブルームバーグがまとめたデータによると、これまで、少なくとも4隻のタンカーが名前を変更し、ガボンからロシアに国籍を変更した。
アメリカも世界に流れる石油の総量が減ると、自国の石油価格にインフレの影響が出てしまうので、インドに圧力はかけたものの、ロシア産石油の流れを止めようとまでは思っていないようです。
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経済担当のエリック・バン・ノストランド米財務次官補は ウクライナ戦争による供給ショックを防ぐために、エネルギー供給を維持することが米政府の利益になる為、米国はインドがロシア産石油を輸入するのを止めるとは決して期待していない。
米国の目的は ロシアの石油を止めることではなく、プライスキャップによってロシア政府の歳入を減らすことでした。(しかしそれも失敗している)
下はロシア政府の予算を示しています。
↓(日本語に変換したもの)
下はロシア経済についてのIMFのコメントです。
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再びこの回復力を大規模な防衛力の強化につぎ込みたくなるかもしれない。
しかし、ワシントンに本拠地を置くIMFはウラジミール・プーチン大統領のチームとほぼ同じ評価を下している:力強い雇用市場と急速な賃金上昇が個人消費の促進に貢献している。同基金(IMF)は失業率が過去最低となっており、「過熱の兆候が見られる」とさえ注意した。
ちなみにIMFが発表した2023年度のロシアのGDP成長率は3.2%で、これはイギリス、フランス、ドイツよりも高くなっており、米国の2.7%よりも高くなっています。
つまり、過去どの国も味わったことのない厳しい経済制裁をされたロシアが経済制裁をしたG7各国よりも高い経済成長率になっているのです。
ロシアが今困っているのは 労働者不足です。
しかし、これにも 最近は良い兆候が見られています。それは戦争直後にロシアを出て行った、主に徴兵年齢世代の男性とその家族が昨年からロシアに戻る傾向が強く出ていることです。
下は戦争直後に、どの位のロシア人が海外に逃げたかということと、その行先を示しています。
トルコに153,000人、EUに112,000人、イスラエルに51,000人、セルビアに24,000人、モンテネグロに14,000人 で、これだけで合計354,000人が出て行ったことになりますが、実際は近隣国のジョージア、アルメニア、カザフスタンにも多く出て行って、合計で最大100万人がロシアを去った時期もありました。(2022年)
しかし、今 この流れが 逆方向に向かっています。つまり、プーチン氏不支持、あるいは徴兵から逃れたい等の理由でいったんロシアを出国したロシア国民が 再びロシアに戻ってきているのです。トルコの場合、15.3万人のロシア人が2022年、トルコにやってきて、その半数以上の8万人が今はロシアに戻っています。
その理由は やはり ロシア国内の賃金急上昇に魅力を感じての帰国だったり、セルビアのような国民が親ロシアの国は別として、特にEU等ロシアの敵対国では「ロシア恐怖症」と呼ばれた、ロシア国籍者に対する差別や嫌がらせ等も一部にあったようです。(日本でも在日ロシア人に対してそのような嫌がらせもあったと聞きます。)
↓ (日本語に変換したもの)
下はロシアから出国していた移民の帰還が 2023年のロシア経済の成長に寄与したと言っている記事です。
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ブルームバーグの経済試算によれば、移民の逆流はロシアの経済成長率を1/5~1/3押し上げ、2023年に3.6%になった。
下はロシアの石油の価格がサウジ産やイラク産よりも安くなっている ということを示すグラフです。
以上のスライドは下のビデオからスクリーンショットしたものです。
ご興味のある方はビデオをご覧ください。
ロシア産石油がサウジ産よりも安くなっていて、インドがそれを大量に買っているという状況を見ると、日本がほぼ100%近くの石油を中東のみに依存しているのは 日本のエネルギー安全保障の観点からも 非常に危ういし、政府の中東への過度の依存政策が 国民の生活や経済成長の足を引っ張っているとも言ってよいでしょう。
もっとインドのように したたかに国益を重視した外交・経済政策を行い、米国にもはっきりモノが言えるようにならないと、「日本はウクライナと共にある」とか「アメリカと共にある」と安易に宣言してしまった日本政府は ますますインフレ、円安、ATMのようにウクライナ等にお金を出すことで、ますます庶民の生活を苦しめるだけではないでしょうか。