私は主に、日本のメディアのニュースではなく、海外メディアのニュースを追いかけている時間が長いので、日本のメディアが1/13に行われた台湾の選挙をどう報じているか、隅々まで見たわけではありません。

 

しかし、日本のメディアで目立ったのは「台湾総統選挙で(台湾独立派の)民進党の頼清徳候補が勝利」したということを大きく取り上げていることでした。

議会選挙でかなり民進党が議席を減らし、中国融和派の国民党の議席を1議席下回ったことについては 触れたくないのか、多くのニュースでスルーしています。

 

これはアメリカの属国である日本のメディアが「台湾の有権者の多くが”独立”を望んでいる」と思い込ませたい為の一種の世論誘導でしょうか?

 

今回 野党である国民党と民衆党(2019年結成)が総統選挙で候補を一本化するのに調整していたのが失敗したため、台湾総統選挙には民進党、国民党、民衆党からそれぞれ1名、計3名の候補が立候補していました。3党のうち、「台湾独立派」だと言えるのは民進党のみで、国民党、民衆党は どちらも中国とは対話重視 の姿勢です。

 

総統選挙での民進党、国民党、民衆党の得票数は以下の通りです。

 

民進党の頼清徳氏・蕭美琴氏のペア:558万6,109票(得票率40.05%)

国民党の侯友宜氏・趙少康氏のペアは467万1,021票(得票率33.49%)、
民衆党の柯文哲氏・吴欣盈氏のペアは369万466票(得票率26.46%)

 

つまり、もし野党が統一候補を立てていたら、台湾独立派ではないほうの候補(国民党+民衆党)のほうが836万票以上を獲得していたわけで、野党統一候補が民進党の頼清徳氏に勝っていた可能性が高かったのです。

 

また、議会(立法院)選挙の議席数の結果は下のようになっています。

  • 民進党 62議席→51議席
  • 国民党 38議席→52議席
  • 民衆党 5議席→8議席
民進党が10議席以上も減らして民進党が第二党に転落し、議席の過半数(57)を下回り、中国融和派の国民党が第一党になっています。
台湾の総統選挙、議会選挙でこのような「ねじれ」が起きたのはこれが初めて とのことで、総統になった頼清徳氏は 難しい議会運営を迫られることになるでしょう。
 
これが 日本のメディアが言っているような「台湾の民衆の”独立志向”を表している」と言えるでしょうか?
 
多くの台湾の方々が望んでいるのは 明らかに”現状維持”であって、中国と戦争はしたくないし、かと言って、今すぐ中国に飲み込まれたくもない・・・といったところではないでしょうか?
 
台湾の最大の貿易相手国が中国であって、台湾の輸出の25%以上が中国相手です。
世界の半導体の半分以上を占めるTSMCのオーナー郭台銘(かくたいめい)氏も山西省をルーツに持つ外省人二世です。
 
また、「台湾独立派」の人たちは いざというときに アメリカが台湾を守ってくれる ことを前提にしているのでしょうけど、公には「1つの中国」を支持する と言っているアメリカ政府ですから、台湾を防衛する可能性は限りなく低いと思います。
 
アメリカは政府の公式見解として、「1つの中国を支持する」「台湾の独立は支持しない」と言っていますが、その一方で、「力による現状変更は許さない」と言って台湾にはたくさんの兵器を売りつけ、ナンシー・ペロシ当時の米下院議長が台湾の蔡英文総統を訪問して敢えて中国を挑発する という、やらなくてよい政治的な動きを行ってきました。
 
それは台湾を守りたいからではなく、米国製の兵器を売りたいからなのであって、
台湾有事になれば、駆り出されるのは 米軍というよりも日本の自衛隊のほうです。
 
日本も ちなみに「1つの中国」と言っていて、公式には「台湾との外交関係は無い」ことになっています。
 
以下、NHKの台湾総統選に関する解説記事の頼清徳氏についての紹介記事の一部抜粋です。↓
__________
与党・民進党の頼清徳氏は64歳(1959年10月6日生)。

台湾北部の今の新北で炭鉱労働者の家庭に生まれました。

幼いころに父親を亡くし、苦学して内科を専門とする医師になりました。

1996年のいわゆる「台湾海峡ミサイル危機」を契機として政界に入り、1998年から4期連続で国会議員にあたる立法委員を務めました。

2010年には、台湾のなかで大都市として位置づけられる「直轄市」となった台南の初代市長に当選し、2014年の市長選挙でも72.9%という高い得票率で再選されました。

その後、高い実務能力と人気を買われ、2017年に、1期目だった蔡英文政権の首相にあたる行政院長に就任しました。

そして、前回・4年前の総統選挙に、副総統候補として蔡総統とコンビで立候補して当選し、その年の5月から副総統を務めています。

日本とは、立法委員や台南市長を務めていた時から交流があり、2022年7月には東京を訪問して安倍元総理大臣の葬儀に参列しました。

台湾メディアによりますと、現職の副総統が外交関係のない日本を訪問したのは、1985年に当時の李登輝副総統が訪れて以来で、極めて異例でした。
__________
 
 
ですから、「台湾有事は日本有事」と言っている日本のいわゆる保守派を自認されている人々は 台湾について、いったいどう見ているのか、日本政府の公式見解と異なる「独立国」だと見ているのか、それとも中国による統一、いわゆる”現状変更”に反対したいだけなのか、私から見ると、さっぱり分かりません。
 
日本はミサイルから身を守れるシェルターもない、核兵器もない、戦争となれば多数の日本企業や邦人が事実上中国で「人質」に取られてしまうことを考えれば、日本はどう考えても 近い将来に中国と戦争する準備等、全く出来てもいません。台湾に行って「一緒に戦う覚悟」と豪語したのは麻生太郎氏ですが、そのような威勢の良さだけでは何もできないのです。また、その威勢の良さと米従属政策だけで、日本ではない領土の防衛の為に、日本人の兵士や民間人を死なせて良いのですか? ということを私は問いたいです。
 
震災のたびに多額の寄付や連帯の意志を表明してくれるなど、台湾の方々が親日なので 多くの日本人は台湾が好きで、反日教育の影響を受けて日本が嫌いな人が多い中国の方々よりは 私も台湾に対し、圧倒的に親近感は感じます。
 
しかし、共感する気持ちや威勢の良さだけでは戦えないし、日本国の防衛もできません。公式には 貿易はあっても「外交関係は無い」ことになっている台湾について、兵器を売って代理戦争に引きずり込みたいアメリカの政策に日本が 引きずられるのは 本当に自殺行為だと私は思います。
 
なお、中国との国交正常化をしたかったが為に、事実上、アメリカと日本は台湾を見捨てた形になりました。これについては下の過去記事でご紹介しています。